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終焉の零れ子たち  作者: 風凛
第一章
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1-7 夜のドライブ

 はっ、と目を開いた。眠っていたことに気づいていなかった。私は腕を枕代わりに、机に頭を突っ伏していた。


「んん……」


 寝起きの声が漏れる。瞬きを繰り返して、じわじわと目の焦点が合ってきて気づいた。私の右手は誰かの手を握っている。そして、その手の先にはこちらを向いている顔がぼんやりと――


「……あっ、えっ?!」


 徐々に見えてきた景色に私は目を見開いた。私と同じように机に伏しているその顔が思っていたより近く、しかも二つの目がこちらをしっかりと見ていた。驚いた私は、握っていたものを思い切り振り払ってしまう。


 握っていたものはアヤちゃんの手だったのだ。


「驚かしちゃいましたね、ごめんなさい。私もついさっきまで寝ちゃってました。おはようございます」

「あ、いや、こちらこそ……? おはようございます」


 いや、なにがこちらこそなんだろうとよくよく思い出してみる。


 確か私はリンさんの質問に取り乱して、体も感情もおかしくなって、アヤちゃんに抱きつかれて、それで――


「え? まさか私、アヤちゃんにもたれて、寝た……?」


 ようやく思い出した様子の私にアヤちゃんは手を口元に当てて笑った。


「ふふ、そうなんです。少し落ち着いたみたいでよかったです」


 彼女の言う通りあの時感じた異常は全て消えていた。相変わらず旅については何も思い出せそうにないが、あまりに考えすぎるとまた大騒ぎをしてしまいそうな気がしてすぐに思考を止めた。


 するとタイミングを計ったようにアヤちゃんが話し始める。


「チホさんを寝かせるのには客室のベッドを使いたかったんですけど、リンさんの工具とかがすごい散らかってて……。結局テーブルに落ち着いちゃったんです」


 コンコンとテーブルを指で数回叩き、肩をすくめてみせてから続けた。


「『おはようございます』とは言ったんですけど、今夜になってまして……。リンさんが『また改めてお話ししたい』って言ってましたけど朝になるまで時間あるので、また今から寝られるのであれば寝室に案内します。私の部屋のベッド使ってください。もしそうでなければ皆さんが起きられるまでゆっくりしてもらってても大丈夫だそうです」


 アヤちゃんは無駄なく今の状況と情報を私に伝える。


「さっきのこともあるので一人で外には出さないで、とは伝えられました。でもこの建物内でなら自由にしてていいそうですよ」


 また同じことが私の身に起こったらどうなるのかと思うととても恐ろしい。今までのような今すぐ旅に戻らなければいう気はいくらか薄くなっていたので、一人で出て行くということはまずないと心の中で断言した。そして寝るという選択肢については、車の移動で一日中寝て、さらに再び昼から夜まで寝ていた私としては、またもう一眠りできる気はしなかった。


 首を横に振る私を見たアヤちゃんは何かを思い出したようにはっとして両手を胸の前で振った。


「あ、もし私の部屋使うことに気を遣われているなら遠慮しないでくださいね! 私はまた生き物を探しに行こうと思うので……」


 そう言ってアヤちゃんは立ち上がった。数歩進んだアヤちゃんはなぜか立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り向いた。


「あのー、もし嫌じゃなければ、ついて来ていただいても……暇つぶしにはなるかもしれません。いわゆる夜のドライブってやつです」

「生き物探しってドライブのことなのか……。え、でも夜なのに行くんですか? それに私、外に出ても大丈夫なのかな」


 初めてのこととどうするべきなのかよくわからず戸惑う私にアヤちゃんは後押しとなる言葉を送ってくる。


「夜だからいいんですよ、夜にしか動かない生き物もいるって本で読んだので……!外に出ることについては私もいるので大丈夫です、『一人』ではないので!」


 アヤちゃんの顔と声が生き物への情熱を物語っていた。嬉しそうな顔で私の目を見つめている。私も私で、一人でここにいても何をしたらいいのかよくわからないので、お誘いに乗ることにする。


「えっと……じゃあお言葉に甘えて『夜のドライブ』、お供させてください」


 私の返事にアヤちゃんは明るい笑顔を見せた。


「嬉しい……! じゃあ早速行きましょう! チホさん、外に置いてある車まで歩けますか?」

「もう大丈夫なはず……。あ、全然立てるし歩けます」


 しゃきしゃきと歩いて見せると、アヤちゃんは嬉しそうにうんうんと頷いた。


 廊下を渡り、扉を開けて共に外へ出た。少し緊張したが、心身ともに何事もなく外の砂を踏むことができた。


 この時気づいたのだが、あの時どれだけ押しても開かなかった外に通じる扉は内開きだった。開かない扉に取り乱した自分を思い出すと恥ずかしくなり、思わず長く息を吐いた。


 空に浮かぶ星々と大きな月が砂漠を照らしているおかげか、意外にも外は明るかった。


「エンジンかけた時にみなさんを起こさないように、夜は静かな車で行くんです」

「い、いったい何台車あるんですか……」


 静かな車は、建物の扉から壁沿いをぐるりと歩いた反対側にあった。他の車は見当たらなかったので、ここには二台、今でも動く車があるようだった。


「ふふ、チホさんとまたドライブご一緒できるなんて嬉しいです! 夜に車出すのも久しぶりなのでワクワクしてます!」


 私としては、起きたら目の前に人の顔があるのもつい最近経験したことだったものだから、さらにまた車に乗るなんて、なんだかデジャヴしか感じない。


「よーし、出発しましょう、夜のドライブ!」

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