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花天月地  作者: 功野 涼し
黒猫探偵事務所
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再会

 桐が退院して二日たったが、怪我の経過観察の為自宅待機中である。


 怪我の治り具合もよく、明日から学校に行くように言われているが、桐は行くつもりはない。

 両親に改めていじめのことを伝えると、学校に連絡して事実確認を行ってくれるが、学校側はいじめの事実を把握していないとの回答をもらう。


 事実を調査中だからと、後は先生の仕事だから任せなさいと言われる。


 明日学校に行くフリをしてさぼろうと計画している。学校に行きたくないのは勿論だが、今は何より牡丹に会いたかった。


 会って夢で見たことを話したかった。


 桐は今まで両親の言うことは素直に聞いてきた。良い子だって誉められるから、それが当然のことだと思っていた。


 今回初めて逆らおうとしているわけだが、良いことなのかは分からない。まだ何もしてないのに心がチクチクし、居心地の悪さを感じるていることから悪いことかもしれない。 


 でもどこか両親に対してこの小さくも大きい反抗に、高揚感を覚えていた。


 冷蔵庫から炭酸のカルピスを取り出すと、ソファーに座りテレビをつける。連日騒がしてた通り魔事件は進展がないからだろうか、報道時間は短かった。


 今のテレビは芸能人の不倫騒動にお熱のようだった。


「犯人、捕まるわけないよね」


 桐はポツリと呟くと、あの日の事を思い出す。


 牡丹が刺され、自分は切られ、死を覚悟したそのとき、光と共に現れた橘花。彼女は化け物を一瞬で倒してしまった。


 怪我をしていて意識が朦朧(もうろう)としていたが、空から落ちてきたこと、そして背中に羽があったような記憶が(おぼろ)気にある。


「まるで天使みたいだったな」


 再び呟くともう一つの疑問について考える。


 それは入院中、警察の人達から事情聴取を受けたとき、カウンセリングや病院の先生などと話したときに感じた違和感。

 桐は神社の森で怪我をして橘花に運ばれてそこから救急車に乗ったはずなのに、近所の道で怪我をして倒れている所を、匿名の人による通報によって救急車で運ばれた事になっていた。


 詳しくは分からないが、血痕など現場検証をすれば場所とかすぐに分かりそうで、警察が間違える訳がなさそうだと思われる。何か別の力が働いているような気がしてならないと感じてしまう。


 牡丹に会いに行けば、橘花にも会えるはずだから色々と聞いてみようと思いながら、今は手に持っている炭酸カルピスの喉越しを楽しむことにする。



 ***



 次の日学校に行きたくないと伝えるが、返ってきて答えは「保健室でも良いから行きなさい」だったので予定通りサボりを決行する。


 日頃なら学校に行ってる時間に全然関係無い場所を歩くのは、どこか違う世界にでも来たみたいで新鮮だった。


 いつもなら開いているお店がまだ閉まっていたり、開店の準備に忙しそうにしている人や、道路を掃除している人。仕事に向かう人達が足早に歩いて桐とすれ違う。


 桐と他の人達の存在している時間も違うような感覚。自分だけ時間の流れがゆっくりに感じる。


 そして悪いことしている感じに、ちょっぴり酔いながら橘花の事務所に向かう。



 ***



 桐が途中たまたま開いていたお店を見つけ、手土産を買って橘花の事務所へ着くと、トラックが停まっていてなんだか騒がしい。


「ここで良いですよ。あ、はいご苦労様まで~す。うわ~! 橘花様! これフカフカですよ!」

「でしょ! 結構良い値段したもん。勿論!」

「給料天引きですか……」


 大きな荷物を受け取って、感触を確かめ大喜びしたかと思うと、すぐにしょげる牡丹を見て橘花は笑っていた。

 だが、二人を遠くから眺めていた桐の視線に気付くと、手を振って近付いて行く。


「桐さん、退院おめでとう。その格好……学校は今から?」

「え、えっとサボり……ました」


 語尾が小さくなる桐を見て、察した橘花は笑いながら手を引っ張り牡丹の下へ連れていく。


「ほら、牡丹。桐さん来てくれたよ」


 橘花に手を引かれ困惑気味の桐を見た牡丹がは、目に涙を溜めて飛びつく。


「きりーー! 怪我大丈夫ですか? 痛くないですか?」


 強く抱きしめられ牡丹の無事を喜ぶ桐だが話し方に違和感を感じる。


「牡丹さんってそんな喋り方でした?」

「あのときは桐を止めようとしてたから、知的な喋り方が良いと思って意識して喋ってたんですよ」


 分かるような分からないような説明を受けて、とりあえずそういうものだと桐は納得しておく。


「ほら、立ち話もなんだし中に入りましょう。ついでに桐さんそこの布団一緒に運んでもらえる?」


 橘花に言われ布団を事務所の二階に運び込む。階段を上がってすぐの部屋に入ると中に布団を梱包から取り出し敷く。早速敷きたてにの布団に滑り込んだ牡丹が幸せそうな顔でゴロゴロ転がる。


「はぁ~夢にまでみたお布団ですよ~。ソファーの上も良かったですけど、マイ布団なんて最高ですね~。実はこれはプレゼントだなんてことあったりするとか……サプライズとかなんちゃって」


 潤んだ瞳の牡丹が上目遣いで橘花を見るが、橘花は同封されていた布団の明細書を見ながら呟く。


「全部で八万五千円かぁ」

「うぐっ! この人本当に天使なのですか」


 楽しそうにやり取りする二人を見て桐が笑う。


「今日、桐さんは牡丹に会いに来たの?」


 橘花に言われ思い出したように買ってきたお菓子を差し出し深々と頭を下げる。


「き、今日は牡丹さんと橘花さんにお礼を伝えにきました。そ、そのこの間は助けて頂きありがとうございました」


 頭を下げお礼を言う桐を見て牡丹が涙目で感動している。


「桐からお礼を言われる日が来るなんて、生きてきて良かったです」


 ぐす、ぐす鼻を鳴らしながら涙する牡丹。そんな牡丹の頭を橘花が撫でる。


「桐ちゃんは気にしなくて良いからね。病院でも言ったと思うけど依頼として処理しただけだから。締めて五十三万円でね!」

「はぐっ!」


 牡丹が変な声を出す。


「ご、五十三万円て……」

「ああ桐さんは心配しなくて良いから。牡丹が全部払うから」

「え? え?」


 橘花が答える度に混乱度が増していく桐を置いて橘花は下の事務所に降りるように促す。


「お茶くらい出すからそっちで詳しく話そうよ。桐さんも牡丹もお互いに聞きたいことがあるんじゃない?」


 その言葉に桐は頷くと部屋を出て事務所へ向かう階段へ向かう。


 牡丹を橘花が支えながら階段を降りているのを見て、桐はなんだかんだで仲の良さそうな二人を微笑ましく思う。

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