⑤邂逅
俺の結婚生活は、実質一年ちょっとで終わった。
元妻に対する感慨は全くない。いや、怒りの感情だけはある。
二度と思い出すのも嫌だ。
高校の頃からの友人に久しぶりに飲みに誘われた。
結婚していた時には友人との集まりにも全く行けなかった。
「離婚したんだってな」
「よしてくれ。思い出すのも吐き気がする。」
それでも、昔から気心の知れた友人には事の顛末を話す。
「とんでもない女に捕まったな。」
友人は笑うでもなく、真剣に話を聞いてくれた。
「世の中にはいるんだってよ。
常に男が側にいないと不安でしょうがないって女が…」
「なんだよ、それ?」
「なんだかトラウマがあるらしくて、常に予備を用意しているんだってさ」
「そんなのに付き合わされて、人生もうボロボロだよ…」
「まぁ、でもその女性はいつまでたっても、
自分で気づかない限り変わる事はないだろうな。
根本的に愛し方が全くわかっていない。
常に愛されている実感を欲して、元彼女の影や周りの女の誘惑に怯えている。
ある意味、可哀想な残念な女なのかもしれないな」
「可哀想?ふざけるなよ!お前が俺の立場でも、そんな事言えるか!?」
「悪い、悪い…一般論だよ」
友人は暫く間を置いて
「俺はお前はあの大学時代の彼女と結婚するとばかり思っていたよ」
「………」
「まぁ、かなり手痛い授業料払ったんだから、今度はいい相手を見つけろよ」
肩をポンっと叩かれた。
(…いい相手…そんなもの…もう完全に女性不信だよ…)
グラスに入ったウィスキーを生のままグイッとあおった。
それから半年が経った頃…
俺は新規開拓した取引先との商談で、都心に来ていた。
待ち合わせた喫茶店で珈琲を頼む。
「……ここは確か……」
そうだ。ミキの勤務先の近くの喫茶店だった。前に仕事帰りのミキと待ち合わせた事がある。
「まだあの会社で働いているのだろうか…」
大きな窓硝子からは交差点の歩道が良く見える。
「あの時は歩道に向かって手をふったな…」
そう思い、何気なく視線をあげると…
「…ミキ!」
以前よりかなり痩せて、髪は長くなっているが、確かにミキだった。
洒落たスーツを着こなし、すっかりキャリアウーマンといった様子で、年配の男性と会話をしながら歩いている。
「…なんで…」
ポツリと呟いた所に商談相手がやってきた。
もっと眺めていたい気持ちは強かったが、席を立ち、挨拶と名刺交換を行った。