第五話 過去前編
ーーー遡ること、四年前ーーー
祐、小2。
「おーい!祐ー!」
声のした方に振り返る。
「なんだよ、月翔。」
気だるげに返事をする。
声の主は、祐の親友、「浦井 月翔」だった。
「体育の後でねみーんだよ。なんかあんなら手短にしろ。」
「おいおい、みんなの人気者、神谷祐さんともあろうお方が、そんな雑な口調に雑な態度でいいのか?」
笑いながらそう言われる。
月翔の言う通り、祐はみんなの人気者だ。
スポーツ万能、運動神経抜群、成績優秀、頭脳明晰、性格も顔もよし、頼みごとは相手が誰だろうと、嫌な顔せずに引き受ける。そんな絵に描いたような完璧超人が祐だった。
…いや、正確には、『祐が作り出した自分』だ。
「そんな態度だったら、『ボッチ』になっちゃうぜ?」
その言葉を聞いて、正確には、『ある単語を聞いて』、祐が月翔を睨みつける。
「そんな睨むなって。お前本当、『ボッチ』、嫌いだよな」
そう、祐は、『ボッチ』がこの世の何よりも嫌いだった。
自分が『ボッチ』になるだけでなく、その単語を聞くだけで虫唾が走る。
「当たり前だ。誰があんなん好きになるか。」
自分がそうならないためにも、本当の自分を隠して、絵に描いたような完璧超人を演じてきた。…だが、ずっと演じ続けるのも、かなり精神がすり減る。
そんな祐にとって、自分が唯一本音で話せる月翔は、何よりも大切な、かけがえのない親友だった。
…しかし、事件は起こる。
ーーー祐、小2の冬ーー
月翔の転校が決まって、今日で一週間。
今日が月翔と一緒にいられる最後の日だ。
「月、翔…行っちゃうんだよな。」
「…ああ。」
涙をこらえながら、祐は言う。
「転校しても、ずっと友達だからな!」
そんな祐に、月翔は…
「は?いや、俺らただのクラスメイトだし。…それにさあ、ずっと黙ってたけど、俺お前のこと嫌いなんだよね。俺も人気者になれると思って今までつるんでたけど。じゃ、せいぜいボッチにならないようにするんだな。みんなを騙す、偽善者で猫かぶりの神谷くん。」
照れ隠しでもなんでもなく、本心で言っているのが祐にも伝わった。
…ただ、こんなことで、今までプレッシャーをかけられ続け、精神をすり減らし続けた祐がくじけるわけがなかった。
夜。ベッドの中で、一人呟く。
「だったら、超人気者になってやる。月翔。後悔しても、知らねーからな。」
それは、誰にも本音を言わず、自分を偽り続けることを意味していた。
月翔の裏切りが、一つのトラウマになっていることも気づかずに。
…そんな祐を変えたのは、救ったのは、一人の少年と、一人の少女との出会いだった。
「才河 秀」。…そして、その『双子の姉』、「才河 雪」。
後の、唯一の幼なじみと…
…最愛の人だ。
その出会いは、祐を救う。
「初めまして。才河雪と…」
「才河秀、です」
…しかし同時に、祐を絶望へ叩き落とす。
おはこんばんにちわ!白神零鬼です!
いやーやぁーっとフラグ一つ回収できましたよー
しかし!主人公の過去はまだ続く!
ではでは、また次話で!