①出会い
彼女とは新入社員の頃に初めて出会った。
営業先の販売店の事務員で、自分より6歳年上の女性だった。
初めて会った時には単純に綺麗な人だなぁ、と思ったが…仕事で頻繁に出入りするようになると、姉のような存在になっていった。
なかなか営業に慣れず、いつも固くなっている俺に
「そんなにカチカチにならなくても…最初は不慣れでも段々慣れるものだからね」
優しい言葉と笑顔でいつも俺を気遣ってくれた。
仕事以外で会う事はなかったが、1年ほど経ったある日
「今度のお休みはいつなのかしら?」
「土曜日です」
その頃の俺はミキと会う日が段々と減り、休日をもて余す事も多かった。
「もし良ければだけど…たまには食事でもしない? …あっ、彼女さんに悪いかしら」
それまでも仕事の合間の雑談程度だが、ミキの話をした事もあったので、俺に彼女がいる事は知っていた。
「いえ、彼女は今週の土曜日は仕事だと言っていたので…大丈夫ですよ」
「じゃ、たまにはお姉さんとご飯食べに行こっか?」
彼女は茶目っ気たっぷりに言った。
「はい、お願いします」
その頃の俺が彼女に惹かれていたか…と言えばそんな事はなかったと思う。
やはりいつもミキの事ばかり考えていたから。
「ふ~ん、それで彼女さんは今仕事に夢中なんだね。」
ランチのサラダをつまみながら、彼女が言う。
「結婚ってタイミングだから…もう、出来ちゃった婚とかでもいいんじゃない?」
「え…と…それが、まだそこ迄行けなくて…」
「えっ?もう5年も付き合っているんでしょ?なんで?」
「その…彼女が怖がるので…」
彼女は暫く沈黙していたが
「君はどれだけ優しいんだか…辛くないのかな?」
「…辛くないとは言えませんが…でも彼女の笑顔が好きなので…」
「優しいね。でも一方的な我慢し過ぎは続かないと思うよ~」
そんな会話を交わして、その日は別れた。
それから何度も誘いが来た。
ミキに悪いな…とも思っていたが、話はだいたいミキの話なので、さほどの罪悪感はなかった。
そんなある日、彼女が
「私なら、君をそんなに悩ませないのになぁ」
上目遣いでそう呟いた。
(えっ?…)
初めて彼女を姉ではなく、女性として見た。
(そこからはあっという間だったな)
次にプライベートで会った時、すぐに関係を持った。
ミキともたまに会っていたが、自分の気持ちが、既に彼女に傾倒している事は自覚していた。このまま二股は…出来ない。
そして…ミキに別れ話を持ち出した。