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花天月地  作者: 功野 涼し
トンネルの村
18/48

依頼

 朝早く、事務所が開く前にソファーに座った牡丹が、右の義手をグーパーしてカーチスに動作を見てもらっている。


「なかなか順調だな。牡丹さんは魔力のコントロールが上手いのかもな」


 牡丹を誉めつつ、ブランケットを取り出すと、サッと牡丹の太ももにかける。


「じゃあ左足を見せてもらおうか」

「おぉ! なんかさりげなく出来る男みたいで格好よかったですよ! 今の」


 牡丹に誉められ よせよせ、みたいに牡丹に手をかざす。


「どう? 牡丹に義肢は馴染んでる?」


 橘花がやって来て、カーチスの隣にちょこんと座り、牡丹の義足を触る。


「きき、橘花さん。ははは、ば、バッチリです」

「そ、良かった。終わったら教えてコーヒくらい出すから」


 橘花に対してこくこく頷くカーチスを見る牡丹の目は冷ややかだ。


「今のは格好悪いですよー。橘花様にビシッと好きだ~! って言えばいいじゃないですか」

「なっ、べ、別にす……す、その好きとかじゃねえし」


 しどろもどろになるカーチスにイラッとした牡丹が足をバタバタさせるので、義足を整備していたカーチスが足を押さえる。


「あーーまどろっこしいです。カーチスは発情期な訳ですよね」

「暴れんな! なんだ発情期って!? お前と一緒にすんなよ!」

「あ~そうだ、カーチスくん……」


 そこに戻ってきた橘花が、牡丹の足にがっちりしがみつくカーチスと目が合ってしまう。


「……」


 橘花は何も言葉を発さず、ゴミを見るような目で見て去っていく。


「終わった。俺終わった……」

「足が重いから早くどいてもらえますか?」


 涙で視界がボヤけるなか作業するカーチスの姿を見て、本物のプロだと影から覗いていた桐は感心する。


(橘花さんって勘とか鋭いから、カーチスさんの気持ち気付いてそうなのに。わざとなのかな?)


 桐が橘花について思考を巡らせていると、玄関のチャイムが鳴り、無理矢理現実に引き戻される。急いで玄関に向かって走る。


「はい、黒猫探偵事務所ですけど御依頼でしょうか?」


 桐が挨拶をしながら玄関を開けると、そこには女性が1人立っていた。

 年齢は四○後半だろうか。表情は暗く、目の下に大きなクマが出来ている。何やら疲れきった空気を漂わせる。


「あのうて……お願いがあって来たのですが……」

「ああはい、御依頼でしたら中でお話を伺いますのでどうぞ。靴はそのままで大丈夫です」


 玄関の扉を大きく開け、女性を中に招き入れると客室へ案内する。

 客室まで案内するとソファーに女性を誘導し座ってもらう。


「お客様、失礼ですがお名前を伺っても宜しいですか?」

「ああはい。城木(しろき) 亜美(あゆみ)です」

「はい、では城木様。今所長をお呼び致しますので少々お待ちください」


 桐は客室を出ると、廊下の壁に背中をつけすがると、小さくガッツポーズをする。


(か、完璧だ。私、ちゃんと受け答え出来た。練習したかいがあったぁ~)


 両拳を握り、達成感を一頻り味わうと橘花を呼びに行く。



 ***



「四日前に失踪して現在警察が捜索中。最後に目撃された場所がここのコンビニで、道路のNシステム(※自動車ナンバー自動読み取り装置)からこの道路を走ってると」


 橘花がタブレット画面に映し出される地図に文字を書き込みながら、情報を整理する。


「このまま国道を走ればここにあるNシステムか、ここのガソリンスタンドにある防犯カメラに映るはずですから、やはり警察と同じ見解になります。こちらの山の脇にある県道を走ったと思われます」


