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花天月地  作者: 功野 涼し
トンネルの村

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20/48

遊戯

 車ごと仮面を被った白い着物の者たちに連れて行かれ、たどり着いたのは昔話で出てくるような村。

 藁葺き屋根のこじんまりとした家が数軒あり、他には畑と井戸が見える。ただ生活感はなく壁もボロボロで畑も何かを植えた形跡もない。そしてなにより腐敗臭が鼻につく。


 空を見上げると綺麗な夜空に星が広がるが、ただ何か作り物ような違和感を感じてしまう。


 最後の抵抗で車に籠城しようとした四人は、ドアにロックをかけ中央に寄り添う。

 仮面の者はドアノブをガチャガチャと動かすが、一人が拳を上げるとガラスを叩き始める。叩く手の肉が裂け血が流れようともお構いなしに窓を狂った様に叩き続ける。


 叩くたびに広がるヒビと血を目の前にして何も出来ず怯え、祈るだけの四人。


 四人の願いも虚しくガラスは割られ、血だらけの手がドアロックの位置を探りあっさり解除されると、ドアは開けられ短い籠城は終わりを迎える。


 車から引きずり降ろされると、そのまま地面を引きずられながら化物の前へ連れていかれる。

 村よりもより一層に腐敗臭が強く、霞がかった広場に鎮座するその巨大な化物は、蜘蛛の体を持ち顔は人と牛を足したような造形だが、頭に生える二本の角が牛よりな印象を与える。


 そいつはイヤらしい顔で四人を品定めし、卓を指さすと白い着物の者たちが彼を化物の前に引きずり出す。そのまま服を脱がされ匂いを嗅がれた後、足からバリバリと音を立てゆっくり食べられる。


