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たらいまわしの勇者様(笑)  作者: PKT
第四世界 前編
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4-11 Fly high!

「こうしてまたお前と会えるとはな!」

「なぁにィ?感激で涙でもちょちょぎれちゃうってぇ?あっははは、くたばれぇぇ!」

「くたばるのはてめえだ!いつかの借り、ここで返すぜ!」

 言葉と自然術の応酬。といっても、こちらが返せるのは言葉の方だけで、術に関しては防戦一方だが。

 コロネが連射してくる鎌鼬の威力を、どうにか風の障壁で軽減する。未だに、自然術の熟練度は向こうの方が上だ。

 なにせ、向こうが苦も無く連射してくる鎌鼬一つ一つを、こちらは全力で潰していかなければならない。いや、実際には潰せてもいない。服は各所が切り裂かれ、何カ所か皮膚にまで到達している。指を紙で切ったような痛みが、体中に増えていく。


「粘るじゃん?ならこっちはどぅお!?」

 風の刃が止んだと思ったら、次に飛来したのは細く螺旋状に渦を巻く水流の矢だった。しかも、複数。

 ただ、風の刃と違い、避けるのは難しくない。身を低くしてそれらをやり過ごす。

 背後で、形容しがたい音が鳴った。追撃が来ないのを確認し、一瞬だけ後ろを振り向く。石でできている宿の外壁に穴が空いていた。

 人体なら軽く貫通するだろうという仮定は、すぐに目の前で確定に変わった。


 ポーカーフェイスのまま冷や汗を流して、戦いを見守っていたキプキスが口を開く。

「都市への被害は最低限にしてもらいたいのだが」

「るせえよ、ジジィ!!黙ってろ!」

 キプキスの要請への返事は、罵倒と水流の矢。キプキスの脇に控えていた兵士が、防弾仕様のヘルメットごと額を貫通され、仰向けに倒れた。

 キプキスのポーカーフェイスが、恐怖と驚愕で崩れていた。


「次はてめえだ!」

 再び水流の矢が飛来する。・・・先程の数倍の量で。

 三十を超えるそれらを躱すのは不可能と判断し、逆に攻勢に出る。

 短距離の転移でコロネの背後に回り、死角から首へと手刀を振り下ろす。それが細い首筋に吸い込まれる直前、腹部に衝撃を受けて見えていた光景が遠ざかる。後方に吹き飛び、民家の壁に激突するまでの一瞬で見えたのは、後ろ蹴りを放った姿勢のコロネ。

「がっ!?」

 肺の空気が強制的に吐き出され、息が詰まる。霧散しそうになる意識をかき集め、膝のバネを使って左に跳ぶ。俺がぶつかったことで軋んでいた木製の壁は、水流の矢でさらに複数の穴を空けられた。

 中で巻き添えになった一般市民がいなければいいのだが・・・などと考えつつ、急いで体勢を立て直す。

 コロネはさらに剣呑さを増していく。

「あの時といい、アンタしぶといんだよ!いい加減におっちんじまえやぁ!!」

 そう叫ぶと同時に、彼女の周囲につむじ風が巻き起こる。それは次第に勢いを増し、竜巻へと変じていく。

 姿勢を低くして、その吸引力に抗う。

 二度転移を使ったせいで、既に魔力残量はないに等しい。担いだリュックからピストルを取り出し、撃ってみるが、風のせいで弾道が逸れ、明後日の方向へと銃弾が飛んでいく。そして、俺の自然術では、あの規模の術に対抗するのは不可能。つまり、打つ手なしだ。

 やがて、周囲の民家の屋根を吹き飛ばすほどに竜巻は成長する。キプキス子飼いの兵士たちが、風圧の暴力の中へと飲みこまれていくのが見えた。


 そして、数秒遅れて俺も。

 足が地面から離れ、風の檻の中へと引き込まれる。ご丁寧にも、渦の中には微弱な威力ながら鎌鼬が混ざっており、身動きできない体を切り裂いていく。申し訳程度に風の障壁を纏ってみるが、すぐにそれ以上の風の暴力にはぎ取られた。風圧で、目を開けていることもままならない。

 そんな拷問のような時間を、何十秒か、あるいは何分か耐えたところで、唐突に声が響く。

「星になれやぁ!!」

 そんな掛け声とともに、不意に体を拘束していた風の感覚がなくなった。あるのは、不思議な浮遊感のみ。


 ・・・。


 ・・・・・・?


 そっと目を開く。太陽の光が、やけに近く感じられた。どうやら、空中にいるらしい。

 風の力を借りて、仰向けの体勢をうつ伏せへと変える。真下には雲海が見えた。


 ・・・雲海?


「うぇえええ!?」


 どうやら、あいつは俺を遥か上空へと放り出したらしい。それを認識したタイミングで、急に重力を感じた。


 真下の雲海が、急速に、近づいている。


 ・・・落下、している。


 ・・・!?


「ぬぅぉおおおおおおおおっ!?」


 人生初、生身でのスカイダイビングに、恐怖のあまり絶叫する。あっという間に雲海を突き抜け、遥か下に地上が見えた。だいぶ遠くへと飛ばされたらしく、ハスィンの城壁は影も形も見えない。


 着地・・・もとい墜落の衝撃を弱めるべく、慌てて風の力をかき集める。


 そして、大地へと激突する数瞬前を見計らい、両手に集めた風の力を下方へと放出し、さらに地面に対して体の側面を向ける。最後に、頭を守るために両腕を左右の側頭部へ。

 一瞬の、落下速度が緩やかになった感覚。そして僅かに間をおいて、全身に落着の衝撃と痺れが走る。


 どうやら即死は免れたらしいと思ったのも束の間、意識が闇へと落ちた。

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