 亜美が頷くのを確認し、橘花は話を続ける。


「そして三日に渡って警察が山狩りを行ったけど、まだ車も見つからない。……と言う訳ですね」


 亜美は涙ぐみながら必死に頷く。


「息子は友達と一緒にドライブへ行くと言うので、私の車を貸したのです。それで、そのまま……」


 堪え切れなくなったのだろう、亜美は涙を溢しながら必死に話を続ける。


「息子のことはもちろん心配です。だからこそ、他の子達のご両親事を考えると……私、申し訳なくて、本当にもう……どうして良いか分からなくて」


 嗚咽しながら泣く亜美をなだめながら、橘花は頭の中で情報を整理していく。


城木博人しろきひろと三浦卓巳(みうらたくみ)大和恵(やまとめぐみ)流川夕夏(ながれかわゆうか)の4人。

 いずれも二〇歳で高校同級生。博人・卓巳が地元に帰ってきて一緒に遊んだと……親の車借りて事故ってよくある話だけど車すら見付からないし事故の跡も無い)


 少し落ち着きを取り戻した亜美はもう大丈夫というように橘花が擦る手をそっと握る。


「城木様、私も全力で探しますので今は少しお休みになりましょう」

「ですが私は──」

「月並みなことしか言えませんが、まずは城木様自身がしっかりなさらないといけません。家までは私が送りますので一緒に行きましょう」


 何か言おうとした亜美に橘花が話を被せ、強引に遮ると家に帰って休む様に話を持っていく。

 その勢いのまま押しながら亜美を客室から出すと、タクシーの手配をして桐と牡丹を呼ぶ。


「牡丹、桐。私は城木様をお送りするから留守番頼むわね。桐はこっちの資料まとめといて。牡丹はお箸の練習」


「はい、終わったら、晩御飯作っておきますね」

「う~、フォークじゃダメですかぁ」


 橘花が桐の頭を撫で、牡丹の頭にチョップを落とす。


「じゃ、頼むわね。他に寄るかもしれないし、帰るのが遅かったらご飯先に食べてて良いから」


 笑顔の桐と、頭を押さえた牡丹が橘花を見送る。



 ***



「──はい、そうですか。いえこちらこそお時間取らせて申し訳ありませんでした。では失礼します」


 橘花が一軒の家の玄関で頭を下げると後ろに下がって、門から出ていく。

 城木亜美の住むマンションで息子と友人の情報を得た後、交友関係を中心に行方を絞り混んでいる最中である。


「はあ~、なかなか手がかりは無いものね。いっそ死体でもあれば思念読めるんだけどな」


 橘花が自分の手を見る。自分でも思うが小さな手だ。


 元々身長も低く小柄な体型なのは自覚している。

 天使の魂を取り込み、馴染むと老化が止まり、永遠を生きると説明はされたが、当時はそんなことどうでも良かった。


 自分を襲って忌み者にした三人を殺せればなんだって良かった。


 一人目はまだ人間だった。二人目は半分覚醒、三人目はほぼ覚醒してた。


 そして四人目は完全に覚醒。


 そこからは数えきれないほど命を奪ってきた。血を見てでて、服を赤く染め上げ続ける日々。だがあるとき、ふと我に返る。


 友達も知り合いもどうなったかも知らない。親の死に目も見ていない。ただ血に染まった自分がいるだけ。


 何をしているんだろう? 湧きあがる疑問。


 そこから自分でも驚くほど冷めてしまう。


「はあ~、感傷に浸るなんてらしくないわね。おっと、次はここね」


 家のインターホンを押し出てきた男性に、四人の行方を探している事を告げ情報を聞き出す。


「──どんな小さな事でも良いんです。運転の仕方、よく走る場所や好きな場所などとか」


 男性は少し考えるが、自信なさげに答える。


「卓巳って心霊スポットとか好きって言うか、女がいると連れていって怖がらせて、その……ホテルとか連れ込む為に……あ、えとそんな感じで」


 橘花を見て、言いにくかったのか、語尾を少し言葉を濁しボソボソと話す。


「心霊スポット? その話詳しく聞かせてもらえませんか?」

「え、ええ良いですけど──」


 思わぬ場所に興味を示されて驚く男性から、卓巳という男が最近よく口にしていた心霊スポット、トンネルの向こうにある村について話を聞かせてもらう。


 お礼を言って帰るマンションの廊下を歩きながら、


「トンネルの村ねえ……そんなの作るのがいた気がするな」


 手掛かりを得た橘花は、ほくそ笑む。

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