第73話「またしてもロクでもない再会」
不意打ちに振るわれた剣を咄嗟に握った杖で受け止めたが勢いを押さえきれず、階段にいたフラッドたちにぶつかって遠く階下へ落ちていく。
放り出されたのは、さきほどまでのジャングルとは打って変わって砂の敷き詰められた観客席の並ぶ〝闘技場〟。騎士や傭兵、ときには魔導師でさえもが己の腕を磨き、戦いに明け暮れるための場所。地上にも存在するエイリアが最も興味のない血と汗の飛び交う闘士たちの世界。強さに生きる者の舞台だ。
「ぬう~! エイリア、なんじゃアイツは!」
「……スケルトン。人間が死後、魔物になった姿だよ」
杖にひびが入り、エイリアは緊張する。彼女の持つ杖はそう簡単に傷がつくような代物ではない。それをいち魔物に──それも世間的にはそれほど脅威とされていない──ひびを入れられるとは思っていなかった。
「フ、パワーがあるとなれば吾輩の出番だな。ドレイクの皮膚は混血だろうと関係なく頑丈だ。たかが剣の一撃くらいは易々と受け止めてみせよう」
「──いいや、だめだ。あれは君の勝てる相手じゃない」
前に出ようとしたロッソを制止する。
「なぜだ? スケルトン程度の魔物ならば吾輩ひとりでじゅうぶんだろう。魔導師の力を使うほどの相手じゃ……」
「あれがそのへんにいるヤツなら任せたけどね」
杖を構え、臨戦態勢に入る。これまでよりもずっと真剣なまなざしで、対面するスケルトンを鋭く睨む。
「……ブリッツ、こんな形で再会するなんて」
自分以外には討伐できない、おそらく現時点では地上最強クラスの魔物。かつて四人で討った魔王にも匹敵する相手。彼女は装備を見て悲しそうな顔をした。
「いいかい、スケルトンってのは魔物になる前の人間次第で強さが変わる。多くは村の人間なんかが魔物の瘴気によって抱いた怨念が自分の遺物に取り憑く形で変化するから危険も少ないとされるが、傭兵だの騎士になると話は別。そして今、私たちの前に立つスケルトンの生前の名はブリッツ。魔王を討った勇者。──大英雄のひとりだ」
剣はあらゆる邪悪を切り裂き、盾はあらゆる厄災から身を守る。そのうえ身体能力は魔王──あるいは多少弱くなっていたとしても、現時点でエイリアが本気を出さなくてはとても戦えないほどだ。フラッドやロッソが単独で挑めば間違いなく秒殺されると見た彼女は、初めて一歩も下がらない意志をみせる。
「もとはと言えばこいつらがしくじったから私がつまらん仕事を押し付けられて、魔法薬の研究を中断するはめになったんだよな。こっちの研究成果も活用できず、その結果がこれだ。──おしおきの時間と行こうか、ブリッツ!」
くるりと杖を回す。魔法陣が彼女の正面に現れて二匹の狼がとびだした。一匹は白く輝き、もう一匹は黒い煙を漂わせる。
「光のルミエ、闇のテネブル。ブリッツには君たちが適任だろう」
俊敏で力強く、ひと咬みで鉄をも引き裂く。いくらスケルトンが強いとはいえ精霊ほどの強さの相手に咬みつかれればひとたまりもない。だが単体で挑むのは精霊とて厳しいのが英雄だ。しかし現状は三対一。エイリアもいれば状況は優勢と言える。
『おお、テネブル。あれが英雄の成れの果てか』
『なんで死んだんだ、あのガキは。情けないな』
どちらも呆れて牙を剥き、喉を鳴らす。
「はいはい、毒を吐かない。私のために働いてくれたまえ」
ブリッツが動き出す。雷電を纏う剣の斬撃は広範囲に及ぶものだが、ルミエとテネブルは体が大きいにも関わらず身を翻してすり抜け、反撃を行う。同時に襲い来る牙も、目に留まらぬ速さで盾を構えて防ぎきるのは、とても並のスケルトンでは見られない動きだ。
そこへ隙を突くようにいくつもの鋭い氷柱が頭上から降り注ぐ。エイリアは後方で魔力をフルに使い、援護射撃を行った。
「これだけの連撃、流石に全部は防ぎきれないだろ」
したり顔で周囲を満たす冷気の向こうを見つめる。待っていた光景はルミエとテネブルが消滅し、ブリッツが盾を持つ腕を失っている姿だった。
「……あれ、おかしいなぁ。私の計算では上半身は砕けてるはずなのに。まさか薬品の効果切れないまま死んだのか?──ま、いいや。次は粉々にすり潰そう」




