表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たらいまわしの勇者様(笑)  作者: PKT
第二世界
5/36

2-2 相対する勇者

あれから二週間近くが過ぎた・・・はず。記憶が確かであればの話だが。

時計もカレンダーもないので、正確な所は分からない。


その後、俺はその湖の側で狩猟採集生活を送っていた。

ゴリラは動物たちの長のようで、俺がここに留まることを許可してくれた。(と思われる。もちろん相変わらず、心はともかく言葉は通じない。)


最初は遠巻きに見ていた動物たちも、俺が危害を加えたりしないとわかると、すり寄ってきたり、木の実の差し入れをしてくれたりした。

もらうばかりでは申し訳ないので、肉食の出来る動物に対しては、こちらも湖で捕った魚を焼いて、お返しに食べさせたりしている。

実は、最初に魔術で焼き魚を作った時に、ゴリラが物欲しそうな顔で見ていたため、試しに分けてやったのが始まりだったり。


そうして暮らすこと三日。体に変化が現れた。

といっても、頭にキノコが生えたとか、爪が発達したとかいうことではなく、妙に体調が良くなった。

そして、水や風の中に粒子のような光を見ることができるようになった。

引き寄せたいと思えば、向こうから手元へと集まってくる。

そこで、ようやく気づいた。これが、自然と心通わせるということらしい。

まさか、狩猟採集生活という原始的な暮らしで、覚醒するとは思わなかったが。


そこから先は早かった。水の粒子は、魔力の扱いの応用で力を込めれば水に変わり、イメージすれば様々な形を維持できた。

もちろん、ただの水なので、剣の形にしたところで切れ味はないが。

風の粒子であれば、手元に圧縮された空気の塊を生じさせ、こちらも応用が効いた。

他の属性としては、木と土があるらしい。こちらも、触れることで粒子を集めることができた。

これで、魔術の基礎である火、氷、雷と合わせて7種類の属性を扱えることになった。

おおっ!?ちょっと勇者っぽくね!?とはしゃいだのは、動物たち以外には秘密だ。


もちろん、ここを拠点に周囲を探索してもいるのだが、元凶の手掛かりは見つかっていない。

街の方はどうなっているのかなどと思い始めた頃、事態が動き出した。


ある夜、ふと目を覚まして違和感に気付いた。空が明るく、いつもより気温が高く、湿度が低い。

原因はすぐにわかった。森の西方が燃えていた。

急いでゴリラを叩き起こし、身振りと手振りで避難を促す。

あたふたと走りだしたゴリラを背に、俺は現場へと駆け出した。


結論から言えば、意図的な放火だった。

”畜生”から被害を被った者の内、激情に駆られた者たちが森に火を放ったらしい。

水の自然術で鎮火できる規模ではなかった為、火の魔術の爆風で火を消すという手段を敢行。

幸いと、明け方ごろには雨が降り始めたため、火は全て消え去った。

視界に残ったのは、煙の白と、焼け焦げた木々の黒のみ。

虚しさしか感じない光景に唖然としていると、前方からヒトの集団がやってきた。

護衛に守られるようにして歩いてくるのは、ザマー国の長だった。


「あんた、逃げ出した元勇者じゃないかい」

長は、俺の傍まで来るとそう言った。

「ああ、構えなくていいさ。別に、今更あんたをどうこうしようってわけじゃない。今日は、もっと大事な目的があってね」

「目・・・的・・・?」

てっきり、やりあうことになると思っていたので、拍子抜けしてしまう。

が、次の瞬間、長の後ろから害意が膨れ上がった。培ってきた戦闘勘に任せて、バックステップ、さらに風の術を使って後方へ。視線を前に戻すと、俺の移動した軌跡に沿って土の中から、同じ土でできた槍衾が無数に突き出ていた。

