第11話「そうです、立派な偽善者です」
結局、本当に瓶の中身は空っぽにされてしまった。驚くべきことに、切り分ければいったい何十人分あるのかと思うほどの大きさだった翼竜はきれいさっぱり切り刻まれて骨だけ残り、残った肉のすべてをフラッドはぺろりと平らげた。
体の大きさは人間と変わらないうえ食べても腹が出っ張るようなこともなく、しかし満腹にはなった様子を見てエイリアもさすがに首をかしげた。
「……どうなってるの? どこに吸い込まれたの、あのお肉は」
「ム? そりゃあ……吸収されたんではないのかのう」
「いやいや。ある程度はそうかもしれないけど……ええ?」
見た目だけが似ているだけで、体内は根幹から人間と違うのだろうか? では排泄などはどうなっているのだろう、と素朴な疑問を抱きつつ、フラッドに聞いたところで答えなど出るわけがないと諦めて出発の準備を始める。
「うーん。興味が惹かれるね、魔物ってのは。前に魔王のとこで見たヤツ、いっぴきくらいは死骸でいいから持ち帰って解剖してみるべきだったかもなあ」
「あまり良い趣味とは思えんが。そもそも役に立つのか、そんな研究」
「そりゃあ、魔物にだけ効く薬品とか作れるかもしれないだろう?」
「なるほど。たしかにそれもそうじゃのう」
魔物について分かっていることは少ない。これまでも漠然とした形態で『彼らがどう生きているか』を知ったくらいで、基本的には魔王討伐のための障害程度にしか捉えておらず、彼らにどれだけの種族が存在し、種類が分けられ、なにを主食にしているかなど、魔導師としてだけではなく賢者としての側面も持つエイリアさえ知識にない。
「だが、結局は殺すための道具を作るのであろう」
「そうだねえ。世界はそれを望んでるから。──でもね」
焚火をしっかり消して、馬車を動かすために御者台へ飛び乗り手綱を握った。
「君たちでもだけど〝そうじゃない方法もある〟ってことを考えなきゃ」
「……そうじゃない方法?」
首をかしげて、まったく答えが見つからないフラッド。エイリアはそこに自分なりの思考を積み重ねた末の明確な結論を持ち出して語った。
「そ。今聞いて思ったんだけど、魔物も人間も結局はどちらかを排除することしか考えてない。しかも魔物に至っては食べるためとかじゃなくて、単純に〝殺して遊ぶ〟という凶暴性に寄ってる部分があるから、私の持っている、あるいはこれから手に入れる知識でそういうものを消すか、もしくは緩和できれば彼らとの共存を築く方法もあるはずだ」
魔物の発生原因。無尽蔵に湧いてくるのは問題だが、それを突き止められれば発生数を大きく絞ったうえで彼らから生態系を崩さない程度に凶暴性を取り除き、これまでよりも豊かな世界の構築を目指す。──というのは建前だ。実際のところ言い訳として素晴らしいものと捉えていて、本心では『魔物がいたほうが絶対面白い世の中になるし研究も楽しくなる』などと考えていた。そんなことはおくびにも出さなかったが。
「なるほどのう……貴様も立派なことを考えるのじゃな」
「あっはっは。そりゃあ英雄のひとりですから」
勘違いさせられたフラッドの言葉に鼻を高くする。息をするように嘘をつきながら、彼女はみずからの行いについて恥じることもなければ悔いたりもしないだろう。
「さあさあ君も乗って。荷台でも御者台でもいい、そろそろ出発だ」
「は。そうじゃな、たらふく食ってワシも満足じゃ!」
ひょいとエイリアの隣に座って腹をさする。決して満腹そうには見えないが、これ以上は食べられないといったふうな満ち足りた表情はしていた。
「よーし。では君の薬を作りに、いちど森へ帰るとしますか!」




