4.ゆるい
「どうしよう…」
「と、とにかくうまい言い訳を考えて…!」
「だからどんな…!?」
「それを考えなよ…!」
「えぇ…無慈悲な…!」
ハナと私は、my mother を説得して旅に行かせてもらうための言い訳を考えていた。…今の発音、素晴らしくね?
「奉公です…とか?」
「ダメに決まってるでしょ!どこに奉公しに行くんだよ!」
「ですよねー…」
どう言ったら…。…物で釣るとか…。そんな柔な母親じゃないわ。それは、私が保証する。じゃあ…。
「…こっそり抜け出す…?」
「え…」
私たちは、目を合わせる。お互いの頬から汗がつたう。ごくりと唾を飲み込んだ。わざと、あわせて口を開き…
『ムリムリムリムリ』
頭を横に振る。できないできない。
「大人って、本当に怖いからね…」
「わかる…、転生前にすごい思い知った…」
ハナのその言葉に、顔をあげる。転生前に…?
「転生前、なにかあったの…?」
「あ、いや……そ、そういうのは、タブーでしょ?自殺したなら、サチだって分かるよね…?自殺するなんてそれなりの理由があること…」
「ご、ごめん…」
本当に、申し訳ない…。
「…私、それなりの理由ないわ…。すまぬ…。」
「そっち…!?」
今のツッコミは、三十点だな…。そう頭の中で思いながら
…心の隅で、嘘をついた罪悪感がうずいていた。
「それより、お母さんどう説得し___」
「何の説得ー?」
『うぉあっ!?』
二人同時に声をあげる。け、気配が感じられなかった…!その体型なのに…!
お母さんが扉から顔を覗かせて…いるつもりなのだろうか。上半身が出ているがこの際無視してあげよう。
「もう暗くなってきてるから、今日泊まって行きなーってことを伝えに来たんだけれど…お邪魔だった?」
「い、いえ…!そうさせてもらうとすごく助かります…!ありがとうございます。」
開いたままだった口をなんとか閉じる。この際、素直に言うしか方法はない…!私は、ハナとアイコンタクトを……とったつもりなのだが通じていないようなので諦めて普通に話す。
「…お母さん、いえお母様。」
「えーなになに?一大イベント?」
現世は、こういうお母さんでよかったとつくづく思っている。ただこういう人ほどただ者ではない。言葉をしっかり選ばなければ…!
お母さんが扉を開けて中に入ってくる。
「私、サチコは本日ここにいるハナさんと旅に出ることに決めました…!お母様、お許しください…!」
「…」
ハナがやれやれというポーズを小さくする。ひどいなー。昔見たドラマで、義母に結婚を申し込む婿のセリフを元にしてるのに…。
「…うーん……」
お母さんは、すごく悩んでいる。ですよねー。そんな簡単に許してもらえな___
「いいわよ。別に。」
「………」
…あっさりすぎやしないかい?母上?一人娘が旅にでるんだぜ…?少しは、止めてくれてもいいやない…?そう思って、ハナの方を見る。相手も、驚きを隠せないのかさっきからお母さんを五度見くらいしている。
「え…ほ、本当に…いいの…?」
「いいわよー。あ、でもアンちゃん連れて行ってね。サチコ以外の言うこと聞かないから」
「あ、う、うん…」
アンちゃんとは、アンドレゴンのことだ。いや、それはどうでもよくて…
なんで、そんな簡単に…。え、ここはボールにモンスター閉じ込められる世界かなんかくらいにゆるいの…?
「あ、あの…本当にそれでいいんですか…?そんな簡単に許して…」
やっと落ち着いたハナが聞く。
「うーん…、それは親が決めることではないから…かしら?あ、でも死ぬのは嫌だからね。しっかり帰ってきなさいよ~」
「……」
開いた口がふさがらない。前々からこの母親は、普通の大人とは違う感じがしていたけれど…子供のことを一人の”人“として見てくれていたんだ…。
ハナは、今度は目玉がこぼれ落ちそうなほど目を見開いている。そりゃ十一歳の娘を危険な旅へ…しかも、今日あったばかりの人と一緒になんて許してくれるのは……うちの親くらいだ。
「…うん、ありがとう。サチコ…気をつけていって参ります!」
「はいはい、じゃあ夕飯の準備してくるわね。」
…たぶん今日は、カレー。
夕飯は、ロールキャベツでした。