悪役令嬢のはずなのに全然ストーリー通りに進まないんですが?!
目が覚めたら、そこは異世界だった。
いや、分かる。分かってる。
私は6年間ずっとメイヴィス・キャンベルとして生きてきた。
だけど、純日本人、平凡な女子として21年間生きてきた記憶があるのだ。というか、たった今思い出した。
だからこそすぐに気付いた。
ここ、乙女ゲームの中じゃん……!!!!!
『王宮ロマンス〜貴方は誰に愛される?〜』は、このありがちな名前からは考えられないほどに人気があった。
アニメ化を始め小説化、漫画化もされている。
私はゲームこそしなかったものの、小説の愛読者だった。
攻略対象は全部で5人。
セオドア・ギルフォード(17)
金髪碧眼の王太子で、一番人気なキャラ。けど、難易度は最も高く、全然好感度が上がらない。加えてゲーム内で唯一婚約者がおり、事あるごとに邪魔してくるのだ。まぁ、セオドアは婚約者にも心を開いていないのだが。
っていうかぶっちゃけこのキャラよく分からない。全然笑わないし、デレることもない。他のキャラは分かりやすいのに、好感度メーターを見ないと正しい選択をしたかどうかもあやふやなのだ。そのせいで色んな人が攻略に熱が入ってたみたいだけど。
他にも
ノア・デイビス(18)
秀才の眼鏡キャラ、宰相の息子で将来有望なツンデレ君。
サイラ・ロペス(17)
チャラ男だけど国内屈指の魔力の持ち主で、間延びした話し方が特徴的な天才と見せかけた努力家。
エドワード・ムーア(17)
真面目で女性に真摯。騎士団長の息子として、学園内ではセオドアの護衛兼友人をしている。
ウィリー・マーフィー(16)
貴族の名家の子息で、女の子みたいな顔で本当に可愛い。甘え上手だけど、ルートに入ると急に格好良くなる弟的キャラである。
ごほん、えーっと、まあ私は当時ウィリーを推してたわけなんだけど…。
何を隠そう、私 メイヴィスはこのメインキャラ、セオドアの婚約者である。
いやよりにもよってセオドアって何?!?!
1番攻略難しいし、何より好感度メーターが無い今 嫌われてるのか好かれてるのすら分かる自信ないですけど?!
…一旦落ち着こう私。
とりあえず、これはゲーム内に転生したということでいいのよね?
私は貴族の娘のメイヴィスで、7歳の時からセオドアの婚約者……ん?
これ、まだ婚約してないんじゃない?
更に言えば、小説にちょろっと「あの女が婚約しろとうるさかったから婚約しただけだ」みたいにセオドアがヒロインに言う描写あったよね??
もしかして、これフラグへし折れるのでは?!
ぱぁあ、と笑顔になる。早いうちに思い出せて良かった。このゲームは全年齢だから断罪とかはないけど、どうせなら幸せな結婚がしたい。
いやー、一時はどうなることかと思ったけど、私が迫らなきゃいいだけなんて何て楽な回避方法なんだ!
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と、思っていた時期が私にもありました。
なんということでしょう。
「メイヴィス、お前にセオドア様から婚約の申し出が来ているぞ」
ちょっと理解が追いつかない…。
ん??まって、なんて???
「お父様、もう一度伺っても?」
「だから、婚約の申し出が」
「誰から?」
「セオドア様から」
「何で?」
「……それは知らんけど」
いけない、お父様を困惑させてしまったわ。
でもおかしいよね?私ほぼ話してないよね?
そりゃあお茶会で何度か会ったけど、ちょっと話したり髪飾り直してあげたりしたけど…え、仲良くはないよね?
会ったら一応挨拶するくらいの仲じゃんね?
「それで、返事はどうするんだ?メイヴィス」
「え?えっと、断ったりって…」
「…最悪私の首が飛ぶな」
「………」
はい無理。婚約が決定してしまった。
これがゲーム補正?!でも私今10歳なのよね…。若干のズレはある、けど。
まさかあのセオドアが私を好きとも思えないし。
7年後には婚約破棄される身だもの。それまでに新しい婚約者を探しましょう。
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毎度のことながらそんな脳天気だった私をぶん殴ってやりたいわ!!