「へぇ。自然術は使えないって聞いてたんだけどね。自力で習得したのか、使えるのを隠してたのか。どちらにしろ、見どころはあるかも」

声の方を見ると、いつの間にか長の横に若い女がいた。

直感で悟る。あれは、同業者だ。つまりは・・・

「一応紹介くらいはしておこうか、この子はコロネ。新しい勇者さ」

そう言って、長がコロネの頬を撫でる。どうやら、勇者という肩書以上に可愛がっているらしい。

「この子は女だし、強力な自然術もすぐ覚えてねえ。どこかのクズと違って、とても頼りになるよ」

カチンときたが、とりあえず無視する。

「さっきの雨も、この子が降らせたんだ。どこの国の馬鹿か知らないけれど、ジャングルを丸ごと灰にされても困るんでね」

「おかげで、安眠妨害されたこっちはいい迷惑よ」

「あら?それはこいつらを痛めつけて晴らしたんじゃなかったかしら?」

そう言って、長が傍らの従者に言う。従者が抱えていたのは、ズタ袋のようなもの。よく見れば、腕が一本袋を突き破って露出している。

「いや、全然晴れてないよ。むしろ、こいつに初撃を交わされて、また少しイライラしてきた」

そう言って、コロネは袋に拳を叩きこむ。かすかにだが悲鳴が聞こえた。完全な八つ当たりだ。

どうやら、可愛い名前の印象に反して、性格は真っ黒らしい。


「で、目的ってのは?」

俺にとって、もうこのジャングルはテリトリーと言っていい。害を振りまくつもりなら、仲間のためにも戦わざるを得ない。

「なぁに、ちょいとばかし危険の芽を積んでおこうと思ってね」

「どういう意味だ」

「察しが悪いねえ」

そう笑った後、長の目に狂気が宿った。

「狂っちまう前に、ここいらの動物全て、殺しつくしてやろうと思ってねえ!!」

「!?」

最悪の宣言だった。コロネも、脇から援護射撃を飛ばす

「ケダモノ共もぉ、利用されて死ぬくらいなら、いっそ今死ぬ方が報われるんじゃないかなぁ?あは!あはははは!なぁにぃ?あたしってマジ勇者ジャン!ねえ、あんたもそう思うっしょ?ねえ?ねえ!」

