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終焉の零れ子たち  作者: 風凛
第三章
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3-6 ケイの記憶 3

 ケイさんは、アヤちゃんの人生を大きく変えた人物。彼女はケイさんによって家族を傷つけられ、殺された挙句、《ハーフ》となったということだ。


「アヤちゃんはそのこと、知ってるんですか……?」

「まさか。教えられないよ、こんなこと」


 背もたれに大きくもたれたケイさんは天井を仰いだ。


「アヤちゃんはこのことをまだ思い出せていない。アヤちゃんはどうなのか知らないけど、俺は思い出して欲しくない……。きっとまたアヤちゃんは怒る……。戦争なんてもうとっくに終わってるのに、戦いたくないよ。相手がアヤちゃんなら尚更……」

「……だからアヤちゃんはあのナイフを使ったことがないんですね」

「そういうこと。一度アヤちゃんは使ってみたいって言ったんだけど、俺が必死に止めた。……流石に何か隠してないか、って怪しまれたよ」


 それはそうだろうな、と私は思った。そしてふと不思議な点に気づいた。


「まだ《ハーフ》になっていなかったのに、ケイさんがギリギリまで追い詰められる程にアヤちゃんは強かったんですよね? じゃあ……どうしてアヤちゃんは運搬を主にする《ハーフ》だったんですかね……」


 ケイさんは椅子から腰を浮かせながら返事をした。


「リンもそのことについて引っかかったみたいで俺に聞いてきた。でも俺も覚えてない……思い出せなかったんだ。俺が覚えてるのは、アヤちゃんが、倒れてる俺の心臓狙って拳銃構えてたとこまで。ああ、その後俺の仲間がアヤちゃんを横から押し倒してなんとか助かったとこまでか」


 ハハハと口だけで笑いながら立ち上がって伸びをしたケイさんがぴたりと動きを止めた。口元を歪めてニヤリと笑ったケイさんはこちらを振り返った。


「今、たった今、思い出した。ボロボロになって帰ったことを大人にめちゃくちゃに怒られたんだった。そりゃ怒られるよな、《ハーフ》でもない女の子にほぼ負けたに等しいんだから」


 そう言って、肩を揺らした。


 ガチャ、とドアノブを回す音がしてケイさんと私は音がした方を振り向いた。ドアの隙間からリンさんがこちらを覗いて目をぱちくりとさせている。ケイさんが声をかける。


「リン……。そんな風に覗いてないで入ってきていいよ。もう全部話し終わったから」

「あれ、もういいの?」


 そう言って入ってきたリンさんは真っ先に私のところへ飛んできた。


「重ーーーい話だったでしょう?」

「は……い、そうですね……」

「アヤちゃんには教えてあげないでね。ケイはアヤちゃんが思い出すか、気づくまでは隠したいみたいだから」


 私はもちろんです、と答えた。アヤちゃんはこの事実をいつか知った時、どう思うんだろうか、と考え始めた瞬間、リンさんが大きな声でアヤちゃんとマルさんを呼んだ。


「アヤちゃーん! マルー! もう終わったってー、戻っておいでー!」


 リンさんの声が建物内に響いてすぐ、ぱたぱたと靴音を響かせてアヤちゃんが戻ってきた。続けてのっそりとマルさんが入って来る。


 私の近くまで歩いて来たアヤちゃんは少し表情を曇らせて私に声をかけた。


「チホさん……、なんだかちょっと顔色が悪いと言うか……しんどそうですね、大丈夫ですか?」

「え……」


 アヤちゃんの言う通り、ケイさんの記憶、複雑な想い、事実を知った時アヤちゃんが思うことを考えてしまっていた。それが表情に出ていたのかもしれない。焦って私は弁解しようと口を開いた。


「そ……」


 そんなことないよ、と言いたかったのだが、声が出ない。そこにリンさんが助け舟を出した。


「やっぱり戦争の話はショックなことが多いんじゃないかな。ケイは攻撃特化だったわけだし、色々と戦場を思い浮かべたら辛かったのかも」

「そうでしたか……。ごめんなさい、チホさん、お疲れだったでしょうに……」


 しおれてしまったアヤちゃんの肩をポンポンと叩いたリンさんは、私の前でしゃがみ、目線を合わせてウィンクをした。この場合のウィンクは何の意味があるのだろうか……。まだ意味を含むウィンク――目配せの意味をイマイチ理解できない……。そんな私に気づくことなく、リンさんがケイさんに質問をした。


「ケイ、ありがとね。話してて、チホちゃんが何か思い出した感じあった?」

「……」

「……ケイ?」


 名前をもう一度呼ばれてようやく気づいたのか、ケイさんは「うおっ」と声をあげた。


「悪い、チーちゃんだよな。……一つ、単語に反応してたよ。『前衛第二部隊』」


 ケイさんがぼーっとしていたことにクスクスと笑ってからリンさんは真剣な顔に戻ってふむ、と唸った。


「部隊名かー」

「あ、あの……」


 ケイさんが言ってくれたことに少し自分が感じたことを補足する。


「なんだか、記憶として思い出したとか、何かを感じたと言うよりは、口が覚えているというか……、そんな感じでした」

「そっかー」


 そう言ってリンさんはガタガタと椅子を引いて私の近くに座った。背もたれを前にして座り、そこに顎を乗せて私にニコニコしながら話しかけてきた。


「チホちゃん、疲れたでしょ?」


 どうやら記憶の話はひと段落したらしい。もっと深く聞かれると思っていたので、急な話の方向転換に少し面食らいながら答える。


「ま、まあ……疲れてないと言ったら嘘になりますね。朝からこのゴーグルだとか色だとかで騒いで、さっきもちょっと重めの話も聞きましたし……」

「やっぱそうだよねー。じゃあチホちゃん……」


 リンさんはニコニコした笑顔をさらに輝かせて言った。


「歩く練習しよう!」

「え、私疲れたって言ったんですけど……。え、言いましたよね……?!」


 あまりに綺麗なスルーに、思わずケイさんに確認をしてしまった。ケイさんは頭を縦に振っていたが、その顔には『リンのマイペースさは諦めるしかない』とでも書いてあるように感じた。

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