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魔女の館  作者: ワンフラット
3/4

魔女の苦悩

「魔女はこの館から出ることができない・・・魔女の魔法の力は館内に限定される」

 ベットに横になりながら、俺はぶつぶつ独り言を言っている。魔女に共有された情報を一つ一つ確認しているのだ。

「魔女には寿命という概念が存在せず、永遠に生き続けることができる」

・・・

「館外は怪物が魔女の護衛をするために常に目を光らせている。そのため滅多に人が入り込むことはない」

・・・

「・・・ふぅ」

 俺は大きなため息をついた。なにせ入ってきた情報量が膨大なため、一つ一つ口に出して確認しないと、頭の中で処理できない。例えるなら辞書のようなものか、膨大な情報をもってはいるが一つ一つ確認しなければならない。

「はぁ疲れた・・・もう寝るか」

 いい加減考えることに疲れてきた、俺は静かに目を閉じる。


・・・


・・・


「おはようございます」

「・・・うっ」

 聞き覚えのある声で俺は目を覚ました。どれくらいの時間が経っただろうか、体感では一夜を明かしたぐらいの感覚なのだが、外はまだ真夜中だ。

「おいまだ夜だぞ」

「そうでした。景色を変えるのを忘れていましたわ。それっ!」

リブが指パッチンをすると、月があっという間に沈み、まぶしい朝日が部屋に入り込んだ。

「んっ・・・急にまぶしいな」

「さぁ、お腹も空いたことでしょう。お食事を用意していますわ、一階の食堂にいらっしゃいませ」

 そう言い残し、リブは消えていった。


・・・


 寝起きでだるい体を起こし、俺は食堂を訪れた。館の食堂ということもあって、縦長の長い机にたくさんの椅子があり、奥には暖炉がある。こんな人数がここに来ることはないだろうに。

「さぁどこでもお好きなところにどうぞ」

 リブが奥から俺に声をかける。俺は無言のまま長机の端の方に座った。

「うふふ、えいっ!」

 リブが指を弾くと、何もなかったテーブルの上に食パンと目玉焼きとハム、牛乳といった、ごく一般的な朝食メニューが並んだ。

 そして、いつの間にかリブが俺の真正面の席に座っている、さすがにもう驚かない。


「それであなた、今まで何人殺したの?」

「!?」

 いきなりの唐突な言葉に俺は目を丸くした。まさかこんなストレートな質問がくるとは予想しなかったからだ。情報共有したためリブは俺のことを知っているはずだが、俺と同じく膨大な情報量を処理できていないようだ。考えれば考えるほど疲れてしまうため、直接聞くことにしたのだろう。

「・・・答える義理はないな」

「・・・そう」

 俺はそう答えたが、もうリブには知られているし話してもいいと思っていた。どうせ魔女はこの館から出ることはできない。バレたところで何の問題もない。

「知っているとは思うが話そう。俺は今まで何人も人を殺してきた。何人殺したのか自分でもわからない。殺した理由、とかそんなものはない。強いてあげるならばムカついたからだ。」

「激高型なのね。イラッとしてつい殺しちゃうっていう」

「もちろんそれだけの数を殺しておいて足がつかない訳がなかった。俺は警察に捕まる寸前だったんだ。そこで入り込んだのが、この森だ」

 これだけ科学技術が進歩しても、世界には絶対に入ってはならない立ち入り禁止区域が存在する。

この森もその一つだ。狂暴化した生物や未知の病原体やウイルスのうわさが絶えず、誰もこの土地を開発しようとはしなかった。さらにうわさだけではなく、実際にこの森に遊び半分で入った人が帰ってこないなんてこともザラにあった。

「相当な数を殺した俺は捕まれば間違いなく死刑。だから警察も入ってこない、この森に入り込んだのさ」

「この森でも、もう少しで死ぬところでしたのよ」

「確かに・・・だが、考える暇などなかった。警察は包囲網を広げ厳戒態勢。他に逃げ場はなかった」

 情報共有した時点で、俺が狂気の連続殺人鬼だとリブは知っていたはず。だが、そんな俺をリブは快く受け入れ、この館に泊めることを許した。・・・なぜだ?普通は殺人鬼を家に泊めるやつなんていないだろう。こいつが魔女だから?魔女だから普通の人間とは感覚や感性が違うのか?


「それであなた、これからどうするおつもりなの?」

「ほとぼりが冷めるのを待ち、その後は死刑制度のない国に逃げる。最悪、捕まっても死刑になることのないようにな」

「ふーん、そうなの」

 リブは両腕を組み、じっと俺を見つめている。さっきから一切表情の変化もなく真顔のままだ。

「・・・なんで、死刑にしちゃうのかしら?」

「あ?」

 不意に魔女から飛び出した言葉は、意外なものだった。

「いや、なんで現代では凶悪な犯罪者を死刑にしちゃうのかなって、思ったのよ」

「そりゃあよ、人を殺めたものはその命をもって償うべきってことだろ。あと被害者遺族のこともある、犯人が死刑になることによって、復讐を果たしたいっていうな」

「私が被害者遺族なら、犯人に死刑は望まない」

「は?じゃあなにを望むんだよ」

()()()()()()()()()()()()()()

