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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第84話「仲間だからこそできること」

 ハイディスは自身が語れることをすべて語った。魔物の特殊な生態は彼らの研究を大きく進めてくれるし、解毒剤や重篤な病の治療にも使える薬の開発も進められる。白魔法だけではどうにもならない例はいくらでも存在していて、そんなときには魔物たちの能力に頼ることも出来るだろう。


 そして、魔物たちの腕っぷしは本能のみで生きる厄介な害獣とも呼べる魔物たちからの守りの要として有用で、結界に割くリソースを減らすことができる。これまでは大量の物資の運搬などを馬車で行ってきたことも、竜人種やオーガのような者たちの助力、あるいは空を飛ぶ能力がある者たちにも手伝わせるのも可能だ。


 魅力的な提案は多く、国王も頷く。いつの間にか宰相も興味津々に耳を傾けていた。それほど彼女の熱意が伝わっているということなのだろう。


「待て、ハイディスよ。ひとつ聞きたいのだが、我々のメリットはよく分かる。しかし、そなたらが求めるものはなんなのだ?」


「我が望むものは貴公らが持つ技術だ、国王」


 指をぴんと立てて彼女は言う。


「地を耕し、森を豊かに、水を美しく。我ら魔物というのは、そういった技術に乏しく能力も持たない。操れはしても、貴公らのように環境を美しくするのは難しいのだ。我はその技術を理性ある魔物たちに伝え広め、魔界の土地を快適な環境に作り替えたい。……可能ならば家畜を育てる方法も教えてほしいかな」


 結局、ハイディスたちが人間界を狙ったのもそれが最もたる要因だった。魔界という荒れ果てた地は、永遠に生きていくには厳しい環境が過ぎる。だからこそ自然豊かで美しい人間界は彼女たちにとって宝石以上の価値があった。


 そこで当時、邪魔になったのが人間の存在だ。彼らに土地を譲ってほしいと言ったところで分かり合えないと決めつけて、奪い取ったほうが早い、と結論を出したハイディスを中心にした魔物たちは侵攻を開始。支配を敷くようになった。──だが、それが今では過ちだったと彼女は反省する。


「我らが互いにいがみあうことなく手を取り合えれば、もう魔物たちがあらゆる資源を求めて人間を襲うこともない。そのために、我の知る者たちを呼び集めたい。魔王として君臨していた頃、決して与しなかった者たちを」


 魔物の中でも、ただ奪うだけでは意味がないと彼女に協力をせず、勇者に手を貸しさえした者たちがいる。基本的には人間に関わろうとせず静かな暮らしを今でもしている、とハイディスは言う。


「本当にそのような者たちがいるのか?」


 国王が疑問に感じるのも無理はない。実際に会ったこともなければ、そんな報告を受けたこともない。今のハイディスのような協力的姿勢を見せてくれる魔物の存在はいささか信じられなかった。


 そこでエイリアが「私が証明しよう」と割って入る。彼女はフラッドの着ていたローブを掴んで、勢いよく脱がせた。


「さあ、そろそろ薬品の効果が薄まる頃だ」


 堂々と腰に手を当てて立つフラッド。額で縮んでいた角がゆっくり元に戻っていく。完全な大きさではないが、それでもオーガにしてはかなりのものだ。誰もがひと目でオーガだと分かり、どきっとして身構えた。


「彼女はフラッド。私が旅の途中に出会い、今日までを共に過ごしてきた。幾度と危機を乗り越えてきた友人だ。ハイディスがまだ私たちと争っていた頃、闘争を望まず同胞からも決別した生き方を選んだ魔物のひとりだ」


 宰相が国王の肩をぽんと叩く。


「やはり信じられませぬ、国王陛下。都市には結界が張っていたというのに、あのエイリアめは魔物の侵入を許すどころか手助けまでしております。どちらが取り込まれているかなど一目瞭然、ただちに捕縛すべきでは……」


 優柔不断な国王はよく悩み、宰相の言葉に天秤を傾けた。「では、なにか他に、絶対にそなたらが裏切らぬという証明はあるか?」と。


 自身なき未来に至るまでハイディスたちが絶対に人類と手を取り合える、互いの友好を刻むための証を欲しがったのだ。


「それは……ううむ、貴公らに何を差しだせば……」


 エイリアがいれば説得も上手くいってくれる、話し合いで解決できる術を人間は持っている、と信じてやってきたが、相手から信用されないのは当然だ。なんとかしてもう一手を打ちたいと思いながら、しかし彼女は何も持ち合わせていない。自らの首を差し出すわけにも、と考えているとフラッドが彼女の背を優しく叩く。


「もう良い、貴様はようやった。ワシに任せよ」


 魔力を放ち、結界による肉体への痛みも堪えて彼女は本来の姿を取り戻す。エイリアも突然のことに何をしているのかと不思議がっていた。何かしら彼女がこの事態を解決する手段を持っていないと思っていたからだ。


「ワシがハイディスの代わりに示そう。──この我が角を以て」

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