夢(you&me)④
(失恋した直後の自分だったら、やり直したかっただろうな…)
彼女の心の声が聞こえた。やはり俺にも聞こえるのか。
思わずミキの心の声に答えた。
「今はやり直したくないの?」
俺は懐かしい彼女に走り寄り
「ミキ!」
名前を呼んで、抱きしめる。
しかし、彼女は両腕で思い切り俺の身体を離した。
(そんなに嫌がるなんて…俺はやはりもう嫌われているのだろうか)
「どうしてそんなに嫌がるの?」
「えーっと…」
「やっぱりミキだ!」
懐かしいフレーズに俺は舞い上がり、再び抱きしめようとする。
(あ、そうか…これは私の夢の中。記憶がなせる技ってやつね)
「違うよ!」
彼女は不審な顔をして俺を見ている。
「一つ頼みがあるんだけど…」
「何?」
「俺と一緒に来てよ」
「何処に?」
この問いには応えず、俺は笑顔を浮かべた。
俺は彼女を伴い、現れた扉を押す。
目の前が明るくなって…
リアルな風景が現れた。
初めてキスをしたあの公園だ。
彼女と手を繋いで歩く。
小雨が降っていて…
これから彼女とファーストキスをするんだ。
「キスしてもいい?」
「……」
彼女は無言だったが、俺は迷わず、彼女の唇に口づけた。
その後、俺はまるで本当に初めてだったかのように照れた。
このリアルな世界では彼女の心の声は聞こえない。
彼女は何事かを考えこんでいるようだった。
俺は少し慌てて
「怒った?」
と聞いた。
彼女の返事は…
「ごめんなさい、元の世界に戻してください」
丁寧に頭を下げる彼女はひどく他人行儀だった。
俺は悲しくなり、顔を伏せた。
そして景色はボヤけて…
俺はベッドの上で目が醒めた。
(やけにリアルな夢だったな)
腕には彼女の温もりがあった。口づけた唇にはまだあの柔らかい感触が残っていた。
「あれ?夢での出来事を鮮明に覚えている…」
(パラレルワールド、人生のやり直し…まさか、本当にあるのか?………いや、単に夢の全容を覚えていただけか)
頭を捻りながら、俺は部屋を出て、階下に降りた。
「土曜日だからって、いつまで寝ているの?」
台所で何かを茹でている母が言った。
「いつまでって…?」
壁掛け時計を見上げるともう午後2時半だった。
「起こしてくれれば良かったのに…」
「起こしたわよ。揺すっても全然ピクリともしなかったわよ」
「あ~悪い…なんか変な、いや、いい夢見ていたんだよ」
「最近あまり眠れていないようだったから、まぁ良かったけど…」
「…そうだな。…なんか食い物ある?」
「素麺ならあるよ」
「ん、ありがとう」
俺は素麺を啜りながら、夢について再び考え始めた。