「ヴィー」
「ぐぇっ、な、何ですか?セオドア様」
思いきり背後から抱きつかれて変な声が出る。
「…何で俺が愛称で呼んでるのにヴィーはテオって呼んでくれないの?」
「いや、王族の方を愛称で呼ぶとか無理がありますって…」
「ヴィー」
「…テオ様」
「……ま、いっかそれでも」
腕の中でくるっと回転させられて正面で抱きしめられながら名前を呼ばれる。
ちなみに、セオドアなのに何でテオかっていうと英語表記するとtheodorなのでteoになるっていう…うん、現実逃避してますよ悪い?!
「…あの、皆見てます」
「そうだね」
「…ちょっとマナーが悪いのでは、」
「気にしないよ」
私が気にするんです!とは言えず、俯いて大人しく抱きしめられることしかできない。きっと今 私顔真っ赤だ。
10歳の時 無事婚約を結んだ私達は、ゲームと同じようにそんなに関わらないだろうと思っていた、が…。
必要以上にベタベタしてくる。毎日会いにくるし授業中も手を握られている。なんならセオドアはそのために左手で字を書くことを習得していた。
ハグなんて当たり前で、1日に10回はキスされる。
ゲームではエンディングでようやく薄く微笑んだが、今のセオドアはかなりの頻度で笑うし、え、セオドアって全くデレないキャラだよね?
え………もしかしてこれ私の知ってるゲームと違うの…?
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※セオドア視点(視点変わります)
3歳の時、母が死んだ。
母は元々踊り子だったのに父から寵愛を受けたため、平民上がりと呼ばれ他の妃に疎まれていた。
母の亡骸はひっそりと燃やされ、部屋の物は全て残すことを許されなかった。
死ぬ間際にこっそり手に握らされた髪飾りを除いては。
父は国王であって父親ではない。母が死んで俺は本当に1人になった。
他に子供がいなかったので実質的に俺が後継になり、母に向いていた妬みや嫉みは全て俺に向かうようになった。
食事に下剤や毒を混ぜられたり、ペンの中身を針にすり替えられたり、服に肌がかぶれる薬を塗られていることなど、日常茶飯事で。
助けてくれる人はいなかった。
俺も、助けを呼ぼうとしなかった。
ある日、王家主催のお茶会が開かれた。
そこで俺は初めて何百人という人に挨拶をし、疲れ切っていた。…つまりは、油断していたんだ。
懐に仕舞っていた髪飾りを奪われ、思いきり踏みつけられた。側室の1人で、足が滑ったのだと嘯いて。
責める気にはなれなかった。そんなことをしても、二つに割れた髪飾りはもう元には戻らない。
何もかも嫌になって、走り出した。庭園に逃げて、誰も話しかけるなと耳を塞いだ。
「どうしたの?」
「………」
「その髪飾り…」
「…触るな」
「直してあげる」
「…は?」
突然話しかけてきた少女を、信用したわけではなかった。ただもう壊れてしまったのだから、どうでもいいと自棄になっただけで。
「えい」
少女は自分の髪飾りを外すと、それをペンのように持ちながら火魔法を使い始めた。
「んー、これぐらいの火力ならハンダゴテみたいになるはずなんだけどなぁ」
ぶつぶつと呟きながら、割れた髪飾りをくっつけようとする。
「できた!」
無理矢理くっつけたそれは、あまりにも不格好で。
でも、元通りだった。
「な、んで…」
「え?だって大事な物なんでしょう?」
じゃーね!と言って走り去った少女を見送って暫くして、俺は植木の側でこっそりと泣いた。
何て言ったらいいか分からないけど、初めて俺自身の気持ちを認められた気がしたんだ。
それから、俺は王太子であれるよう努力した。
嫌がらせの絶えない妃達には媚を売り、時には弱味を握って黙らせた。
勉学も剣術も今まで以上に全力を尽くし、10歳になる頃には既に研究者や王宮騎士を凌駕した実力を身につけた。
ようやく父に顔向けできる人材になったとき、俺はその少女との婚約を申し出た。
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「あの、ちょ、っと、ん」
白い肌を耳まで真っ赤に染めて恥ずかしがるヴィーに、何度もキスをする。
あー可愛い。何でこんな可愛いんだろうなあ。
「好きだよ」
そう囁くと、ヴィーはくすぐったそうに微笑んだ。
「私も好きです。……テオ」
甘えるように頬をすり寄せたヴィーにもう一度唇を合わせ、俺は泣きながら笑った。
やっと手に入った。僕だけのヴィー。
ヴィーの為だったら何だってする。
だから、ヴィーだけは俺のそばにいて。
ヒロインを登場させるのを忘れましたが、ノア君と恋人になったようです。笑