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第1話「いい金ヅルだと思ってたのに」

 ひとりの女性が机に向かっている。かりかりとペンを紙に滑らせ、真剣な目をして、散らかった部屋の状態を気にも留めず、資料をまとめているようだった。


 部屋の扉をノックされて、彼女は振り返りもせず「用件は?」と尋ねた。


「はいるぞ、エイリア。少し相談があるんだが」


 入ってきた男の言葉に聞き耳を立てながらも、手は動かし続けている。


「私の研究の邪魔をしないでくれたまえよ。話なら夜にでも聞く」

「俺が話をしに来たのは、その研究のことについてなんだよ」


 ようやく手が止まり、椅子に座ったまま彼へとわずかに向き直った。その態度はふてぶてしく、いくらか興味すらないふうにも見えた。


「話したまえ。私が君たちに渡した薬に何か問題でもあったのかな?」

「……今日でパーティを抜けてほしい。お前への援助も終わりにしたい」


 はっきりとした口調に「へえ」と返してから、彼女は何かに気付いた。


「ん? いやいや、ちょっと待て。それはつまり……クビ? 私が?」

「そうだ。それ以外にないだろ?」


 近くにあった椅子を引き寄せて座り、彼は大きなため息をつきながら彼女を残念なものでも見るような目を向ける。


「お前が役に立たないとは言わない。魔法薬学のエキスパートで、二年前には共に魔王を討って世界を救った仲だ。だが魔物の発生は止まらず原因究明のために旅を続けてきて、そのあいだに稼いだ金の殆どがお前の研究費に消えた。これ以上の面倒を見るつもりはない」


 エイリアの表情はすこしだけ青ざめた。


「ま、待ちたまえよブリッツ。私の薬は大いに君たちの助けになってたはずだぜ。やっと新しい薬品の研究も進んできたのに全部無駄にするつもりかい? 勇者なんだから、それくらいはちょっとした投資だと思ったら損はないだろう!」


 口もとをヒクつかせて動揺する彼女に対して、ブリッツは冷たく返す。


「投資するなら、もっと効率のいい方法を探す。お前の薬は万能にも等しいくらいだが、それなら今までの研究資料を買い取って他の誰かに頼ってもいい」


 既に十分すぎるほどの効能ある薬を生産、貯蓄していて研究資料も部屋にぎっしりだ。これだけあれば、他の誰かを代役にあてはめても問題ない。その考えを既にほかの仲間とも話し合ったことを彼は打ち明けた。


 エイリアは「そうか」と肩を落として、椅子から立ち上がり。


「……じゃあ出て行くよ。資料もタダでくれてやる、君たちには失望した」


 ふらふらと歩き、床に散らばった資料を踏みつけても気にせず、ドアノブに手を掛けてから、悲しさと寂しさの入り混じった表情をして振り返り────。


「君たちのこと────本当にいい金ヅル(友だち)だと思ってたのに」


 その日、とくに惜しまれることもなくエイリアはパーティを追放された。

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