夢(you&me)③
「母さん、昨夜はごめん。」
俺は母に謝罪した。
「…いや、私こそ変な事言って悪かったね」
「写真、治してくれたんだろ?」
「…勝手な事して悪かったよ」
「いや、なんとなく嬉しかったよ」
「…なんか一枚だけ箪笥の上にあったから…
でもなんで破れていたの?」
「…結婚当初、あの女に破かれた」
「やっぱり、そういう女性だったのね」
「やっぱりって…母さんは何か知っていたの?」
「そりゃあ、長年女性同士の付き合いしてればね。
ある程度相手の事はわかるよ。雰囲気とか、話し方とか、接し方とか、目付きとか…」
「女の勘は鋭いなぁ」
「何もあの人が、バツイチ年上だからって無闇に反対した訳じゃないわよ」
「…でも俺はあの時、母さんの言う事に耳も貸さなかった…」
「若気の至り…って事だよ。若いうちは何かに夢中になれば、周りが見えなくなる」
「確かに…」
俺はあの時、冷静ではなかった。
短期間で色々な事を急いでいた。
元妻が自分の年齢を引き合いに出して言う
「もう適齢期過ぎちゃったから、早く結婚したい。子どもも欲しいの」
そんな言葉に踊らされていた。
今思い出しても忌々しい。
「あれだけ酷い女性はそうそう居ないから、お前も女性不信なんて言わないで、相手を探した方がいいよ」
「…うん、考えてみる…」
そうは言ったが、やはり俺はそんな気持ちにはなれなかった。
これ以上母親に心配をかけたくないから言っただけだ。
「叔父さんに頼んでみようか?」
「いいよ、自分で見つける。今度は母さんの眼鏡にかなうような女性を見つけるよ」
「そう、わかったわ」
考えてみれば、ミキとの付き合いは長かった。青春時代はほぼ一緒にいた。
長く、それこそ本当の意味での愛を育んでいたのに…
(断ち切ったのは俺だ)
今更ながら、過去の自分に嫌気がさす。
別れを告げた時も、決してミキの事が嫌いになった訳じゃない。あの女の罠に嵌まって上部だけの「愛」に溺れた。
(だから、今でもこんなにミキに拘るのか?
……それだけなのか?……)
今更分かれた二人の道が繋がるとは思えない。
それでも…彼女をスッパリ諦める決意がまだ出来ていない。他の未来を見る気になれない。
(つくづく…俺は後ろ向きの男だよな…
ミキに気になる相手がいるとわかっていても、諦められない。
ミクロの可能性に期待する気持ちを未だに持ち続けている…
彼女が結婚でもすれば、前を向く気になるのだろうか?)
最近では、毎晩の習慣になった1人問答をしつつ、ベッドに入る。
「あ~、人生をやり直せたらなぁ~」
そう声に出し、目を閉じた。
「お待ちしておりました。」
今晩もこの夢だ。
目覚めると忘れるが、眠ると思い出す。
昨日の夢ではこの案内人が不可解な事を言ってた。
「……彼女を伴っての転移お試しは、貴方様のご希望に沿うものにはならないかもしれませんが…」
(何故、ミキを伴っての仮転移は俺の希望に沿わないのだろう?)
「転移お試しの場合、魂の自我があるからでございます。」
「魂の自我ですか…」
「左様でございます。 正式転移の場合、魂はその世界の魂と融合をし、現在の記憶や意識は薄れ、なくなります。
お試しの場合、魂は完全に融合される事なく、記憶や意識は現在のまま残ります。」
「つまり…?」
「過去のシチュエーションが同じでも、彼女の魂の自我は元の世界のままですので、過去と同じ結果になるとは限らないからでございます。」
「なるほど…」
すると程なくして、彼女の姿が現れた。
「ミキだ…」
俺は彼女の姿に釘付けになった。