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花天月地  作者: 功野 涼し
鬼ごっこ

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23/48

出会い

 家を出てニヶ月。桐は朝食後の片づけをしていた。


 お昼は何にしようかな? 最近素麺率高いかな?


 などと考えながら食器を洗っていると、背後から突然声が上がる。


「髪伸びたわね。そろそろ切りに行った方がいいんじゃない?」

「あわわわわわ!?」


 突然のことに驚き、洗ってたコップが落ちそうになるのを必死にキャッチしようとするが、洗剤で滑って手元でくるくる回す桐だったが、気合いでキャッチする。


 それを見ていた橘花が拍手して褒め称える。。


「橘花さん気配消して後ろに立つのやめてくれませんか。心臓に悪いです」

「そう? 日常生活にもドキドキがあった方が良くない?」

「いりません」


 桐の答えに少し嬉しそうな橘花が話を戻す。


「それで桐はどこか行きつけの美容院あるの?」

「行きつけとかは無いですけど」

「そ、じゃあ私の行きつけに連れて行ってあげるから予約取っておくわよ」


 橘花はそう言い残し事務所の方へ降りていく。桐は洗い物を続けるが、ふとある不安が過る。


「橘花さん行きつけの美容院の人って、人間だよね……」



 ***



 探偵事務所から出て徒歩十五分程度で、橘花行きつけの美容院に着く。

 こじんまりとした一軒屋には『リーゾス』の看板が掛かっていた。

 橘花が『笑顔』という意味だと桐と牡丹に説明する。


 白いドアを開けると、美容院独特の匂いが鼻を抜ける。


「いらっしゃい橘花ちゃん。この子が電話で言ってた子? へぇ~可愛い子じゃない。あ、私白枝(しろえだ) 絵理子(えりこ)よろしくね」

「あ、はい。忠海 桐です。今日は宜しくお願いします」


 明るく話しかけてくる白枝に対し、ペコリとお辞儀する桐。


「こっちの子はいいの?」


 白枝が牡丹をジロジロ見ている。


「この子はいいの。トリミングにでも連れていくから」

「あぁ! なんか分かんないですけどバカにされた気がします」

「バカにしてないわよ。トリミングって結構高いんだから」


 ニ人のやり取りを見ていて白枝が笑い出すので、橘花が怪訝そうな顔で見る。


「いや、橘花ちゃん変わったなぁって思ってね。探偵やるって言い出したときもビックリしたけど従業員ニ人連れて来て、挙げ句そんなに楽しそうにするなんて想像もしていなかったな」


 白枝が嬉しそうにうんうん頷いている。


「そんなんじゃないわよ。それじゃあ桐を宜しく頼むわね。ほら行くよ牡丹」


 少し恥ずかしそうな橘花が牡丹を連れて店から出ていくのを見届けると、桐は白枝に促され髪を洗ってもらった後鏡の前に座る。


「さてさてどうしましょ、桐ちゃん」

「あ、えっと。特にこだわりは無いんですけど」


 白枝は桐の髪を触ったり、鏡に写った桐を見たりして何やら考えている。


「桐ちゃん今ロングだからセミロング迄切って、ウエーブかけてみない? 髪も少しだけ明るくしてみてはどうかな?」

「髪を染めるってことですか?」


 髪を染めたりすることは高校で禁止されていただけに、考えたこともなかった提案に桐は戸惑う。


「強制じゃないよ。桐ちゃんに似合うかなって提案してみただけ」


 鏡に映る自分の姿をしばらく見つめていた桐は決心したのか、鏡に映る白枝を真っ直ぐ見つめ口を開く。


「お願いします」

「よしっ、任せて。美容師が言うのもなんだけど、髪を染めれば可愛くなれる訳じゃあないからね。桐ちゃんは今でも可愛いけど、染めたらもっと可愛くなれるはずよ」


 謙遜し照れる桐を見て、ニコニコしながらも着々と準備を進めていく。

 二の腕に液を塗られシートが貼られる。


「これパッチテストね。アレルギーあったら困るから。これさ昔は四十八時間も待たなきゃ駄目だったけど、今はニ時間で結果出るようになったから便利になったもんよ(※1)

