生徒会長だろうが!
生徒会長、それは学校生徒の代表として組織される生徒会の中にあってその中枢を担う人間であり、それは同時にその学校の看板である、ということを意味する。
生徒会長になる人間は大きく2つ、本気で学校を良くしようとしている志のある人間か、内申点のためにやってる奴かだ。
また、生徒会長になる人間は大抵頭脳明晰で清廉潔白な人間である。教師もスムーズな学校運営のためにそれを望み、保護者ですらも、その学校の関係者ですらも、その学校の威信と名誉を保つためにそれを望むのだ。
幸いなことに我らが安祥総合高等学校の生徒会長は、志高く容姿端麗で頭脳明晰な優秀な生徒会長である。
が、しかし・・・
「泰家、接吻をしよう。」
この状況はなんだというのだろうか。
「できるわけないだろ!ここどこだと思ってんだ!なんで教室前でしなきゃいけないんだよ!」
「愛の形に場所など関係あるものか。お前が望むのなら、今ここで服を脱いだっていいんだからな?」
「生徒会長ならそういうの取り締まらなきゃいけない立場だろ!っていうか、俺はそんなこと求めねぇよ!!」
なぜ拒否をされるのだと言わんばかりに首を傾げる彼女こそ、当校の生徒会長である神住江麗奈である。
彼女の完璧さは名前負けしないほどであり、誰からも慕われ憧れられる人間であったし、当然俺もその口だった。
どうにかして近づきたい!どうにかして付き合いたい!と下心丸出しの状態で受けた生徒会選挙で見事当選し、書紀を勝ち取った。
そして猛アタックの末に江麗奈と付き合うことに成功したのだが、そこからが問題だった。江麗奈は好きなものに一直線というメリットにもデメリットにもなりうる性格だった。
そして、現状俺に対する好きの一直線はあまり良くない方向に行っている。
「恋人たるもの、互いに愛情を表現していかなければ。そうは思わないか?」
「だとしてもここじゃねぇだろ!もっと・・・人がいない所でだろ!」
「そうか。」と江麗奈は納得したようだ。
良かったよか「じゃあ、今すぐ校舎裏に行こう。」やっぱり良くなかった。
「大体!今は体育祭中だろ!お前が生徒会室にいないでどうする!」
「泰家も一緒じゃなきゃ・・・イヤだ。」
「おぉぉぉぉい!!そんな目で見るのはやめろ!」
渾身の上目遣いが決まったところで、校舎内の見回りの任についていた俺はあえなく生徒会室に連行された。
生徒会室にはもう何枚かの試合結果を告げる紙が置かれていた。これを集計して放送で流すまでが生徒会長である江麗奈に与えられた仕事である。
分かりやすいスコアシートならまだしも、累計での出場停止などが絡んでくるサッカーなどの集計はいちいち面倒くさく、その上間違えられないという重要な任務だ。
昨年の生徒会長はそこの集計をミスし、サッカーの決勝は揉めに揉めたのが脳裏にこびりついている。
「はぁ・・・、仕方ないから手伝ってやる。」
「その必要はない。この程度ならすぐに終わる。」
そう言うと、速読技術でも使っているんじゃないかというほどにスピーディーにスコアを集計し、1つ1つに生徒会長のサインを入れていった。
こうした真面目に仕事をする姿は本当に尊敬できるしいくらでも見ていられるのだが、流石にさっきのような姿はこちらがタジタジになってしまう。
付き合ってまだ3ヶ月ということもあるだろうが、こっちが必死になって追いかけていたはずなのに、いつの間にか追いかけられていたのだから、全く何がなんだか、といったところだ。
それからは、スコアをすべて見終わり、学校中にアナウンスすると、それと同時くらいにまた他の種目のスコアが届きそれを見て、という繰り返しだった。
他の生徒会役員は、というと、江麗奈が自分の種目及び友人の出る種目はどんどん参加・応援すべしという発令をしたために、たまにスコアシートを回収して持っていくか、なにかトラブルがあった時に対応する程度だった。
これは江麗奈がそれほどまでに要領の良い人間であると同時に、どこか抜けている部分がある人間であるということを顕著に現していた。
「そういえば、江麗奈はあと何でんだっけ?」
