7.牛
「その牛、何なの!?」
「…存じておりませぬ…。」
さあっと風が流れる。
あのあと、アンドレゴンのダッシュで盗賊から逃げて町についたのだ。私にもこの牛が一体なんなのか知りたい…。
「普通の!それも、そんな農家で飼ってるような牛がかなりの荷物に人を二人乗せて全力ダッシュって、ありえないから!あと、それを操るお前も!」
「いや…、私も小さい頃にもらってそこから一緒に育った感じだから…。知らん。」
ハナにものすごい形相で迫られる。いやいや、私も知らないんすよ…。というか、それよりも…。
「これから、どうするの?というか、私この町で何するか聞いてないんだけど…。」
「うぅ…。牛、気になるんだけど…。」
「いや、私も知らんて言うとるやろ。」
胸ぐらをつかまれる。おやめくだされ。
「…はぁ。…この町に光る紙が落ちたのを見た人がいるって話で、きたの。」
「おぉ!有力情報!どんな人?」
精一杯、アンドレゴンから話題をそらそうとする。…そう思って聞いたのだが…。
「……ハナさん?」
「……っ」
なんともいえないような顔で、明後日の方向を向かれる。ま、まさか…。
「知らない…?」
「……………」
…当たりだそうだ。
「仕方ないでしょ!?何の情報もなしに頑張ったんだから…!」
「はいはい。じゃあ、片っ端から探すんだね?」
「そ、そう……。」
下唇を噛みながら、そう言われる。まあ確かにそんな紙一枚でここまでこれたのすごいと思うけれど…。
そんなことよりコミュ障の私に、そんなことを頼むのは果たして大丈夫なのだろうか…?
「ハナ…二人で一緒に…とか…。」
「ダメ。そんなのいつまでたっても終わらないから二手に別れてやらないと。」
真剣な顔で言われる。くそぉ…。
町は、人がたくさんいた。溢れかえるほどではないが私にとっては肩身のせまいところだ。
アンドレゴンをそこらの木に縛り付けて、ハナの後を追う。アンドレゴンよ…、君たぶん泥棒とかも跳ね返すだろうからそこで待っててね…。
「よし!じゃあ始めるよ!」
「人…無理…死ぬ…」
「一回死んでるなら、いいでしょ」
そういう問題じゃないんだよぉ…。そうして、私たちの地獄の聞き込み調査が始まった。
「…す、すみません……。あの、こ、このあたりで…、光る紙を見たって…人いますか……?」
「すみません。ちょっといいですか?このあたりで光る紙について聞いてるんですけど何か知ってますか?」
この差である。
「あぁぁ…。誰もいない…。」
「そうだね、これだけ聞いてもいないとか…。」
もう疲れた…。夕方になりかけている。色々な人がいて、死ぬかと…。たくさん話す人もいれば、忙しいんだけどって嫌な顔で見る人もいるし…。
昔…っていっても、転生前だけど…。親が、”聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥“とか言ってたけど…。実際、どちらも恥なんだから変わらないと思ってた。というか、今も思ってる。陰キャにとって恥は恥。一時の恥が一生ものになるのさ…。
そんな感じで昔の反抗心を持ったままアンドレゴンを迎えに行こうと戻ると…
「だ、誰…!?」
「ふぉ?」
おじいさんがアンドレゴンに餌をあげていた。しかもすごい懐いている…!?
「おやおや…。この子の飼い主かね?こんなところにおいておいちゃあ、危ないぞ」
「あ、す、すみません…。」
手綱を渡される。な、なんだ…。泥棒じゃないのか…。少しほっとしているとおじいさんが
「この牛…。魔力持ちじゃろう?」
「え…?」
ま、魔力持ち…?なにそれ__
「やっぱり…」
「え?ハ、ハナ…?」
ハナも何か分かったようだ。待て待て待て。魔力持ちって…?
「なんだい。気づいていなかったのか。この牛、…意思や感情が人のようにはっきりしているタイプの魔力持ちじゃぞ。」
「おぉ!!すごい!」
ハナがその言葉に歓喜している。いや…あの…。
「…魔力持ちって、なんですか…?」
『は?』
「あ、すいません…」
一斉にこちらを向かれる。
雰囲気、ぶち壊しちゃった…。