追悼
────若者四人が行方不明になる事件があって一週間後。
若者が車のスピードの出しすぎて、崖から車ごと転落。その際、投げ出され木に引っ掛かっているのを発見された遺体は「城木 博仁」
後の二人は未だ見つからず捜索中。唯一の生存者「大和 恵」は、森をさ迷っていたところを探偵の「華渉 橘花」によって発見される。
探偵「華渉 橘花」は、城木の母「城木 亜美」からの依頼を受け周囲を探索中、運良く「大和 恵」と接触し警察に通報。「大和 恵」が気絶したため救急車も要請。
現在、「大和 恵」は病院にて順調に回復しているが、車が落ちた時から「華渉 橘花」に出会うまでの記憶が曖昧である。
右足の怪我は、違法に設置されたトラばさみによるもので傷は深く、骨折、裂傷全治四ヶ月と診断される。
「城木 博仁」の遺体は獣による補食が原因と思われる損傷が激しいが、司法解剖の結果、事故の際胸を強く打っており即死と判定された。
「とまあこんな感じですかな? 探偵さん」
「ええ」
中年の刑事に問われ、お茶を啜っていた橘花が答える。
「これで調書の方は出来ましたので、お引き取り頂いても結構です。ご協力感謝します」
橘花は刑事たちに丁寧にお辞儀をすると、取調室のドアを開け出ていく。
「にしても綺麗と言うか可愛い方でしたね。なんで探偵なんかやってるんでしょうね?」
橘花が出て行ったあと、調書を書いていた若い刑事が、中年の刑事に話を振る。
「宮地お前はあれが普通に見えるか?」
「え? 普通も何も俺は好みの女性でしたけど」
「アホか。普通の人間てのはな、俺らみたいに人の生き死にをどれだけ経験しても感情の揺らぎってのがあるんだよ。
人が身勝手に殺されれば犯人を憎んだり、不慮の事故なら被害者に同情したり、個人的な感情を多かれ少なかれ挟んでしまうもんだ。
だがあの女には全く揺らぎが感じられん。どういう人生を歩んできたのかは知らんがあれは相当な修羅場を潜り抜けてる」
熱く語りだす中年の刑事を見て、うんざりした顔の宮地は茶化すように言う。
「修羅場って、刑事ドラマの見すぎじゃないですか?」
それに対して中年の刑事が憤慨するのは想像に難しいものではない。
***
「橘花さん、おかえりなさい」
「ただいまあ。あぁ~だる~。警察の話し面白くないし疲れるわぁ~」
調書を終え、事務所に帰ってきた橘花を桐が迎える。
「お疲れ様です。コーヒーとクッキーを焼いてみたのでどうぞ」
「気が利くわね。最近コーヒーも私好みの味になったし、このクッキーも美味しいわね。何よりも表情が明るくなってきたし、良い傾向じゃないかしら?」
「そ、そうですかね」
桐が照れていると、牡丹が後ろから抱きついてくる。
「橘花様の言う通りです。最近の桐は明るくなって可愛さ五割増しですよ!
これで私の食べるご飯の野菜を、もう少し減らしてくれたらもっと可愛くなれるんですけど」
「それはダメ! 牡丹が野菜を食べないなら可愛くならなくていいよ」
(桐と牡丹が来て一ヶ月半。自分の能力と裏の伝手で、のんびり探偵業をやっていこうと思ってたのに、まさかこんな賑やかになるとはね)
じゃれる二人を見て橘花は物思いにふけていると、テレビから流れる天気予報が今夜は雨だと教えてくれる。
(そっか、雨なのか……)
***
夏の夜に降る雨で湿度は上がりじっとりするなか、告別式が行われていた。
「この度はご愁傷様です」
喪服姿の橘花達が頭を下げると、挨拶をされた城木亜美は驚いた表情を見せる。
「華渉様。わざわざ来てくださったのですね。ありがとうございます」
「こちらの方は?」
「お友達と博仁の捜索をお願いした探偵の華渉さんですよ」
隣に立っていた男性が亜美に訪ねると挨拶をする。
「この度は息子を見つけて頂き、ありがとうございました。私、父の城木謙二と申します」
「いえ、私は恵さんを運良く保護しただけで、後は警察の方々が見つけて下さいましたから」
「いえ、貴女のお陰で……博仁は見つかって……だから、ごめんなさい……その」
謙遜する橘花に亜美は泣きながらお礼を述べる。そのうち我慢出来ずに泣き崩れる亜美を謙二が宥める。
そんな二人にもう一度深くお辞儀をして橘花達は離れていく。
「橘花さん。私なんか、やりきれないです」
「そうね。自分の子供が死んで悲しまない親なんてそういないでしょうから」
(いつの頃からだろうか。人の生き死に気持ちの揺らぎが失くなってきたのは。好きな人を殺したとき? いや、あのときは高揚感があった。途中までは楽しかった……)
「橘花様、橘花様!」
橘花は牡丹の声で現実に戻される。いつもの着物姿と違いワンピースにジャケットの喪服を着て髪をまとめている牡丹を見て、清楚な美人だと思っても妖怪の類いだと思う人はまずいないだろう。
「橘花様、私は別に良いですけど、このような暗い場所へ桐を連れてくる必要あったんですか?」
「あの子は色んな経験をした方がいいわ。曲がりなりにも呪いをかけ、人を殺めるかもしれない危険を犯した。それがもしかしたらこう言う結果を生んだかも知れないって感じてくれるかもしれない、そういう意味でも必要だと思うの」
橘花の答えを聞いた牡丹は桐の方を見て納得したように頷いた後、場所に配慮してなのか遠慮がちに微笑む。
「優しいのですね橘花様」
「違うわよ」
牡丹の尊敬の眼差しから顔を背ける橘花。
(優しくなんかない。復讐を終えた後も殺し続け、我を見失ってた私は最低の存在。ただ桐には間違った道を歩んでほしくないだけ)
焼香を済ませ早々に帰る帰り道、桐が橘花の隣にやってくる。
「あの、橘花さん今日はありがとうございます」
「ん? 何が?」
「いえ城木様の告別式に私を連れてきたのは、考えあっての事ですよね」
橘花が牡丹に視線をやると、牡丹は首を横に振って何も言っていないと否定する。
「この世界、特に日本で生きてると、人の生き死に遭遇することなんてあんまり無いと思うの。
人を一つの小さな歯車と見立て、その歯車が抜けて無くなった時、近くにいた人は自分や他の歯車が回せなくなったり不具合が生じる。そしてそれは思いもよらない所まで影響を与えるものよ。人によって歯車の大きさは違うでしょうけど、不必要なものなんてほぼ無いと思うの」
橘花の話を真剣に聞いていた桐が笑う。
「ありがとうございます。私、橘花さんに会えて本当に良かった」
「あ、ああまあそう? なら嬉しけど」
橘花は桐から顔を反らし、雨の夜空を眺める。
(月齢からいくと今日は新月か……見えないのは残念だけど雨の夜空も好き。優しく洗い流してくれそうだから……)
空を見上げる為に反らした傘に当たる雨の音と、顔に当たる雨が橘花を優しく包む。




