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終焉の零れ子たち  作者: 風凛
第二章
22/50

2-12 握手

 一番奥の部屋に戻った私たち三人をマルさんとリンさんが迎えてくれた。


「おかえり」

「チホちゃんもアヤちゃんも、ちょっとは充電できたみたいでよかった。陽も落ちてもう寝るだけだし、また明日の朝にしっかり充電しないとだね」


 そう言いながら、リンさんは私のところまで歩いてきて、私の目線に合わせるように膝をついた。


「チホちゃん、本当に……本当にごめん。あの時私が先に気付けてたら、すぐに反応して止められてたら、何か違ってたかもしれないのに……」


 そう謝ってリンさんは頭を下げた。その顔に浮かんでいたのは、アヤちゃんに掴みかかった時とは全くの反対の表情。とても悲しそうで、悔しそうだった。そんなリンさんに、私は自分の思いを正直に告げる。


「自分でも不思議なんですけど、私、こんな状況で思ってるよりも落ち着いてて。なんかここまで徹底的に動けないとなると、しばらく旅を中断するのも仕方ないなって、踏ん切りがついたというか……。だからあの、大丈夫というか……」

「チホちゃん……」


 リンさんは顔を上げて私の目を見た。しかし私がつむる右目を見てまた少し顔を曇らせる。そんなリンさんに私は付け加えた。


「少なくとも、目的を思い出さずに旅に戻るよりはスッキリしてる……かもしれません。今できることは試して、思い出せないってのが結論、ってことですから。そりゃもちろんこの右目といい、脚といい困ったことにはなってますけど……」

「うん、目も脚も、私が責任をもって元通りにする。思い出せなかった目的も、どうにかして見つける方法を探そう。だから……」


 そこまで言って口をつぐんだリンさんの代わりに、私は言葉を続けた。


「だから、しばらくお世話になります……って事ですよね?」

「チーちゃんが嫌じゃなければだけど、どうだろう」


 自由に身動きが取れないこの状況で嫌なんて言ってられないのだから、そんな質問されても仕方がない。でも――


「私、結局何も大したこと思い出せなくて……。記憶をお渡しするっていうお返しできなかったのに、またお世話になっていいんでしょうか」

「嘘だろ、そっちの意味で今悩んでたのかチーちゃん?! いい子過ぎるだろ……!」


 ケイさんは叫んでリンさんに近づき、その肩を揺さぶった。無理やりケイさんを押し返してからリンさんは私の方に向き直った。


「そんなこと気にしなくていいよ?! 今回の件は私が悪いんだから」


 それに、とリンさんは続ける。


「まだ大した記憶じゃないって断言するのは早いよ。結局ナイフは容量オーバーで壊れちゃったんだけど、チホちゃんが思い出したこと教えてくれたら、それを分析できるし! 情報が増えることには変わりないからさ」

「そ、それならいいんですけど……」


 うんうんと頷いたリンさんは、パッと私に右手を差し出してきた。


「もしかしたらチホちゃんは本心では不本意かもしれないけど……、これからよろしくね」


 私は差し出された手をどうしたらいいのか少し悩んだ。それに気づいたアヤちゃんが教えてくれた。


「それは握手と言って、挨拶として親愛を示したり、和解するときにお互いの手を握り合うんです」

「あっ、わかんなかったかチホちゃん! ごめんね急に!」


 申し訳なさそうにするリンさんに逆に申し訳なさを感じた私は、すぐにリンさんの手を取った。


「こちらこそすみません、ほんと人と人との挨拶とわかんなくて……」


 リンさんと握った私の手を見てケイさんは嬉しそうに頷いた。リンさんの顔もぱっと明るくなる。


「不本意なんてこと、全くないです。……よろしくお願いします、リンさん、みなさん」


 私はそう挨拶を返した。


 握手を終えた私はそばに立つアヤちゃんに、こそっと耳打ちをした。


「アヤちゃん、ドライブ行ったときに『もっと一緒にいたい』って言ってくれたけどさ、叶っちゃったね?」


 アヤちゃんは一瞬笑顔を作りかけたが、すぐにものすごく複雑そうな顔をしてこう言った。


「確かにそうは言いましたけど、チホさんのマイナスな理由での長期滞在は望んでませんでしたからね?!」


 チホさん冗談きついですと文句を言われてしまった。





 車椅子を押すマルさんとリンさんの付き添いの元、私は客間()()()部屋に向かった。目を覚ますことはできたものの、ほんの少し回復しただけだったらしい。


「結局この部屋、チホちゃんの部屋になっちゃったね」

「ですね……」


 マルさんはひょいと私を車椅子から持ち上げ、ベッドに移動させた。こんな少しの移動も自分でできないとは、なかなか不便なのではないかと今更ながら気づく。


「チホちゃん、寝る前にもう一度だけ、両目見せてもらってもいい?」

「あ、はい全然構いませんけど……」


 もうほとんど痛みはなくなっていたが、視界が悪くなるという理由でずっと閉じたままだった右目を、念のためゆっくりと開いた。やはり両目を開けるとほぼ何も見えず、ぼんやりとした世界にリンさんとマルさんの影だけが映る。


「うーん……やっぱり両目の色がそれぞれ違うんだよね。記憶を呼び起こすまでは同じだったのに。左はそのままだと思うんだけど、右が何色だろう、紫がかってるというか……」

「むらさき……」


 復唱する私の右目のまぶたをそっと閉じたリンさんはにこりと微笑んでみせた。


「……ま、続きは明日の朝、もう一度充電してからにしよっか。疲れただろうし、すぐ寝れると思うよ」

「リン、僕ももう寝ないと充電が」


 マルさんはリンさんの服の裾をくいくいと引っ張り、部屋の外を指さした。


「うんそうだよね。手伝ってくれてありがと、マル。じゃチホちゃん、ゆっくり休んでね。おやすみなさい」

「あ、はい、おやすみなさい」


 手を振って出てゆくリンさんと、彼女の真似をしてか小さく手を振ったマルさんが出て行ったあと、私は確かに、すぐに眠りに落ちていっているのを感じた。


 ただ一つ、()()()()()()()()()()()と思いながら。


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