他の従者たちも、口が裂けたのかと思うような笑顔をしている。揃いも揃って狂っているらしい。


「そうか。”畜生”ならともかく、善良な動物たちまで傷つけようってんなら、俺も戦わざるを得ないな」

四肢に力を込める。勝てないにしても、退くつもりはない。死ぬ覚悟を決める。

「あっれー?仮にも勇者を名乗ってる人が、人間でなくケダモノ共の味方をするってわけぇ?チョー受けるわ。・・・なら死ねよ」

急に冷めた表情になったかと思えば、指先から何かを発射したコロネ。

かろうじて首を振って避けると、着弾した部分の土が抉れていた。

直撃していたら、軽く骨まで届く威力だ。

「水一滴でも、細く鋭く形を変えて、速度をのせて発射すれば、ほらこの通り!立派な弾丸になりましたってね」

そう言って、指鉄砲から水弾を連射するコロネ。こちらは、風を操作して、弾道を左右にずらしていく。

「へぇ。なかなかじゃん、ちょっと見直したっつーか、目障りだから早く死ねェ!?」

今度は、両手から水流を発射してくる。風で障壁を作るが、いかんせん質量と勢いが違った。

一秒もかからず障壁を突破され、水流の勢いで、大きく後ろへと吹き飛ばされる。

地面を転がされ、立ち上がったその場所は、まだ火の回っていなかった部分のジャングル。

未だ、緑の残る場所。

「さて、そろそろ死ぬ?死ななくても殺すけどォ!」

先に空を飛んで一人で追ってきたらしく、コロネが前方に降ってくる。

草花が織りなす緑の絨毯の上に立つ俺と相対するは、燃えカスしか残らない焦土の上に立つコロネ。

傍から見れば、出来すぎだと言われそうな相対のシチュエーション。

人生最後の決闘が、こんな舞台だなんて恵まれ過ぎている。

欲を言うなら、勝ちたかったところだが。


「くそっ、最後まで足掻いてやらぁ!!」

炎弾と紫電を同時に飛ばす。しかし、炎は風に吹き散らされ、紫電は土の壁の前に吸収された。

技量も術の力も向こうが上。悔しいが、勝機は見出せない。

この土壇場、これが創作であればご都合主義的に、新しい力が覚醒したりするんだろうか、などとあり得もしない夢を見る。

されど、現実は非情。俺にとどめを刺すべく、コロネが手をこちらに翳し・・・唐突に吹き飛んだ。


いや、唐突にではない。それは鹿だった。

いつの間に居たのか、脇の木陰から鹿が飛び出し、地面を一蹴りしただけでコロネに体当たりを仕掛けていた。

「くっ、このド畜生が!」

左肩を貫いた角を、根元からへし折るコロネ。

鹿は、わずかにうめき声を上げてサイドステップ。

もう一方の角で頭突きを敢行する。

「二度もっ!!」

鋭い手刀が、走る。今や片方だけとなった立派な角を持つ頭が、俺の目の前へと飛んでくる。

一瞬遅れて、胴の部分もパタリと崩れ落ちる。

その鹿の顔は、間違いなく俺が湖で触れ合った”仲間”の一人だった。


「てめぇぇぇぇぇぇ!!」

怒りのまま、計算も何もなく突進する。

飛んでくる水弾は風で弾き、水流は体術と反射で避ける。

「しつけえんだよ!」

拳の間合いに入ったと思った瞬間、視界が上へとずれる。襲ってくる浮遊感、一泊遅れて視界が今度は下降する。

どうやら、地面をめくり上げたらしいと気がついたのは、でこぼこになった地面に叩きつけられて、目の前にコロネの指が見えた時だった。

「あばよ」

指先に粒子の塊が見える。1秒後には自分は死んでいるだろう。悔しさを噛みしめるように、ぎゅっと目を瞑る。


体感で1秒。覚悟していた痛みが来ない。感じるまでもなく死んだのか?

2秒。衝撃すら感じない。どうやら即死したらしい。

3秒。怒号と吠える何者かの声。


俺はまだ、死んじゃいない!


慌てて目を開き、体を起こす。

ゴリラが、心友がコロネに襲い掛かっていた。

各所から出血している。水弾を数発食らったらしい。

コロネが、俺が起きたのを確認して、こちらに水弾を放つ。

ゴリラが、そうはさせじと射線に割り込む。

赤い花が宙に複数咲く。


まなじりを吊り上げるコロネの後ろには、追いついてきたらしい長達一行。

「この勇者を名乗る不届き者が、動物を洗脳していた元凶です!!見ての通り、私にケダモノたちをけしかけてっ!!」

思い込みか大嘘か、コロネがそんなことを喚き、従者たちが戦闘の構えを取る。

その従者たちに、他の動物たちが、ジャングルから飛び出しては襲い掛かっていく。

「俺だけ、呆けてられるかよ!」

立ち上がり、駆け出す。

狙うのは、俺の心友を痛めつけてくれたコロネ。その面、その笑い、もう1秒だって見たくない!

コロネがまたも水弾を放つ。ゴリラが、体中に穴を開けながらも、やはり射線に立ちふさがる。

「しぶといのよ、こいつ!」

コロネがゴリラを脇へと蹴り飛ばす。その後ろ、ゴリラの体の死角には・・・折られた鹿の角を拾い、刺突武器として突き出そうとする、俺。

「くたばれえええええええええええ!!」

「!?」


術を練る時間はない。獲った!!



そう、確信した瞬間。


体が縫い止められる。


足元には魔法陣。


「しまっ!?」


瞬時に悟る。従者の中にいた召喚士が、俺を送還しようとしている。


「ちくしょうがああああああああああああああ!!」


奇しくも、本来倒すべきだった存在の名前を叫びながら、俺はそこではないどこかへと送還された。

お疲れ様です、作者です。

ギャグ中心に進めるはずが、気がついたら描写がシリアス寄りに。

ちなみに、コロネの元ネタは、中学時代に金属バットを振り回していた、とある不良女です。


陸上部の部員を守るために、そんな相手とボールペン一本を武器に相対していたのが懐かしくもあり、恐ろしくもあり・・・。

(注:この回想には、多少の美化と誇張が含まれています。そして、別に作者は不良だったわけではありません)


それはさておき、試作品の割に意外と呼んでくださっている方が多いようでありがとうございます。

こちらほど、物語の展開が早くはありませんが、よろしければ、メインの作品の方もよろしくお願いいたします。↓

https://ncode.syosetu.com/n9425dz/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