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花天月地  作者: 功野 涼し
トンネルの村
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肝試し

 深夜、一台の赤いコンパクトカーが山道をスピードを出して走る。交通量が少ないのをいいことに、反対車線にはみ出したり、蛇行運転を繰り返している。

 その車内では音楽が鳴り響き、前に男二人、後部座席に女二人の四人が危険な運転に興奮し叫び馬鹿騒ぎをしている。


「ほんとだって! 今から行くトンネルに出るんだって! 俺の兄貴の友達が見てさ」


 助手席の男が後部座席にいる女二人を怖がらせたいのか、身振り手振りでオーバーリアクション気味に怪談話をしている。二人の女の子がキャーキャー言う度に調子に乗って、トンネルに出る幽霊の話を続ける男に運転席の男が笑いながら言う。


「まあまあ、行けば分かるさ。もうすぐ着くから試せばいいんだよ」

「え~っ、こわーーい」

「出たら守ってよ~」


 やがて車は舗装された道路の脇にある、今は使われていないであろう道路の方へと進路をとる。入ってすぐに道路を塞ぐバリケードが行く手を遮る。


「おっと、情報通りバリケードがあるな」

「おし、動かせるらしいからどけようぜ」


 前の席の男二人が車から降り、バリケードを持ち上げ車が通れる隙間を作る。

 車のヘッドライトに照らされ作業する男二人を見ながら、後部座席の女の一人が興奮気味に、もう一人に話し掛ける。


「ねえ夕夏(ゆか)、トンネルで幽霊出たらどっかに連れていかれるんだって。でね、そこには主がいて女の子が大好物って話だよ」

「ちょっ(めぐみ)やめてよ。そもそも大好物ってなによ。食べ物じゃあるまいし」


 恵と呼ばれ子は夕夏の反応が面白かったのか、更に怖がらせようとニヤケ顔をして低いトーンで話を続ける。


「主に気に入られるとバリバリ食べられてしまうの。でも、すごく気に入られると妻としてしばらく置かれて遊ばれた後、優しく食べられるんだって」

「なによ結局食べるんじゃん」


 二人が盛り上がっていると、一仕事を終えて男二人が戻ってきて車は発進する。舗装されていた道路は荒れ果て、ヒビの入ったアスファルトからは草が生え、盛り上がった道路に車は上下に揺れながら進む。


「いやほんと、こええな」

「だな、で(たか)トンネルついたらどうすんだっけ?」

「さっきも説明したろう。城木(しろき)お前もの覚え悪すぎ。エンジン切って、クラクションを三回鳴らす。で、窓開けて『貢物(みつぎもの)を献上します』って言えば迎えがくるんだって」


 卓が、運転をしている城木に呆れたように説明するのを、後部座席から恵が顔を出して頬を膨らませ文句を言ってくる。


「なによ貢物ってもしかして私たちのこと? やめてよね」

「可愛くて超高級な貢物だから幽霊も走って来てくれるはずだぜ」

「もう! ほんとに来たら助けてよ」


 怒る恵に誉め言葉にもならない冗談を言う卓。そんな二人を他所に、夕夏は後部座席の窓から真っ暗な外を見ていた。


(あぁ、本当は怖いけど今更言えないなあ。誰か帰ろうって言い出さないかな。今言ったら白けるだろうし、はぁめんどくさい)


 夕夏は三人を見るが、幽霊が出たら倒してやるだの、主の妻になって幽霊と暮らすだのどうでもいい話をして盛り上がってる。


「夕夏、私とどっちが主に気に入られるか勝負ね」

「なにそれ、私が勝つに決まってるし」(くだらない。早く帰りたい)


 盛り上がる三人と心でため息をつく一人を乗せて車はトンネルに到着する。


 人の手が入らないトンネルは一面に苔が生えて、水が滲んで湿っている様子がライトの光に照らされ知ることが出来る。エンジンを切ると瞬時に暗闇と静寂が訪れ、水が滴り水たまりに落ちる音が響く。


「よし、エンジン切ったし。窓を開けてっと。あっ、エンジン切ってるから開かねえや。城木とりあえずクラクション頼むわ。三回な」


 ビィーーーーーー


 ビィーーーーーー


 ビィーーーーーー


 クラクションが三回トンネル内で響いた後、卓がドアを半開きにして身を乗り出すと、わざとらしく大きな声で叫ぶ。


「貢物を献上しまーーす!! 超可愛いのが二人もいますよーーーー出てきてよ~」


 静かなトンネル内に卓の声が反響する。


「なに勝手にアレンジしてんだよ」

「いいじゃん、こういうのはノリだって!」


 卓と城木が言い合っていると、夕夏が僅かに上擦った声を出す。


「ね、ねえ……何かを引きずるような音が聞こえない?」

「なに夕夏? マジなトーンでさ、盛り上げ上手すぎ」


 ──ズリッ  ズリッ ズリッ


 四人が耳を澄ますと、地面を擦る音が四人に近付いてくる。それは足を引きずって歩くようなリズムを刻み、ゆっくり、ゆっくりと確実に近づいてくる。


「おい、マジでなんか聞こえねえ!」

「ちょっとやめてよ。ねえ帰ろう、車出してよ」


 真顔で言う卓に、怖くなった恵が城木を揺さぶって急かす。


「ねえ! 早く出してよ」

「そ、それがエンジンがかからない」


 エンジンスタートのボタンを押すが、エンジンが動く気配はなく、ボタンのカチカチという音がやけに響く。


「はあ! ふざけんなよ。ちゃんとやれよ!」

「やってるって! かからないもんはどうしようもねえだろが!」

「ど、どうする車出て歩く?」


 パニックになる三人に夕夏が外を指差しなが叫ぶ。


「外、外見て! いる。白い人が……」


 顔面蒼白な夕夏の叫びで三人が窓から外を見ると、三人の白い着物を着たおそらく女性と思われる人がゆっくりと車に近付いてくる。三人は女の能面を被っており表情を知ることはできない。


 車までやって来ると二人が左右に分かれ後部座の窓に面を擦り付けながら中を覗く。

 その首の角度は人とは思えないほど大きく傾き、能面の目と口が上下反対になり、長い髪が地面に垂れる。


「なんだよこいつら! く、来るな!」

「夕夏、夕夏……」


 四人が恐怖に泣き叫びながら車内で寄り添い能面の女達の動向を見守る。というより、それしかできない。


 一人が車の前に立ち、二人は左右を挟む様に並ぶとエンジンのかかっていない車がゆっくりと動き出す。


「おい嘘だろ! どうなってんだよこれ」

「ヤバイって! くそドアも開かねえ」


 卓と城木は怒号を上げ、夕夏と恵はお互い抱き合って泣いてお互いに励ましあう。


 そんな四人を乗せた車は、能面の女たちに先導されるように進み、トンネルの壁に吸い込まれ消えてしまう。


 そして今の出来事が嘘のように静寂と闇がトンネル内に訪れる。

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