夢(you&me)①
「お待ちしておりました。」
俺は夢を見ている…のか!?
かなり景色が鮮明だ……雲の上のような光景が遥かに広がっている。
「貴方様は人生をやり直したいとは思われませんか?」
「出来るのですか?」
「お望みとあらば…」
「出来るなら、やり直したいです。」
「それではご説明申し上げます。」
「まず…この空間では、貴方様は魂だけの状態でございます。」
「魂…?」
自分の身体を眺める。実体はあるように思える。
「パラレルワールド、異世界転移という言葉をご存知ですか?」
(パラレルワールド、異世界転移…魔法とか魔獣とか勇者とかチートとか…ゲームや漫画によく出てきたな…)
「皆様よくその様に思われますが、少なくともこの入り口はそういった世界には繋がっておりません。」
(…心を読んだ??)
「現実と似て少し違う平行世界、あるいは現実とは全く違う世界の事ですか?」
「はい、その認識で概ね間違いはございませんが…
こちらの入り口でご案内出来るのは、前者のみでございます。」
(…こちらの入り口で?…
他にも入り口があるのか?…では荒唐無稽なあり得ない世界への入り口もある?)
「こちらの空間は数多あるパラレルワールドの入り口の一つでございます。
こちらでご案内出来るのは貴方様が生存されている世界のみとなります。」
「現実と似た平行世界への入り口という事ですか?」
「左様でございます。」
「人生には色々な分岐路がある。人はどれかの道を選び、現在の自分になっているのでございます。」
「分岐路…自分が選択した道の事ですか?」
「選ばなかった道もある。
それらも含めて、選択の数だけ時空を超えて、ワールドは存在するのです。」
「それと、人生のやり直しがどう繋がるんですか?」
「魂がパラレルワールドを渡り、過去に存在するその世界の自分に入り、魂が融合される事で、人生のやり直しは可能となります。」
「選択を間違えた道を選び直す事が出来るんですか?」
「はい。可能でございます。最初はお試し期間がございますが、貴方様が望み、その世界と相性が合えば、正式に転移する事が可能でございます。」
「転移可能…」
「では、自分の魂は転移を希望する時空に行けるのですね?」
「左様でございます。」
……………(心から愛していたよ。今迄大事にしてくれてありがとう。本当に幸せだった)…………
あの言葉が俺の頭に反響している。
(やり直しが出来るなら、すぐにもやり直したい!)
「逸るお気持ちはお察ししますが…貴方様はどなたかをお待ちなのでは?」
「待つ…?」
(まさか…ミキが来るのか?)
暫くすると…女性の姿がボンヤリと浮かび上がってきた。
(ミキ…)
夢にまでみた…と言うかここは夢の世界なんだろうけど…
俺はミキに微笑みかけた。
しかし、その姿は幻のように目の前で消えてしまった。
「消えてしまった…」
「彼女の思いが、まだ淡く儚いものだったのでしょう。」
「また彼女は来ますか?」
「彼女に思いがあるならば、また来訪されるでしょう」
(ミキにも人生をやり直したい気持ちがある?…幸福そうに見えたのに…)
「彼女を待たれますか?」
「はい、ここで会えるなら」
「畏まりました。それではまたお目にかかりましょう。またのご来訪、心よりお待ち申し上げます。」
そして…雲の世界はボヤけていき…
俺は目を覚ました。
(変な夢を見た…)
全く内容は覚えていない。
だが、昨夜の落ち込んだ気分が嘘のように晴れやかな目覚めだった。
(…なんだろう…とても嬉しい夢だったように思う)
階段を降りると母と兄嫁が朝食の用意をしていた。
「おはよう」
「あっ、おはようございます」
「義姉さん、俺は義弟なんだから、敬語は要らないよ」
少し笑いながら言った。
(敬語は要らない…昔ミキに言った…ん、ミキの夢?)
夢だけで…こんなに元気になるものか?…
「今日はだいぶ元気になったみたいね?
…昔から寝ればなんとかなるって言われていたような、いないような?」
「寝る子は育つ、だろう。
また母さんは…いい加減な事言う」
俺の元気が戻った事を察知して、母も少し嬉しそうだ。
なんだか、今日は1日頑張れそうな気がする!
そして…夜眠るのが待ち遠しい。