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第3話「研究費用が出るんだったら」

 渋々な態度で王城までやってくる。出迎えられてもうれしくないが、城内を歩くメイドや騎士、果ては貴族たちまでもが彼女を英雄のひとりと認識して放さない。手を振られれば振り返すし、挨拶だって丁寧なものではあるが苦笑いばかり浮かべていた。


(苦手だなあ、こういう空気。なんでブリッツたちは平気だったんだろ?)


 ちかくにいた騎士に謁見の間までの案内を頼んで国王へ会いにいく道すがら、相手に不快感を与えずに断る方法がないかばかりを考える。


(うーん。誰かに手紙を出すときでもそうだけど『本当に大丈夫か』ばっかり頭に浮かんできちゃうなあ。今回は見送らせてください? 今はもっと研究に没頭していたい? とても体調が悪い?……どれもピンとこない。ま、いっか! 適当に言い訳しよう!)


 ぼんやりしているうちに「着きましたよ、エイリア様」と声を掛けられて我に返る。騎士の肩をぽんと叩いて「ありがとう、君はきっと良いヤツだ」そう言って笑いかけた。


 豪奢な二枚扉のむこうにはいかにもな赤の絨毯が玉座へまっすぐ道を示すように伸び、国王と護衛が堂々たる姿勢で彼女を待ち構えていた。


「おお、これはエイリアよ。久しぶりだな」

「そうですねえ、国王陛下。何か月くらいだっけ」

「二年ほどになるが……もしやそなたとくに覚えてない?」

「あー、はいはい。魔王を討ったときに褒賞をね、うん。覚えてますよ」


 露骨に目が泳いでいる。完全に嘘だと誰が見ても分かった。


「……うぉっほん。まあよい、それよりも大事な話があるのだ。手紙の通り、勇者ブリッツを含む三名の英雄が、魔物発生の原因究明中に命を落とした。だが悼んでいる暇はない。世界には魔物が蔓延り、人々はまだ恐怖のなかだ。そなたには彼らのあとを引き継いで調査を行ってもらうと同時に、彼らの死についても調べてほしい」


 国王の頼みにエイリアはうーんとあごに指を添えて、視線はちょうちょでも追い掛けていそうな上向き具合をしながら「死んだ理由なら分かってますよ」と答えた。


「な、なに? それは本当なのか、エイリアよ」

「ええ。まあ……彼らはもともとそんなに強くない(・・・・・・・・)ですから」


 国王も護衛の騎士たちも目を丸くした。勇者ブリッツと二人の仲間は魔王を討った英雄だ。それをあっけらかんとした雰囲気で、彼女は強くないと言い放ったのだ。


「彼らはたしかに弱くはなかったし魔王と戦う素質もあった。けれど、それは退魔の装備に加えて私の魔法薬があったからです。私をクビにして他の誰かに頼ったところで同じ薬品は生み出せない。彼らの死の原因は根本的な勘違いによるものです」


 エイリアのつくる魔法薬は、単純に特別な材料を調合したら済むというものではない。魔物から採取したうろこや体液、特殊な生息地域の薬草などさまざまなものに加えて彼女の膨大な魔力が注がれて初めて『最高の魔法薬』がつくられる。どこにでもいる普遍的な魔導師に同じことをさせても大した効能は得られない。それが〝万能の魔導師〟と呼ばれる彼女の能力、あるいは技術と呼ぶべきものだった。


「大魔導師たるゆえんを理解もせず、私の研究資料だけあればなんとかなると思い込んだが最後。魔王ほどでなくても強い魔物に出会えば返り討ちの可能性もじゅうぶんにあったことでしょう。どーせ自分たちの実力を過信して変なヤツに挑んだんでしょ」


 いまさら自分を捨てた仲間のことなど心底つまらなそうに話す。国王は残念そうにしたが、彼女のなかでは雑草が庭に伸びていることくらいどうでもよかった。


「……そうか。では、そなたには魔物発生の原因を──」

「お断りします。すごく面倒くさいんで」


 理由を考えるのも疲れてしまって、ぽろっと本音が漏れる。その性分は昔からなのか、国王はさほど気にも留めることなく肩を落として「残念だ、援助は惜しまないつもりだったのだが」とつぶやいた。途端、エイリアの目の色が変わる。


「待って、それってつまり私の研究費出してくれるってこと?」

「ああ。そなたの知識は戦闘のみならず人々の暮らしにも役立つだろうと」

「お任せあれ、国王陛下。かならずや究明してみせましょう」

「……相変わらず現金な奴よのう」

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