1.アンドレゴンは、メス
初です。お手柔らかに。
いや、ないわ。いやいや確かにね、期待した私も悪いんですけどね。都合よく物事を解釈すんなって話ですよね。分かってますよ。分かってるんですけど…
…せめて、何か才能がほしかった…!
中学三年生…それは最も辛い時期なんじゃないだろうか。勉強に友情に恋愛に…何もかも不安でしかたない将来に対して頑張らなくてはならない。
…それが嫌で私は、逃げた。
自殺という選択肢で。
生きることを諦めた。
そこまで追い詰められていたのかと聞かれると…いや、普通です。としか言いようがない。軽く言ってしまえば…
「いやぁ~、思春期の気の迷いですよ~」
…ごめんなさい、今のは軽すぎた。でも、そのときの私は本当にそのくらいの気持ちで、もしこの世界に自分が本当に必要なら死なないのだろうなんて思って飛び降りたら__
_死んだ。
痛かった。でもすぐに意識が飛んだらしくあんまり苦にならなかった。…まあ飛び降りた瞬間すぐに地面かと思ったらなぜか長く感じて、ジェットコースター苦手なのにその感覚が襲ってきて落ちながら後悔したという__いや、これは今関係ない。
本題だ。じゃあなぜ死んだ私がここでこんなことを語っているのかと言われると…。
見てみなさい。目の前の風景を。まわりを見渡してみると山しかない。木と草という自然がそこら中にあって、そよそよと吹く涼しい風が頬を撫でるなんて心地良いド田舎じゃないか。そして、小鳥のさえずりや川のせせらぎが牛の鳴き声にかき消され_
すぐ後ろにいるからね。ちなみに、名前はアンドレゴン。怪獣か。
…まあ、とにかくあれなのだ。あれ。
ほら、見るでしょ?漫画とか小説で…
「俺…、異世界に転生してる…!?」
というような…。あ、察した?うん、そうなんだよね。ここ、異世界らしいんだよね。…アンドレゴン、おだまり。
まず、私はサチコ。転生前もサチコ。今もサチコ…。
…はい、次。記憶を思い出したのは、つい最近。ちなみに今、十一歳で最も気が緩んでいた時期だった。…というのにも関わらず、記憶を思い出したから色々な現実を突きつけられるという始末に…!そもそも思い出し方が雑で、ただぼんやりしていたらふと
私…転生してるのか…。
という感じで、記憶がよみがえってくるものだから…!まるで、別にそれほど必要ないのだが買い忘れがあっていつか買おうと思っていたものがどうでもいいときに思い出すような感覚で…まあ、それは置いといて。
転生したら思うじゃない?
私…何かすごいことができるのでは…!?
と、思って魔物に攻撃してみたの。そうしたら…どうよ、何もできなかったわ。大人に助けられたわ。ちなみに魔物は、スライムだった。ねばねばと動いて気持ち悪かったから棒で突っついてみたら…頭突きくらった。そのあと怯んだ私をまるで搾り取るように締め付けてきたから苦しかった。…もう二度とスライムとは戦わない。転生したらスライムに絞め殺された件なんてシャレにならん。
とにかく、色々なことを試したわけだ。この世界には、魔法も魔物もあって勇者や魔王もいるとか…。ならば、何かひとつくらいはできるだろうと…
できないんですよねー。
魔法すら使えないとか、聞いてない。転生するくらいなんだから何かできるだろ!!そう思って奮闘したのに…実際、転生前と同じで何の才能もなかった…。
…しいて良いことがあるというなら、学校というものが小学生程度の勉強で終わりということだ。もちろん、進学という道もあるのだがそれは学者などになりたい人が行くところでほとんどの人は行かない。
…行くわけなかろう。勉強とかそういうのが嫌で死んだのに。そういうわけで、私は何もできないただの凡人。いやありえないと思ったよ。転生とかだいたい何か大事なポジションつくのに、何もない。それどころか、転生前と同じように学校でも友達が少ない。…少ない!(大事なことなので二回言いました。)
それでもここは、のどかな村で農業さえしていれば安心安全。これからの人生、ゆったり気ままに生きていけますよ…というようなところだ。本当に良い村……でもね、私は…
農業なんてしたくないんだよぉぉぉお!!
あんな気持ちの悪いミミズとにらめっこしながら、野菜なんか育てたくないわ!!そもそも野菜は、そんなに好きじゃない!食べられるが毎日食べたくない!ウサギじゃないんだよ!
とはいえ、どこかでお店とか開いたり新しい出会いとか見つけたり…なんてこともしたくない!私が願うのは、ただひとつ!
誉められたい!崇められたい!
だってせっかく転生したのに、魔王も倒せず終わるとか嫌だ!嫌…なんだけれど…何の能力もないから…。何もできない…。転生前だって、ただのオタクで臆病者で弱虫だったのに…。
これからどうしよう…。
ねぇ…アンドレゴン…。