 降り注ぐ血と断末魔に恐怖し、失禁するのを笑う者もいない。


 見せしめのような食事が終わった後、縛られた三人はボロボロの一軒屋に放り込まれる。

 そのまま放置されるが時間の感覚はなく、どれくらいの時がたったのかも分からない三人は絶望の中を過ごす。


 再び化物前に連れていかれると、次は夕夏が前に連れて行かれ服を脱がされた後、味見するように舐めまわされた後ゆっくり噛られる。

 少しずつ噛られ泣き叫ぶ夕夏を最後まで見ることが出来ず、二人は気を失ってしまい気が付いた時は縛られて元の一軒家の中に転がっていた。


 恵は壁を向きさめざめと泣く。城木は体を動かそうとするが手足が縛られていて何も出来ない。

 二人の口が塞がれていないのは、叫ばれても助けなど来ないという意味かもしれない。


 二人とも逃げようという気持ちが湧かないわけではないが、卓と夕夏ことが頭を過ると嗚咽し吐いてしまう、逃げようという思いと一緒に。


「恵」


 それでもこのままでは嫌だと、恵の名前を呼んでみる城木だが、恵は返事をせず泣き続け「お父さん、お母さん」と呟くだけだった。

 城木は体をもぞもぞと動かし、芋虫の様に這って恵に近付くと腕を縛ってる縄に噛みつく。


 ガリッ


 城木の歯がかけ口に血の味が広がる。縄は毛羽立っただけで何もなっていない。

 何もしないよりはマシという言葉があるが、この場合何かした為により絶望感を感じる結果になってしまった。


「なにしてんのよ」


 恵が口から血を流す城木を蔑んだ目で見る。


「どうせ死ぬの。夕夏達みたいに食べられるのよ」


 言いながら泣き始める恵を城木は宥めようとするが泣きわめき話にならない。丁度そのとき家の扉が開けられ、白い着物の者達が入って来て二人は肩に担がれる。


「くそ! 放せ!」


 もがく城木に対し恵は身動き1一つせず、死んだような虚ろな目をしていた。

 化物の前につれていかれると、今回は縛られたまま地面に転がされる。化物が顔を近付け、腐敗臭のする息を吹きかけながら見下ろす目を見て、最後を覚悟するしかない二人。


「あ゛ぞぼう、おでとあ゛ぞぼう」


 ここまで汚い言葉を発する生き物があっただろうか? 聞いているだけで嫌悪感を感じるその言葉の主が「遊ぼう」といってくる。

 選択を迫られたところで選べるわけもなく、今はただ化物の話を聞き、流れに身を任せることしかできない。


「おま゛えらおでからにげる。ぶきやるから、こごからむ゛らのいりぐちいぐ。おま゛えのがち。がえっていい゛」


 恐怖心もあるが、言葉が汚く何を言っているか半分も理解できていない。だが縄がほどかれ武器が運ばれてくると、化物が発した言葉を咀嚼して何となく理解する。

 意図が理解できたとしても、二人は今まで武器なんて使ったこともないし、武術経験者でもない。刀や槍などの武器を目の前にして固まっている。


「これを使って村の入り口に着いたら、帰らせてくれるってことだよな」


 意を決して武器を選ぶ城木に対し、未だ恵は放心状態である。


「どうせ死ぬの。死ぬんだからこんなこと」

「恵やろう、俺が守るから」


 絶望的状況だが、だからこそ優しい言葉を掛けてくれた城木に救われ、少しだけ目に光を戻した恵は最後の希望に縋ろうと武器を見る。


 刀や弓、薙刀、槍、ただの棒や鍬など多彩な武器が並んでいる。


「刀か……」


 刀を選ぶ城木に対し恵は棒を選ぶ。


「え゛らんだな。じゃあ゛おでが三〇がぞえ゛る。お゛まえらにげろ。ぞじだらこづら三に゛ん、おいがげる。づかまだらまげ」

「俺らが村の入り口までこいつらから逃げ切れば良いんだな。村の入り口ってどっちなんだ」


 化物は頷いた後、城木達の後ろを蜘蛛の足で指し「ま゛すぐ」と言う。


「じゃあ゛いぐぞ」


 城木と恵は走り出す。


 今まで気がつかなかったが、化物のいる広場から小道を挟んですぐ村に入る。

 あまり大きい村ではなく、遠目に出入り口と思しき門のようなものが確認出来る。


(以外に楽勝なんじゃないか。でも簡単に逃がしてくれるか?)


「あいつらが来るよ!」


 一瞬楽観視する城木だが、恵の叫びに振り返ると、後ろから凄いスピードで走ってくる女性の能面を被った白い着物の者達の姿があった。首は傾き前屈みで走る、およそ人とは思えないその姿は恐怖心を煽る。

 すぐに一人に追い付かれた城木だが、刀をバットを振るようにフルスイングする。


 城木が瞑ってしまった目を恐る恐る開けると、白い着物が真っ赤に染まり能面の者が地面に転がっていた。


「な、なんだ、意外にいけるんじゃねえか」


 希望を見出だした城木は刀を構え残りの二体と対峙する。城木を警戒してなのか二体は距離を取り様子を伺っている。


「よし、逃げるぞ」


 襲ってこないとみた城木の声を合図に、恵も一緒に走り出す。すぐに追いかける二体だが、未だ警戒をしているのか距離を詰めてこない。

 意を決したように一体が恵目掛け襲い掛かるが、城木が間に入ると刀を大きく振りかぶる。


「させるかよ!」


 再び刀をフルスイングし、襲い掛かってきた一体を斬り裂き、はじき返す。


「おい、行けるんじゃないかこれ」

「う、うん」


 戦えると希望を見出だした二人は、あえて逃げずに武器を構える。そんな二人に観念したのか最後の一体が襲いかかってくる。

 城木が刀を振ると相手の首に当たり相手の勢いと当たり所、タイミングが良かったのか首が飛ぶ。

 城木は調子に乗ったのか地面に転がる三体に向かって悪態をつこうとするが、恵に引っ張られ村の入り口に向かう。


「こんなんで良いのか」

「うん、でもこれで帰れるんだよね」


 追手もおらず、後は村の入り口に向かうだけの二人の足取りは軽い。すぐに入り口が目の前に迫り、門を通り抜けようとしたとき。


 ガチャンッツ!!