「生かし続ける?なぜだ?」

 リブは下を向き軽くため息をついてから、こちらに向き直った。

「ごめんなさいね。あなたとは生きてきた時代も場所も違うんですもの。だから私の価値観は理解しにくいかもしれないわ」

「謝る必要はない。続けてくれ」

「わかったわ。実は私の国では、死刑よりも重い罪が存在したの。それが生刑(せいけい)、生き続ける罪」

「なぜ生かすんだ?遺族なら殺したいほど憎いだろ?」

「死んでしまったら、二度と苦しみを味わせることができないじゃない。生きているからこそ苦しむ、生きているからこそもがく」

 確かにそれは一理ある。生きているから悩む、苦悩する。

「なかなか面白い考えじゃないか。少し勉強になったよ」

「うふふ、こちらこそ嬉しいわ。現代の情報を知ることができて」

 リブは屈託のない笑顔を俺に向ける。こんな顔を見るのは初めてだ、リブと少し打ち解けてきたのかもしれない。


「そうだリブ、今日も泊めてくれないか。警察の活動もまだほとぼりが冷めてないだろうし」

「どうぞどうぞ、何泊でも好きなだけいてくださいな・・・でも今あなたが恐れるべきは警察ではなく、森の怪物達の方だと思うわ」

「怪物達だと」

「森を抜けるためには怪物達のことを避けては通れない。いい機会だから教えてあげるわ。行きのあなたは運が良かっただけ、ほんと奇跡なのよ。ここまで生きてたどり着いたことは」

 俺は自分の頭の中にある、リブの記憶を詮索してみた。

「・・・うっ・・・ううっ!」

 リブの記憶の中から次々と現れる狂暴な怪物の数々。ここに来るまでに会った、人面フクロウやデュラハンやキメラ達の比ではない。人間が立ちむかえるレベルではない!出会ってしまったら死の文字しか見えてこない。敗北し殺されてしまうのがやる前から理解できてしまう圧倒的な絶望感。

「まだ森の中にこんな怪物達が・・・」

「口が達者なだけのおしゃべりフクロウに、頭でっかちナイトに・・・ほんと幸運でしたのよ。あの程度の怪物にしか会わなかったというのは」

 リブのいう通りだ、警察を問題にしている場合ではない。森の怪物達をどう切り抜けるのか、また同じような幸運が訪れるなんて期待する訳にはいかない。


・・・


 私はこの森の魔女。私はこの館の中でなんでもすることができる。自分の思い描いた通りに自分の世界を作れる、自分の好きなことばかりできる。でもそれが苦痛なの・・・わかる?この私の苦しみ。


 この館は外からの情報が一切はいってこない、すべての事柄は自分で決めるの。今日何を食べるのか、何をして遊ぶのか。さらに今何時なのか、今が朝なのか夜なのかまでも自分で決めるの。外とこの館は違う世界だから、正確な時間はもうわからない。私がこの館に来てからどれだけの時間が経ったのかしら。


 新しい命を作ってみたけれど、自分の思った通りにしか動かない。新しい命には自我がない、お話しているという感覚も全くない。意見が同じだから議論にもならない。


 私が作り出す世界は所詮、自分一人だけの世界。どんなものを作ろうとも、どんなに頑張ろうと自分の世界から抜け出すことはできないの。私はずっとこの館の中で独りぼっち・・・ずっとずっと。


 孤独で死んでしまう生き物がいるように、孤独はとっても辛くて痛くて悲しい・・・でも魔女は永遠の命を持ち死ぬことは許されない、自殺することはできない。・・・でもたった一つだけ、死ぬ方法があるの・・・それは・・・


「・・・ううっ。朝か」

 眠い目を擦りながら俺は目を覚ました。全く変な夢を見たものだ、リブの情報が入ったことによって最近変な夢ばかりみる。

 あれから数日経った。今だに俺はこの森からの脱出する手段を考えていた。なんでも作ることのできる魔女にヘリを出してもらい空を飛び脱出する・・・とか考えたが、それは無理のようだ。魔女の魔法はこの館内に限定されているし、そもそも、作るにしてもヘリの機材や細かな構造までを理解していないと無理なんだとか。

 魔女の能力としては理論上作ることは可能だが、作る判定基準はかなりシビアらしい。リブはこう言っていたな


”自分で好きなものを作れる。それは一見楽しそうだけど、すぐにわかるわ。他人の作ったものに依存した方がよっぽど楽だってことにね”

 

 ・・・さて、これからどうしようか。いつまでもここにいる訳にもいかない。ここは外の情報が一切入らない。一体今、外はどうなっているのだろうか。世の中ではどんなことが話題になっているのだろうか、警察の動きは収まってきただろうか、俺の家族は今どうしているだろうか・・・考えてもわかる訳がない。


「・・・そうだ、一つだけ方法があるかもしれない」

 俺の頭に一筋の光が走る。成功するなんて保障は全くないが、やってみる価値はあると思う。あの怪物達と戦わずして、この森を抜ける方法。怪物達を戦意喪失させればいい。

 この森の魔女は女王様と呼ばれ、怪物達から崇められている。この森の怪物達は女王を守るためなら自分の命も惜しくないと考えている。そんな怪物達の象徴的存在を壊してやればいい。

・・・つまりこういうことだ


 ()()()() ()()()()()()  


 



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