8.ファンタジーっぽくなってきたぁ!
「とりあえず…お主ら、わしの家にでも来るか?牛が入れる場所もある。」
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます。」
「お、お願いします…。」
おじいさんとハナにありえない…という顔で見られたあと、おじいさんがそんな提案をしてくれた。ハナがこっそり宿取れなかったからラッキーと言うのを私は聞き逃さなかった。
…野宿させるつもりだったのか。
「少し遠いがな。我慢しとくれ。」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
「あ、ありがとうございます…。」
キラキラした笑顔で、ハナが言う。営業スマイル…。
おじいさんの言うとおり、町はずれの方向に向かっていった。
遠かったけれどちょっと良い思い出になったことがある。この町の風景がすごく綺麗なのだ。少し薄暗くなっていく空にあわせて、暖かい橙色の灯りがそれぞれの家庭から漏れ出ていた。それを町の風景がさらに高調させる。中世ヨーロッパのような石造りの家々が立ち並んでいる間を通り抜けて歩くのはとても心地がいい。
なんやかんや言ってこの世界、風景だけは綺麗だ。…いろいろ不平等だけど。
「そういえば…サチの村で見た星空もすごい綺麗だったよね…」
ハナも同じことを思っていたのだろうか。私の村の星空について言い出した。…私はあの星空…少し鬱陶しく思っていた。神様は、なんであんな山奥の村に私を転生させたのだろうか。
そんなことを考えながら、歩いているといつの間にか町並みはなくなって目の前にはこぢんまりとした家があった。そのとなりには、屋根のある小屋があった。今は、そこには何もいなかったが昔は何かいたような感じに整っていた。何か動物でも飼っていたような…。
そこに、おじいさんがアンドレゴンを繋いでくれた。アンドレゴンから荷物を下ろし、おじいさんのあとについて家の中に入る。
安心できそうな、暖かい家だった。
「すまないが暖炉をつけてもらってもいいかい?」
「はい、まかせてください。」
ハナがテキパキと動く。何もできなくておろおろしていると
「お嬢さん……あー、名前を聞いてもいいかい?」
「あ、はい…。えっと、私は、サチコであっちが…」
「ハナです。」
暖炉の準備をしながら、顔だけこちらに向けて挨拶する。さすが、キャリアウーマ…。あ、後輩だった。
「そうか、わしはイージョという。サチコさんもハナさんも好きなとこに座ってくれ。」
「あ、ありがとうございます…。」
「ありがとうございます。」
ハナが暖炉の火をつけ終え、床に敷いてある絨毯の上に座った。絨毯には、ふわふわのクッションも転がっている。私もその隣に座った。
「…よっこらせっ…と。まず魔力持ちについて話した方がいいかな。」
「あ、お、お願いします…。」
イージョさんがソファの方に座る。少し口角を上げて笑っている。この人貫禄があるからちょっと威圧感あるんだよな…。隣の人もそうだけど…。
「魔力持ちって言うのは、魔法を使える人間のことを表すんだ。ただ動物に使うと少し主旨が違ってくる。
動物の魔力持ちってのは、その動物の頭が人並みに良いっていうことを表す。だから、魔法が使えるというわけではない。」
魔法が使えないと聞いて少し残念に思った。魔法…。
「その頭の良さにも三段階ある。一段階目は、感情と意志がはっきりしている……あなた方の牛と同じやつだ。
二段階目は、感情と意思もはっきりしながら人の言葉を喋れるものだ。
三段階目は、二段階目に頭の回転がすばやいことを付け足したような種類だ。…あとこれは、あまり知られていないのだが…。」
するとわざとらしい小声で
「魔力持ちは、身体強化…体が通常よりもはやく強く変わる。それは、段階が上の方がはやくなる。」
そう言われた。そうか…、だからアンドレゴンは重い荷物を乗せながら私たち二人を乗せられたのか…。
「すごいですね…。私も魔力持ちについては、話に聞いていたのですがまさかそこまですごいとは…。」
「いやいや。知ってるだけで充分じゃよ。
そもそも、魔力持ちというのは動物が体内にある魔力で行っているという話じゃからな。」
ハナが感心して、目を輝かせている。
そうかぁ、うちのアンドレゴンすごいやつだったんだな…。神様は、私に才能すら与えてくれないと思ってたら相棒がすごかったという…。…なんか、悔しい。
「でも…イージョさんはなんで、そんなすごいこと知ってるんですか?」
ハナが不思議そうに聞いていた。確かに…。
「いや…昔、魔力持ちの動物を飼っていたんじゃよ。
…まあ、そんなことはどうでもよいな。今日は、ここに泊まっていくのだろう?」
イージョさんは、そういって立ち上がる。
…何か隠したそう…?
「あ、はい。そうさせてもらいたいんですが…。」
「それは、よいのだが…ここに寝てもらうことになるがいいかね?」
そういって、私たちが座っているところを指差す。
ここで充分です。というか、イージョさんが誘ってくれなければ屋根も壁もなかったのに…。
「はい!大丈夫です。」
「そうか。じゃあせめて、毛布か何か持ってきてやろう。少し待っていてくれ。」
ハナが元気よく言う。あっちも同じこと思ってそう…。
そう言ってイージョさんは、暖炉の隣にあった部屋に入っていった。
「…ねぇ、イージョさん。たぶん、すごい人だよ。」
「うん、貫禄あるもんねー」
「そうじゃないよ。こう、国の英雄みたいなそういう感じ。」
ハナが真剣な顔でそう言っていた。
「たぶん、あの人…。大国の騎士だと思う。」
「大国の………。え!うそ__!?んぐ。」
ハナに思い切り何かを口に詰められる。舌には、美味しい味が広がる。そして、ハナには黙れと目でサインを送られる。…目力、すげえ。
「いいから、黙って話を聞いてろ。」
「ふあい」
お母さんが作ってくれたお弁当を食べ忘れていたのでそれを口に運びながら話を聞く。…聞きたいけれど…。
「…目力のコントロールお願いします…。」
「は?」
「……」
目から殺意に似たような何かが滲み出とりますー。…ただ真剣なだけなんだろうけど。