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第5話「薬草でも採って行こう」

 町中で買い物を済ませ、大きな幌馬車の荷台はすでにいっぱいだ。多くはもともと積んであったものから空き瓶や空の木箱などに占領されていて、寝る場所はひとり分がせいぜい──それも怪しいくらいの狭さ──になっている。


「あら、ひょっとして買いすぎたかな? ま、いっか」


 食糧もいくらか買い足して、水は川で汲めばいいとした。多少濁っていたとしても、魔導師であるエイリアにとっては飲み水にするくらい朝飯前だ。そうしていざ旅は始まり、町のそとへ飛び出したあとは当てどなく馬を走らせた。


 最初に足を運んだのは、王都からそう遠くない『ソアレの森』。薬草が豊富に生え、木には果物が成っている人々から動物までの天国とも呼べる場所だ。最近では魔物の存在が確認されたなどのうわさもあったが、彼女はたびたび訪れては採取に勤しんでいる。


「ふふーん、相変わらずいい場所だなあ。今日は何を採って行こう? 疲れが吹き飛ぶ栄陽草(オノルサ)も、眠気が爆ぜる精月草(セレルナ)も悪くない。……あ、お馬さんたちは森の外で待っててね。ちゃんと結界を張っててあげるからなにも怖くないよ」


 馬を撫でたあと、懐から取り出した試験管の薬液を馬と荷台を囲むように撒いて、軽く指で触れて魔力を流し込む。ほんの数秒だけ発光したら結界の完成だ。


「大変だな、君たちも。だが人間でなくて良かったと思えよ? もしそうだったなら私の庇護を受けられる機会なんてまずなかったんだから」


 多くの研究者は動物を実験対象として扱うが、エイリアはそうではない。自分たちで生み出したものは自分たちで験すがモットーで、人間を被験者として扱い、そうでないときは自らの肉体で効能を立証してみせる。動物は彼女にとって日々の営みの手助けをしてくれる大切なパートナーだった。


 そして意外にもエイリアは〝動物に好かれる〟性質を持っている。そのうえ手製の薬品で会話さえしてみせるので、森に入ればそれが当たり前かのように野生動物たちがひょっこりと顔を出して、挨拶でもしにきたように彼女に近寄ってくる。


「やあやあ、うさぎさんたち。元気にしてたかな、おーよしよし」


 指先で額を撫でながらふわふわな感触を楽しみつつ、懐に残った試験管を一本取り出してふたを開け、中に入っていた青い液体をぐびっと飲み干した。


「ヴォエッ……まっず! なんか混ざってたなコレ!?」


 むせてしまいそうなほどの強烈な苦みに涙を浮かべながらも耐えて「よし、じゃあうさぎさんたち」と薬草をあちこちから集めて持ってくるよう伝えて、木々にとまった鳥たちには高い場所にある細枝や葉を頼んだ。森の主とでも言わんばかりに我が物顔でやってきた狼には、小型の魔物から小動物たちを守るよう任せる。


 それからひとりで森を歩き、道中で木からゆすり落とした色鮮やかな木の実をかじってもぐもぐと頬張りながら散策する。その道中で大型の魔物の足跡を見つけて、少しだけ興奮した様子でまじまじと眺めた。


「おや~? 町の近くにまで大型の魔物が来るようになったのか? 馬よりずっとデカいな、コイツは。……ん~、駆除しとくべきかどうするべきか」


 ひょこひょこ傍にやってきたいっぴきのうさぎが、足跡を見てぶるっとしてから小さく鳴いて走り去っていった。面倒だなと思っていたエイリアも、それには仕方なさそうに頭を掻いて「いつも世話になってるしなあ」と諦めて、駆除を決意した。


「じゃあ、ちょっと探してみようか。奴らは薬草もダメにしてしまいかねないしな」

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