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第7話「大魔導師の実力」

 我が道を征くエイリアの振舞いは、意思疎通が可能な相手ならば誰もがどうにか彼女と距離を置きたいと思うだろう。魔物であってもそれは変わらない。万能の大魔導師や四英雄のひとりとして呼ばれる以上に、ひたすら厄介な性格だった。


「はあ。それでワシと何を話したいのだ、貴様は?」

「う~ん、色々あるけど……ああ、でもその前に聞かせてくれないかな」


 穏やかで温かく迎え入れてくれるような雰囲気のある美しい森に現れた違和感の正体を探るべく、まずは好奇心よりも動物たちの安全を考慮して周囲を見渡す。


「ここらへんに大型の魔物がいたはずだ。足跡があったが、見てないかい? 魔物同士なら気配感知はお手の物だろう。近くにいるなら教えてほしいんだけど」


「……ああ。それなら貴様のうしろで舌なめずりをしておるな」


 そこでようやく大きな影が迫っていることに気付く。だがエイリアは振り返ろうとしない。変わらずニコニコ笑って「あ、そう」とむしろ楽しんでいるようにも見える。相手は魔物で、影から考えても人間など丸のみにしてしまうような大きさだろう。それでも平然としているのをフラッドは不思議そうにした。


 現れた大型の魔物は翼竜種だ。うろこに覆われた頑丈な体と大きなかぎづめを持ち、太い尾は木々をなぎ倒す。背に大きな翼をたたんで森のなかを闊歩してきたのだろう。そして目の前にちょうど良い獲物を見つけ、ゆっくり、ゆっくりと巨体を静かに進ませた。そしてついに大口を開き、槍よりも強そうな牙で食らいつこうとする。


「おい、貴様死ぬ気か?」

「まさか。私に指一本、いや牙一本さえ触れられるものかよ」


 翼竜の動きが止まる。咬みつこうとして顎を閉じたはずが微動だに出来ない。エイリアはそこで初めて振り返り、大きな翼竜の姿を確かめて嬉しそうに。


「はは、いい大きさだな。魔物も食べたらなかなか美味だと聞く」


 突き出した指の先から小さな光の玉が現れる。翼竜の口へと飛び込んでいき、すうっと消えていく様は洞穴を進む松明のようだ。


「──聖なる炎の守護者よ、我が祈りと共に闇を払いたまえ」


 それは呪文だ。簡易的なものでしかないが、それでも四英雄とされるエイリアが放つ魔法の威力は普通の魔導師たちとは桁違いで、耳をつんざくような炸裂音が翼竜の口から炎と共に吐き出され、わずかな悶絶があって息絶えた。今は鼻の痛くなるような焦げついた臭いが周囲に流れている。


「うーん。しかし大きいな、全部は持っていけないが……」

「なんじゃ、くれるというのならもらってやらんこともないぞ」

「ハハ、なかなかいい態度だ。とても親近感を覚えるよ」

「ワシは魔物だからのう。貴様は人間のくせに魔物みたいな性格じゃな」

「人間にだって多いよ? ま、私の場合はさらに上を行くけど」


 利用できるものならばなんだって利用する。彼女のなかに存在する罪悪感はかなり薄っぺらく、しかし何が悪い行いなのかはよく知っている。だからこそ取り繕ってごまかしたり嘘をつくことも少なくない。


しかし結果的にはどこかでぼろが出てしまいがちなので、最終的にパーティから追放されるに至ったのだが。


「あ、ところでフラッドは魔物のわりに理知的で冷静だね。人間を見てすぐ襲ったりはしないんだ、私が殺した他のオーガはみんな好戦的だったのに」


「野蛮な連中といっしょにするでない。あやつらとは違う」


 なにか事情があるのか突然表情を曇らせたフラッドに彼女は「ふーん」と興味なさげに返した。聞いたところで何をするつもりもないからだろう。それよりも魔物とゆっくり話せる機会は貴重だ、と倒した翼竜をばらばらにして運ぶ方法を考えながら。


「森の外に食糧とか載せた馬車があるんだ。よかったらいっしょにご飯でもどう?」

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