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終焉の零れ子たち  作者: 風凛
第一章
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1-2 出会い2

「はい、着きましたよってあれ、寝ちゃってますね……」

「……はいっ……?! お、起きてます!」


 少女の言っていた通り、いつの間にか寝てしまっていた。車から見える景色はいつまでたっても砂漠で変わりばえしなかったし、車から伝わる振動が少し心地よかったものだから、失礼だとはわかっていたが、寝てしまっていたのだ。


 それにしてもどれぐらいの時間車に乗っていたのだろう。


「お疲れさまでした、途中少し迷っちゃったんで到着するまでに一日かかっちゃいました……」


 恥ずかしそうに頭を掻く少女の言葉に私は驚いた。


「へ?! え、今全然朝ですよね? 朝出発してから丸一日経ったってこと……?! まさか一日休まずずっと運転してたんですか?!」


 というか私は熟睡しすぎだ……。


「長時間の運転は慣れてるんで、平気なんです」


 少し複雑そうな表情ではにかみ、三つ編みを揺らす少女。しかしすぐにパッと表情を変え、私たちの目の前に佇む建物へと案内する。


「ささっ、ここが私たちが住んでるところです! もともとボロボロだった建物をみんなで一生懸命直したんですよ。きっとどこに残ってる建物よりも綺麗なはずです!」


 たしかに、本当に綺麗だ。扉もあるし、外壁にヒビが入っていたり、大きな穴が空いているところもない。


「どうぞ中へ!」


 扉を開けてもらい、促されるがまま中に入る。入り口から一直線に伸びる廊下は、一つの扉につながっている。その扉にたどり着くまでにも六つの扉が左右にあり、そこにもまた部屋があるようだった。


「すごい、中までこんなに……。こんなにきちんとした建物、初めて見た……」

「ふふ、今言ったことみんなに伝えたらきっと喜びますよ」


 どうやらこのまま廊下を真っすぐと進むようだ。再び三つ編みの少女に扉を開けてもらうと、その部屋には彼女が言っていたように人間が三人、大きなテーブルを囲む椅子に座っていた。


「すごい、本当に人が――人間が!」


 複数の人と一度に会う感動を隠せず、口から言葉が漏れた。私の声に気づいて三人が一斉にこちらを向いた。髪の短い少女が顔を輝かせてこちらに声をかけてくる。


「あれ、アヤちゃんやっと帰って来た! 心配してたんだよー」

「あはは、また迷っちゃって……」


 恥ずかしそうに三つ編みを弄びながら席に着く少女――アヤちゃんに少年が呆れたような声を上げた。


「また?! どんくさいなぁアヤちゃん、そろそろ覚えようよ……」

「私のこといじめないでくださいケイさん……」

「ほんと、かわいそうだしお客さんもいるんだからアヤちゃんにそんなこと言うな!」


 アヤちゃんを「どんくさい」と言った少年が短髪少女に頭をペシンと叩かれる。人と人とが会話をしている光景を呆然と見つめていると、髪の短い少女がこちらを向いた。


「ごめんね、置いてけぼりにしちゃって。人と会えるなんてなかなかないしさ、自己紹介でもしようよ! 座って座って? 嬉しいな、お話しできるの!」

「あ、どうも……」


 戸惑いつつもお言葉に甘えて、先ほどまでの会話で一切声を出していないもう一人の少年とアヤちゃんの間に腰を下ろした。


 私が座ったことを確認した短髪の少女は待ってましたとばかりに話し始める。


「じゃあ私からね、私はリンカ。『リン』って呼んでくれたらいいよ。で、さっき私が叩いたこのバカが『ケイ』」


 先程リンさんに叩かれていた少年だ。少し外にはねている部分もある彼の髪の、ある一束だけは先端に向かってグラデーションのようにその黒い色が薄まっている。変化のある不思議な色をした髪もあるものなのかとぼんやりと考えていた私にケイさんの不満そうな声が届いた。


「バカって……。ま、リンが言った通り、俺のことは『ケイ』って呼んでもらえたら。で、この三つ編みちゃんが――」

「アヤメです。リンさんやケイさんが呼んでたみたく、『アヤちゃん』って呼んでください! 一日一緒に車乗ってたのに、名前言うタイミングなくてすみませんでした」


 頭を下げた三つ編みの少女に私は顔を横に振ってみせた。それを見たアヤちゃんは私に感謝を告げて微笑み、軽く会釈をした。


「仲良くしてくださいね! で、最後が――」

「マル。よろしく」


 ぼんやりとした目をこちらに一瞬向けて、座っていても私よりもかなり背が高いのだろうとわかる少年がボソリと呟いた。


「え、丸……?」


 聞き返したものの彼はすでに私に向けていた視線を下に下ろしていたので、リンさんがフォローを入れる。


「えっとね、『マル』って名前なのよその子。他の三人よりあんまり話さないかもだけど、仲良くしてあげて?」

「あ、なるほどマルさん……」


 円を意味する「丸」と言い放ったのかと思っていた私はようやくそれが名前だったのだと理解し、軽く頷いた。


 その後誰も口を開かず、そしてじっと見つめられる間が続いてはっとする。


「あ、次私か。ええと、私はイチホです。えー、よろしく……お願いします……?」


 全員が私の自己紹介を待っていたことに気づくのに時間がかかったが、四人は話し合えた私に頷いて見せた。


「チホちゃんだねぇ、そしたら!」

「チホさん……!」

「俺チーちゃんって呼ぼー」

「チホ」


 呼び名を一気に決められたその勢いに私は少したじろいでしまう。


「ええと、なんて呼んでもらっても大丈夫です……けど……」

「けど?」


 何やらとても歓迎されているし、私も初めてこんなに大勢で会話ができて嬉しい、けれど。


「私、ずっと探し物しながら旅してるんです。だからこう……仲良くしてもらえても、すぐに出てかないとダメというか……」


 名前を呼び合うというのは、とても親しい間柄になる予定がある場合にするもののように思っていた。それもあってか、なんだかこの『自己紹介』に抵抗があった。


 四人は少しぽかんとしていたが、すぐにリンさんが「ああ!」と納得した顔をして口を開いた。


「大丈夫、自己紹介ってのはもう二度と会わないでしょって人ともすることもあるんだ。すぐに旅に戻る! って思ってるなら今すぐにでも旅の続きに戻ってもいいんだよ? 私たちは気にしないよ!」

「え……」


 そうだったのか。どうやら名前を教えあって仲良くしてね、と言うのは、人と会話する上での常識だったらしい。


 無知な自分への恥ずかしさに耐えられず俯いてしまった私に、ケイさんニヤリと笑ってこう言った。


「でもさ、チーちゃん。俺らも、チホちゃんも、実は人間じゃないんだよって言ったらさ、そっちの方が気になって旅に戻るどころじゃなくなるんじゃない?」



 ――はい?



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