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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第64話「小さな小屋で、ひとまず寒さを凌ぐ」

 荷物をまとめて馬車に乗り、ディグ山脈の麓をめざす。息は白くなり、突っ切った風は彼女たちに冷たい。少し前までは温かな地域で過ごしていたので、なんとなく気分も落ちてしまった。用が無ければ二度と来ないだろうと思いながら。


「寒くなってきたのう。どれくらいで着くんじゃ?」

「そろそろかな。危険な場所だけど整備された道があるんだ」


 ディグ山脈は身も凍える土地で魔物もいるため人間はあまり寄り付かないが、近隣に村を持つドワーフがときどきやってきては貴重な資源を得るために道を作っているらしく、その周辺には結界はないものの魔除けの鉱石があるはずだとエイリアは言う。


「……っと、小屋があるぞ?」


 馬車を停める。整った山道の前に小屋があった。


(おんぼろに見えるが古くはない。余った木材で作ったってところか?……中から微かだが煤のにおいがする。使って間もなさそうだ)


 フラッドに待つよう言って小屋の扉を開ける。中には誰もいないが、小さい暖炉にはまだ温かい炭が残っていた。


「ふむ。鍵もかかってないし使わせてもらおうか」


 外で待たせていたフラッドを呼び、暖炉の炭にもういちど熱を持たせて部屋の中を温める。「君はここで少し待っててくれ」と彼女はひとり山道の入口周辺を散策した。


「……小屋にいたのはひとりだけかな」


 足跡は山道に続いており、途中で逸れて荒れたほうへ向かったのが分かる。ディグ山脈は雪の中に貴重な鉱石や寒さに強い薬草が眠っていることもあるので、魔導師のみならずドワーフなども足を運ぶことが多い場所だった。


 大きなブーツの跡はおそらくドワーフだろうと分かる。


「帰り道の足跡はないから、待っていれば戻ってくるかもな」


 いったん小屋へ引き返し、すこしだけ温まった中へ冷気を連れ帰る。暖炉の前で背中を冷気になでられたフラッドが、ムッとした表情でエイリアへ振り返った。


「はよう閉めろ。寒いではないか」

「ごめんごめん。しばらくここで待とう」

「なんぞ見つけでもしたのか?」

「たぶんドワーフだ。そのうち戻るだろうし、道を尋ねたい」


 ディグ山脈の地形には彼らが詳しいことをエイリアはよく知っている。ドレイク探しをするにも彼らならうわさどころか居場所さえ頭に入れていてもおかしくない。


「彼らは必ず休憩を挟む。体力があるだけに無理をしてはならないこともよく知っているから、かならずいちどは荷物を持って小屋に戻ってくるはずだ」


「で、戻ってきたヤツに道を尋ねるわけだのう。どれくらいで?」

「さあ。それは個体にもよるよ、二日戻らないヤツもいる」


 それを聞いた瞬間、フラッドはげんなりする。


「そんなに長いのは嫌だのう……。メシが食えぬのは我慢すればよいが寒いのは到底我慢ならぬ。使えそうな薪はどうするんじゃ、自分たちで割れば良いのか?」


「ある分で間に合うと思うよ。足跡もそんなに新しくなかったし」

「ム。なら構わんが、信用しても良いのじゃな?」


 初めての経験はフラッドに警戒心を持たせる。エイリアはうなずいた。


「ああ、自信はあるとも。それより小屋の裏にある薪を運ぶから手伝ってくれるかい? 私ひとりで肉体労働なんてごめんだからね」


「メシを食わせてもらってるのだ、それくらいは働こう」


 ふたりでせっせと薪を運び始める。小屋の扉を開け放ったので、中に閉じこもっていたわずかな熱気は瞬く間に追い出されてしまったが、エイリアはすぐに魔法で多めに薪を燃やして部屋を暖め始める。


 作業が終われば、今にも壊れそうなおんぼろの椅子に座って休憩だ。


「コーヒーでもあればいいんだけどねえ。買い忘れてしまったよ」

「あの苦いやつか。ワシはあまり得意ではないのう」

「ははは、好みは分かれるだろうね。私もブラックは苦手だな」


 せいぜい水を飲むか、薬液を飲むかの選択しかない。しかし寒すぎて水もかなり冷たくなっているので、どうしてもその気になれなかった。


「ああ、そうじゃ。それよりもエイリアよ、言っておきたいことが」

「なんだよ改まって。君らしくない言い方だけど」

「ウム……なんじゃ、その。いまさらなんだがのう」


 寒さに手を擦り合わせ、暖炉に向かったままフラッドは言う。


「あまり半人だからとて魔物を信用せんほうが良いぞ。特にドレイクは」

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