第10話「美味しく食べてみよう」
嘘偽りの感じられない自信に満ちた屈託のない笑みは、信じようという気持ちにさせられた。フラッドが魔物であるという事実など彼女には生い茂った雑草の種類よりどうでもいい話で、共に旅が出来る貴重な体験をふいにするくらいなら、なにがなんでも手放さないように努めるだろう。
焼けた翼竜の肉にかじりつき、もぐもぐとリスもさながらの頬張り具合なエイリアを見ながら──あまり美味しそうには食べていない──くすりと笑いがこぼれた。
「実に面白い小娘じゃのう、気に入ったぞ」
「それは嬉しいね! で、どのくらい?」
「貴様が食うておる肉くらいじゃな」
「待って、それすごく微妙じゃない? 美味しくないんだけどコレ」
「ハッハッハ! 火を通しすぎじゃ。半生くらいがいちばん美味い」
「それ早く言って? 豚みたいにしっかり火通さないとダメかと」
いささか不服そうにするエイリアに申し訳なく思ったのか、目にも止まらない速さでひっかいて翼竜をばらばらに裂き、手ごろな大きさにちぎったあとで火に炙り、自分のをかじりながら焼け具合を確かめる。頃合いになったら彼女へずいっと差し出した。
「ほれ、食うてみよ。美味いぞ」
「んむ。はむ。……うん、あんまり美味しくないね……」
「ムゥ……ワシは美味いがのう。なんでじゃろうな?」
がつがつと勢いよく食べ進めるフラッドに首を傾げる。
「ていうか君、生で食べてなかった? これ根本的に生き物としての差か?」
色々な疑問が浮かんでは消えた。まったくフラッドも答える気がないのか、あるいは聞いてないのかずっと食事を続けている。彼女は仕方なくじっくりひとりで考えてから「あっ、もしかして」と何かに気付いて、また馬車のほうへ戻る。
「む? なんじゃ、何かわかったのか?」
「そうなんだよ~。なんか足りないなと思っててさあ」
ごそごそと持ち出してきたのは胡椒の実や塩の詰まった瓶。調味料で味付けをすることで美味しく食べられるはずだとノリノリで焚火の前にやってくる。
「魔物にはない文化だと思うけど、私たち人間は料理をする。こうして食材に味を付けて調理することで、いっそう美味しく食べようってわけさ! とくに私は胡椒と塩、あとはトウガラシが好きかな。口のなかが痺れるぜ、君も食べてみないか?」
近くにあった石で胡椒を細かく砕き、塩といっしょに肉へ擦り込んでじっくりと焼く。香ばしい匂いが漂い、フラッドは興味深々で差し出された肉を受け取る。手が油でべたつくのも気にせずに触って、嗅いで、大きな塊も口をあんぐりあけてぱくりと食べた。
「~~~~っ!? なんという美味さ、これが料理というヤツか!?」
「ハハ、だろう。味わいがあって、ぶどう酒もあれば最高だったんだけど」
さすがに荷物のなかに不要な嗜好品は含まれておらず、それだけが残念だと肩を落とした。事前にチェックさえしていれば町で買ったものをと自分の甘さにもがっかりする。とはいえ改めて味付けをしてから食べた翼竜の肉はそれなりに美味なもので、気分的にはそう悪いものではなかった。
「ああ、おなかいっぱい……ちょっと食べ過ぎたかもしれない」
「のう。もっと食べたいのだが。その、シオとコショーとやらで」
食べやすい大きさに切り分けて山と積んだ肉を指さす。さすがにエイリアも苦笑いだ。
「おいおい。馬車に積んであるのは一週間分程度だぞ。香辛料だってタダじゃあないんだ、いきなり瓶を空っぽにするつもりか? 代わりに君が入るなら別だけど」
「ワシにこれほどの美味なるモノを教えておいて、そのような仕打ちを……?」
本気で悲しそうな顔をするフラッドを蔑ろにするのも申し訳ない気がしてしまい、情に絆されるような形で「仕方ないなあ……」とため息をつく。
「いいよ、また買おう。ただし、そのぶん働いてもらうからな?」