「クラス対抗リレーだけ、何故かアンカーになってしまった。」
「今年は女子アンカーの年だもんな。」
江麗奈は「はぁ。」と一つため息のようなものをついた。
そして肩を回すような仕草をした。
流石に疲れたのだろうか。もしくはこちらへの合図か。
俺はまあ、ふたりきりだしいいか、と思い、思い切って江麗奈の後ろに立つと、そのまま肩を揉んだ。
「はいはい、ご苦労ご苦労。お客さん、調子はどうです?」
「変な茶化しだ。」
「うるせぇ。こんなキャラでも被ってねぇと肩なんて揉めねぇっての。」
江麗奈は思わず吹き出した。
少しでも和めたなら良いか、とホッとした。
その容姿と明晰さから、様々なタスクを負わされることが多く、それを解決したところでまた次のタスクが来るといった感じで、隣で見ていても江麗奈はかなり大変そうだと感じていた。だからこそ、二人でいる時にあんな感じになるんだろうな、とどこかで納得もしていた。
「頑張れよ。」
「うん。」
クラス対抗リレーの直前になり、俺たちも生徒会室を出た。
すでにメイングラウンドに全クラスが集合しており、リレー参加メンバーは招集場所に集まり始めていた。
江麗奈を送り出すと、俺はクラスの輪の中に入った。
俺のいる3-2はスタートと同時に快調に飛ばした。
陸上部2人を筆頭にかなりのスピードランナーが揃った陣容だった。
対して江麗奈の3-4は必死に上位に食いつくも、むしろ最下位のほうが近い位置についていた。
そして最終走者にバトンが渡された。
トップの3-2からほどなくして江麗奈にもバトンが渡った。
そこからは江麗奈の猛追が始まった。
たった50mで3人を抜かし、残るは3-2のみ。
しかし、そこの差は明らかに大きかった。
差を詰めはしたものの、江麗奈は2位を維持したままゴールテープを切った。
走り終わったアンカーを皆で走って迎えに行ったが、俺はそれに混ざりながらも悔しそうな表情を見せる江麗奈から目を離すことができなかった。
リレー後、すぐに閉会式が執り行われ、その場で通常の生徒は解散になった。
生徒会役員は最後のリレーを含めたスコアの集計と、学校誌に乗せるための整理の仕事が残されていた。
手分けしてやり始めたはいいものの、正直皆ヘトヘトだった事もあり作業効率は上がらなかった。
1時間経っても終わらなかったが、江麗奈の唐突な「解散」の音頭によって、俺と江麗奈以外の役員を帰してしまった。
「良かったのかよ。」
「なにがだ?」
「皆、帰して。」
「人が居たところでそれが疲弊していては無駄だ。それよりも有意義な静養と友との一時の想い出の方がよっぽどいい。」
「ふ〜ん。じゃあ、誰かさんもそうすれば良いのに。」
「たわけ。それでは終わらないままだ。」
自己犠牲の精神はいい事だ、しかし、それと自分だけを犠牲にするのは違う。
俺は江麗奈のそんな危うさを放っておけなかった。
結局、更に1時間が経過しようかというところで作業が全て終わる事ができた。
俺たちは作成したものを纏めていたが、途中で江麗奈の手が止まっていたのに気づいた。
江麗奈が見ていたのは、最後のクラス対抗リレーの結果だった。
俺はそんな江麗奈にそっと近づいた。
「江麗奈。」
「なんだ?」
江麗奈がこちらを向いた瞬間、俺は江麗奈の唇を奪った。
江麗奈は少しだけ驚いた表情を見せたが、すぐに穏やかな表情に変わった。
「今日のご褒美。とりあえず、今日だけだからな。学校ですんのは。」
「・・・うん。」
江麗奈は唇を強く合わせた。
それは感触を忘れないようにするためだろうか、俺にはかえり知らないところであった。
あんまりクサイのは苦手だが、たまには、という出来心がそうさせたに違いない。
江麗奈のためになったのならば少しは良かったのかもしれない。
「ところで泰家。」
「ん?なんだ?」
「接吻以上のことは・・・いつ学校でしてくれる?」
「だ・か・ら・お・ま・え・は・生徒会長だろうがぁぁぁあああ!!」
前言撤回。
やはり江麗奈には、まだ早かったようだ。
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