 この間に髪を切っちゃお」


 白枝が桐の髪を丁寧に切っていく。


 髪に触れてはハサミを入れると、鏡に映る自分の髪が別物の様に生まれ変わっていく。見慣れた自分のはずなのに、違う自分になっていくような感覚すら覚える。

 そんな感覚を胸に抱きながら、桐は白枝の手捌きを見つめていた。


「橘花ちゃんがね、人を連れてくるの初めてなんだよ。よっぽど気に入られてるんだね桐ちゃんは」


 白枝が話しかけてきて我に反る桐は、鏡の白枝に向かって話しかける。


「そう言えば、白枝さんと橘花さんってお知り合いなんですか?」

「そうよ、ニ○年位前に知り合って、私が美容師になってからはずっと髪切ってるから、結構長い付き合いね」


 橘花の実年齢を思い出して口に出そうとするが、殺気を感じた気がしたので黙っていると白枝の方が口に出してしまう。


「橘花ちゃんああ見えて八○近いじない? なのに私が中学生の時に会ったときと、変わんないだから嫌になるよね。

 私はさ、もう三十五でおばさんを極めてる途中っていうのにさっ!」


 髪を切る手はそのまま、表情だけ変えて不満を訴えてくる白枝の器用さに感心しながら、思わず笑みがこぼれてしまう。


「あんな明るい橘花ちゃん初めて見たなあ。さっきの牡丹ちゃんだっけ、あの子も好かれてるね」


 桐が日頃の橘花と牡丹を思い出す。いつも怒ってる橘花と、逃げ回る牡丹が思い浮かび、頭の上で走り回る。


「そ、そうですかね?」

「何を想像したか分からないけどそうだよきっと。よし大体出来たかなどう?」


 鏡に映る自分を見てその変わりように驚きを隠せない桐が鏡を見つめる。


「はいはい、自分に見とれない。まだ途中だから、今からもっと可愛くなるからね」


 そう言ってパッチテストの腕と時計を見て、お茶をしようと言い残し一旦奥に下がると、ティータイムが始まる。


「時間もあるし、そうだねえ私が橘花ちゃんに会ったときの話でもしてあげようか」


 興味のある桐が大きく頷くと、白枝が簡単に話をしてくれる。


 ──中学生の頃、妖怪と呼ばれる者に襲われたときに現れたのが、血塗れの橘花ちゃん。

 その妖怪を一方的に殴り付け、壁に張り付けると銃弾を撃ち込む姿を見て、次は私がこの人に殺されると思ってたなぁ。


 で、妖怪の血を浴びたまたま笑いもせず手を差し伸べ握ると、立たせてくれてそのまま去っていったの。私は意味も分からず呆然として背中を見送るだけ。


 数年後、高校生の頃に妖怪に再び襲われた私の前に橘花ちゃんが現れて、また助けられるんだけど、その時少し呆れた顔で言うの。


「あんた何? 何回襲われてんの」


 って、その時言った私の言葉が


「覚えててくれてたんですね!」


 その時の橘花ちゃんの顔! もう呆れたを通り越して、諦めた様な顔が印象的でね。


 そこから私は美容師目指して学校行って、ある美容院で就職見習いの頃に、私の働いていたお店に来たの。

 別に私に会いに来たとかじゃなくてたまたまね。橘花ちゃんって年取らないでしょ。同じ場所に通い続けるとめんどくさいって転々としてたらしいのよ。


 それで私のこと覚えててくれてね。


「あなたなら説明する必要もないし早く独立してよ」


 って言われ続けようやく独立して今に至るって感じかな──


「おっと、パッチテストOKだね」


 テキパキと準備を始め桐の髪の染色に入る。染めてる間も色んな話をしてくれる。


「よし! 完璧! やっぱ可愛い子だとやりがいあるわ~」


 鏡に映る自分を見て桐はまじまじと見つめる。地味で暗い自分じゃなくそこには明るい表情の自分がいる。

 髪に少し明るい色が入り毛先にウエーブがかかっていてふんわりしている。

 自分なのに自分じゃない、生まれ変わった気分すら感じてしまう。


「白枝さんありがとうございます!」

「おお!? いい笑顔するじゃん。報われるわ~」


 白枝が桐のほっぺたを突っつく。


 美容院の玄関で頭を下げて挨拶をする桐の表情はとても明るい。


「本当にありがとうございました」

「そんなに感謝されると照れちゃうな。今後も来てね」

「はい!」


 もう一度、お辞儀をして美容院を後にする。



 ***



 家の玄関のインターホンを鳴らすと、聞き慣れた声がしてドアが開き桐の母親が顔を出す。

 桐が家を出て橘花の事務所に住むようになってからは、帰るときはインターホンを鳴らして入るようにしている。

 鍵を持って自由に出入りするのは、家を出ると言った手前、違う気がするのでこういった方法をとっている。


「桐って、どうしたのその髪!?」

「へへへ、ちょっとイメチェン」


 嬉しそうに髪を見せる娘を見て母親が微笑む。


「似合ってる。可愛いじゃない」

「そ、そうかな。へへへえ」

「今日はどうしたの?」


 母親が訪ねながら家に入るように促し、桐は中に入りリビングのテーブルに座ると、お茶を持ってくる母親にお願いする。


「夏休みがもう終わるけど、このまま学校は休学させて欲しいって言いに来たんだ」


 母親は休学を懇願する娘を見て小さく微笑む。


「分かった。お父さんには言っておくから」

「ありがとう! もうちょっと待って。ちゃんと答え出すから」

「ええ、分かった。楽しみにしてる。これから橘花さんの所に帰るんでしょ。それじゃあ──」


 嬉しそうに母親が台所の方に行くとなにやらごそごそ音が聞こえ、やがて紙袋やビニール袋に食品やらなにやら摘めて大量に持ってくる。


「これ、橘花さんにあげて。レトルトとか食べる? そうそう桃缶のセット貰ったんだ。橘花さん桃好き?」

「お母さ~ん、こんなに運べないよ。これなに? ダイエット食品ってお母さんが挫折したやつじゃないの?」


 テーブルに大量に積み上げられた食品にうんざりしながらも品定めし運べそうな物を袋に詰めていく。


「これぐらいで良いよ。お父さんにもちゃんと言うからまた来るし、そのときもらうよ」


 桐は荷物を手に玄関を出ると大量の荷物を手に、母親に向かうと少し泣きそうなだけど強い意思を感じさせる表情で見つめる。


「お母さん、私必ずやりたいこと見付けるから。迷惑かけるけど絶対にやり遂げてみせるからね」


 そう言って門をくぐり去っていく。少したくましくなった娘の背中を見て母親は少しだけ涙ぐむ。



 ──スマホのシャッターが無音で切られる。


「やぁ~と、みつけたぁ。あの子が桐かぁ、可愛いなあ。ぐふふふふふ」


 スマホには家の門から出る桐の姿がハッキリ写っていた。




 ────────────────────


 ※1・・・現在髪を染色する際は48時間のパッチテストが義務づけられています。物語が現在より少し未来の話であることからパッチテスト2時間と表現しています。

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