第40話「気乗りはしないけど、魔物退治を請けてみる」
道に迷ったとは言わないが、なんとなく察していたのだろうオーガたちは三人を連れて外に出る。ふたりぼそぼそと「まあ、首長は方向音痴だしな」と呟いているのがしれっと耳に届いたが、フラッドはなにも言わない。顔は少し赤かった。
馬車をけん引してもらうことにして、フラッドは御者台に座り、エイリアたちは荷台でゆっくりと里に着くのを待つことにした。
がらごろと車輪が石を蹴飛ばしながら進むあいだ、エイリアは果物を食べながら「ねえねえ、聞きたいことがあるんだけど」と馬車のうしろを歩くひとりのオーガに声を掛ける。「なんだ、人間? 俺に惚れたか?」と言われて一瞬だけ殺意が湧く。
「そうじゃないんだけどね。君、名前はなんていうの」
「俺はバルトンだ。フラッド様の護衛みたいなものだな。元々は」
「ふうん。で、君たちも人間の言葉が流ちょうに話せるんだね」
「学ぶのは難しくない。オーガは馬鹿ではないからな」
言語自体は覚えたが今でも字は書けないらしく、すべては里の首長であるフラッドが『静かに暮らしたいだけのオーガが必要以上に人間と争わなくてもいいように』と学ばせたおかげで、話せない者のほうが今では少ないと語った。
(へえ、角が大きいとは思っていたが首長か。そりゃ湖のヌシくらいなら簡単に殺せてしまうわけだね、なんてヤツを仲間にしちゃったんだろう……)
若干の後悔はありつつも、フラッドに敵意がないのは安心できる話だ。だが、さきほど自分はエサにされそうだったのを思い出して「君たちって人間も食べてるの?」と聞いてみると、バルトンは「うーん」と腕を組んで難しい顔をした。
「基本的には食べない。何年か前に、助けた人間に裏切られて里を襲撃されたときは食糧にしたこともあった。フラッド様が人間の男なんぞに惚れておられなければそうはならなかったのだがね。ま、結果的にはあんまり悲しんではいなかったが」
「うん、それは本人から聞いたな。……で、最近はどうなの?」
「何人か殺しただけで食べてはない。里の周りで大きな魔物が出るようになって食糧難だったときに、彼らをエサにする必要があったんだよ。そろそろ飢えてきた頃だったから、あんたたちは食べてしまうつもりだったけどな。バレなければいいと思って」
三人が閉じ込められた洞窟はオーガたち手製の罠だ。中程度の魔物を捉えるために用意されたもので、魔物をおびき寄せるのに最も有効となるのが人間だったとバルトンは話して、申し訳なさそうにしながらもそれほど反省はしていないようだった。
「魔物も大変ですのね……。たべようとされたことは不本意ですが、魔物退治なら私たち、少しは心得がありますわよ。ね、エイリア?」
「ん? ちょっと待て、それって私たちがやるべきことなのか?」
無駄な体力を使うだけだとエイリアは否定的だ。彼らの生活に興味はあっても、わざわざ手を貸してやる理由はない。自分の研究が進めばそれでいい。だがカレンは違う。これはただの魔物退治でオーガの生活を助けるだけではないと考えた。
「良いですか、エイリア。すでに犠牲になってしまわれた方には何もしてあげられませんが、今後誰も犠牲にならずに済むのです。彼らを助けることは、なにも知らずにやってくる人々を救うことにも繋がりましてよ!」
「そんな英雄気取りのことする必要あるの、本当に」
「英雄気取りではなくて英雄ですわ! ここで退くなどありえません!」
「……気合入ってるなあ。仕方ない、興味ないけどやるかあ」
カレンはいちど言い出したら引き下がらない。エイリアはゆっくり研究に没頭したかったが、ひとまずは魔物退治に興じなければそんな余裕も与えてはくれないだろうと諦めて、彼女に協力をすることを決める。
「本当か、ありがたい! 俺たちでもどうにもならなくてな」
「任せてよ、さくっと退治してあげるから。ま、そのぶん報酬は頂くけど」