 金属がぶつかる音が響き、恵がひっくり返ってしまう。


「うあぁぁぁぁぁ!!」


 恵にが右足を押さえ泣き叫ぶ。押える右足にはトラバサミが食い込んでいた。城木は急いでトラバサミを外そうと引っ張るが外れない。


 ザッツ


 砂を踏み締める音に城木が見ると、三体の血まみれの白い着物を着た能面の者達が立っていた。


「なんなんだよお前ら!!」


 城木が刀を振ると一人を斬って地面に転がるが、すぐに立ち上がる。斬っても斬っても立ち上がる。そのうち刀の刃が曇り切れなくなる。


 城木は刀を捨て恵の落とした棒を握るがは白い着物を着た者たちは距離を取っていて近付いてこない。


 城木は三体を見る。二体は胸の辺りが血で染まり、もう一体は首から血が流れてはいるが普通に繋がっている。


 恵を見る。右足に食い込んだトラバサミの刃から血があふれ、傷口から骨のなのか白いものが見える。おそらく骨は折れているかヒビが入っていて歩くのは困難だろう。


 後ろを振り返り見ると村の入り口であろう木で出来たアーチ状のゲートの様な物がすぐそこに見える。


 城木はゲートに向かって走り出す。


「ま、待って、置いていかないで!!」


 絞り出すような小さな弱々しい声なのによく聞こえる恵の声。必死にその声から逃げるように城木は走る。


 後少し。


 これで帰れる。


 突如景色が反転し気が付けば土が見える。


 痛む右足を見ると白い着物の者が握っていた。


 右手を見ると後、数センチでゲートの外。


 引きずられどんどん離れていくゲートを見ながら城木は泣き叫ぶ。


 広場に着くと化物は満面の笑みで迎えてくれる。化物が何か言おうとしたとき能面の一体が化物に耳打ちをして、二体がどこかへ行ってしまう。

 その間に城木が辺りを見回すと太い木に縛られた恵と目が合う。足から血を流し、血走った目で睨む恵から目を逸らしてしまう。


「だのしがったか? おどこ、おしがったな。おも゛しろがったがら、も゛ういぢど、きかい゛やる。おどこひとり゛でに゛げるが、ぞのおんな゛をごろせ。

 に゛げれたら゛ふだりかえ゛す。おんな゛をごろせばおまえ゛だけ」


 白い着物の者が城木に近付き刀を手渡す。


(もう一度逃げるか、女……恵を殺せと言うことか。逃げ切れば二人共帰れて、恵を殺せば俺だけ帰れる……)


 城木が化物を見ると悩む城木を楽しんでいるのか、ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている。さっきまで睨んでいた恵だが、今は不安の宿る目で見てくる。


 城木は恵の前に立つと刀を振り上げる。


「嘘でしょ! なんで!? 守ると言ってた癖に! くずよ!! お前人間のくずよ!!」


 城木が恵の罵倒ごと斬ろうと、刀を振り下ろすがピタリと止まる。城木が恐る恐る見上げると化物が手で刀を摘まんでいた。


「おま゛えぎにいった! おでの、てじたにしでやる」


 化物の蜘蛛の足先にある爪が城木の首に刺さる。城木は自分の意識の中に、無理やり水を注ぎ込まれあふれる様な感覚を感じながら意識を消していく。


「ざでおんな゛おでは、おまえが、ごのみだ。ゆ゛っぐり、あじわう゛ぞ」


 化物が長い舌を伸ばし恵の右足に絡め血を味わうとニタァっと笑う。


「おい゛ふぐをぬがせ、めでで、あじわう゛きょう゛は、みぎでだけたべる゛」


 白い着物の者が恵の縄を解こうと手を伸ばす。絶望に顔を歪める恵の頭上から光が走る。

 その光は白い着物の者の頭を貫通し、地面に転がると澄んだ綺麗な音を鳴らす。


 チリーン


 小さな鈴の音が響いてすぐに光が空から落ちてくる。それは眩しくて力強い光。












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