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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第71話「黒い影は常に近くにあるもの」

 飛び出して来たのはスライムだ。液状のからだを這わせて近付いたところで彼女たちに複数方向から襲い掛かった。


 普通の人間にはとても脅威になるだろう存在。体内の中心部を漂う小さな核を破壊してしまえば簡単に排除できるとはいえ、取り込まれれば身動きも取れず、過去に多くの人々が犠牲になったこともある。


 だがエイリアたちにとっては低級な魔物の一種にすぎない。あっという間に弱点を突いて、十数匹はいただろうスライムたちが瞬時に全滅した。


「うん、余裕だったね。みんなはどう?」

「平気じゃ。この程度では運動にもならぬ」

「吾輩も問題ない。だがひとつ気になることが」


 四散したスライムを見て、彼は腕を組んで「うーん」と唸る。


「スライムというのは本能で生きている。吾輩が知る限り、こやつらは生態的にも群れをつくらず個々で狩りをするのが常識のはずだ」


「でも実際には群れを作ってたみたいだね、奇妙な話だ」


 どろりと粘ついたスライムだった液体を指ですくい、エイリアはそれを平然とした様子で口に運んでなめとってみる。


「なにをしとるんじゃ貴様……」

「なにって味見だよ。別に普通のことじゃないか」

「スライムは魔物じゃろ。喰うのか人間が?」

「食べられるならね。でもこれはあんまり美味しくないな」


 もうひとくちを含んでエイリアは微妙な表情を浮かべた。


「水っぽいかと思ったらなんだかちょっと金属みたいな感じもするし、急を要したときの水分補給にするには口のなかに残る感触が悪い。魔力を含んでるからそっちには使い道がありそうだけど、労力に対して得られるものは少なそうだね」


 興味さえそそられれば汚れたものだろうと平気で手にもするし、食べられそうだと思えば口にもしてみる。何かの役に立つ可能性を絶対に捨てようとしなかった。しかしフラッドとロッソはいまいち彼女の行為が信じられなさそうだ。


「貴様はスライムがどうやって食事してるか知っとるじゃろ。獲物を生きたままゆっくり溶かして吸収するんだから、全部溶け切ってないときはそういう味がする。──つまり貴様が喰らって感じておるのは獲物の体液、血の味だ」


 もしそれが人間だったら? と、遠回しにエイリアへ伝えようとする。しかし彼女はニヤリと返して。


「分かってるよ? けれど私はたとえばこれが人間であろうがなかろうが、スライムに有用性が認められるかどうかのほうが重要なんだ」


 無邪気で狂気。エイリアは人間という種でありながら同族への仲間意識がいくらか薄く、利用価値があるものを優先的に考える節があった。幸いにも最低限の常識をルールとして捉えているので、『助ける』といった行為はできるようだが。


「むう……貴様には人の心がないんじゃのう」

「そんなものがあっても実験の役に立たないだろ?」

「まあ、かもしれんのう。貴様からしたらだが」


 オーガのなかでも温厚で仲間意識の強いフラッドからすると、あまり理解のできない部分ではあった。しかしエイリアは魔導師であると同時に研究者だ。既に吸収され形も残っていない何者かに興味もなければ、スライムがなにを食べていたとしても『生態の研究になる』程度にしか考えていない。


「ま、とにかく使えないことは分かった。次のステップだ」


 核だったクズをつまみあげて、ひょいと投げ捨てる。


「こいつらが群れを作ってた理由ってなんだろうね? 思ったよりも統率が取れていて飛び出してきたときは少し驚いたよ。本能で生きるはずの連中が意思を持っていた、そう考えるのが自然だろう。あるいは誰かが操っていたか」


 彼女の立てた仮説にロッソがうなずく。


「吾輩は後者だと考える。過去にそういった実験が魔王城で行われていた話は聞いているぞ。スライムは使い道によっては強力な魔物だ、痛覚などもなく本能的な捕食行動を行うばかりで、意図的に操ろうと魔力を核に注いでみたり色々あった」


「なるほどねえ。だとしたらこれもそうだろうな、間違いなく」

「根拠でもあるのかのう、エイリア? こやつらが操られてたと」


 仮説は仮説にすぎない。根拠らしいものはなかったが、ひとつの疑惑がエイリアのなかに湧いていた。


「魔導迷宮は普通、簡単に突破できるものじゃない。生物の存在を感知して壁が発生したり罠が作動する。……けれど私たちはなぜか難なく通り過ぎ、罠のひともつないただの迷路を正しく進んだだけ。おかしいと思わないか」


 あれだけの大掛かりな魔力の消耗で、それほど難しくない迷路をすこし歩かされた程度の魔導迷宮に拭えなかった違和感は、スライムたちの襲撃に集約された。


「なんらかの方法で私たちの存在はダンジョン内にいる魔物に知れ渡り、この見通しの悪い場所へ来るのを待ち構える(・・・・・)ような仕組み(・・・・・・)があったはずだ」


 杖を握り締め、エイリアはさらに周囲を警戒する。


「でなきゃこいつらは私たちを集団で同時に(・・・・・・)なんて狙わない。そしてもしスライム共が誰かの統率下にあったのなら──もっと強力な魔物が近くにいる。警戒を怠るな、次はこんな雑魚じゃすまないかもしれないからね」

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