調書ー2冊目ー
よお。俺だ。堅井だぜ。今日もまた、この「だーくるーむ」での俺の仕事が始まるぜ。・・・なに?俺の仕事が分からねぇ?ったく・・・しょうがねぇな。全身の穴という穴をかっぽじってよく聞いておけ。俺の仕事というのはだな、アレだ、「ひぎしゃ」とかいうのが来て、あー・・・っと、「ひぎしゃ」が来て、「つみ」をなんか、アレさせたら終わりだ。「ちみ」を・・・あっ、「つみ」をアレだ、「みとめさせれば」いいんだよ。そしたら終わりだ。・・・「つみ」とは何かって?そんなことも知らねぇのか。お前・・・よく今まで生きてこられたな・・・!いいか?「つみ」ってのはな、・・・アレだよ。なんか、やっちまったやつのことだよ。うん。「みとめさせれば」って何かって?うるせぇ!なんでも人に聞いてんじゃねぇ!少しは自分で調べやがれ!お前・・・そんなんじゃアレだぞこら・・・!駄目なんだぞ・・・。なに・・・?本当は知らねぇんじゃねぇか・・・だと?てめぇ・・・!・・・?おっと、お客人のご到着だ。いいじゃねぇか、ここからは実践編だ・・・!俺の「つみ」の「みとめさせ方」、しかと見ていやがれ・・・!
「座りな・・・!」
部屋へやってきた人間は2人。柔囲とかなんとかいう筈のガキと、「ひぎしゃ」と呼ばれている人間。今回の「ひぎしゃ」はどうやら柔囲のガキよりもガキっぽかった。俺の姿を一目見ると怯えきってやがる。
「堅井さん。何度言わせるんですか。立って煙草を消してサングラスを外してください」
おっと。また忘れてたぜ。立って、煙草を消して・・・なんだっけ?
「・・・サングラスを外してください」
そうだった。いっぺんに言うんじゃねぇ・・・!覚えきれねぇだろうが・・・!
「・・・それでは、取り調べを始めたいと思います。取調官は堅井、立会は柔囲が担当させて・・・」
いや、俺が覚えきれないということはない。柔囲のジャリンコの滑舌に問題がある。なんて言ってるか聞こえなかったからな。柔囲の所為だ。
「・・・被疑者の名前は、二宮 信吾、16歳」
えっ、あっ、しまった!「てめぇの名前は」のくだりが出来なかった・・・!
「以下、罪状等につきましては、堅井さん、書類を参考に取り調べを開始してください」
結構気に入ってたんだがな・・・。前回、柔囲坊に無視されたから今回は確実に決めておきたかったんだが・・・。やり直してくれねぇかな・・・柔囲。
「・・・堅井さん」
やり直してくれねぇだろうな・・・。こいつ意地悪だもんな。性根が腐ってんだよ。この間もコーヒー淹れてくれるっつうから、頼んだらよ、ブラックで出してきやがって・・・!飲めねぇんだよ・・・!ブラックは・・・!苦ぇだろうが・・・普通、棒の甘いザラザラのやつ3本は入れるだろうが・・・。
「・・・堅井さん!」
「・・・はっ!」
なんだ!?
「聞いてましたか?取り調べを開始してください」
「あ、あぁ・・・聞いてるよ」
「それじゃあ・・・お願いいたします」
な、なにをだ・・・?何をお願いいたされたんだ・・・?
「・・・堅井さん。取り調べを開始してください」
あぁ!取り調べか!もちろん分かってたけど、そっちのことね。そっちのこといってたんだな。一つ、大きな咳払いして、場をまずリセットする。何か俺にとって良くない空気が流れてたからな。
「・・・んで、俺がお前の取り調べをする堅井ってもんだ・・・。坊主、お前の名前は・・・」
「堅井さん。名前の段は終わりました。取り調べを開始してください」
ええっ!?そうだっけ?やばいぞ・・・!今更聞いてなかったとは言えない・・・!とはいえ今回も「しょるい」には目を通していない・・・。
「あ、あぁそうだったな。んで、坊主・・・」
よし!坊主呼びで切り抜けたぜ・・・!
「おめぇ、一体何をやらかしたんだい・・・?」
またしても、柔囲がやれやれと口を開こうとした。不味い。また「しょるい」に目を通していないことを怒られる・・・!怒られるのは嫌だ・・・!どうやって切り抜ける・・・!?・・・!そうだ!
「黙ってろ柔囲。俺は坊主の口から聞きてぇんだ・・・!」
「いや、僕は堅井さんから聞きたいのですが・・・」
「黙れぃ!!」
机は叩かなかった。痛いからな。
「この坊主になぁ、「つみ」の重さというやつを、思い知って貰う為にも、坊主の口から聞きてぇんだ!!」
「堅井さん・・・!」
なんだ・・・?柔囲から感じるこの感情は・・・?驚きとうれしさのカフェオレみたいなやつだ・・・。それにしても上手くいったな・・・!この作戦は。
「ええ、堅井さんの言うとおりです。それでは二宮君、自分で言おうか」
「にのみや」・・・?もしかすると、それが坊主の名前か!?上手くいきすぎだろうが・・・!意図せずに坊主の名前も手にしてしまった・・・!「にのみや」とよばれた人間が、蚊の鳴くような声で話し出した。
「・・・なに・・・して・・・せん」
「・・・えぇ?」
なんて?
「なにも・・・せん」
「なに・・・え?」
全く聞き取れやしねぇ。なんだこいつは。声の小さい呪いにでも掛かってんのか。柔囲も俺と一緒に坊主の声を聞き取ろうとしていたが、無駄と思ったようだ。
「・・・もう大丈夫です。堅井さん、罪状の確認をお願いいたします」
なにぃ!?俺にふるなよ!
「いや、でも坊主から・・・つ、「つみ」のアレを・・・」
「いやいや、もういいですから。お願いします」
くそっ!絶体絶命の大ピンチだ・・・!角に追い詰められたネズミとかいうやつだ・・・!どうする・・・!怒られたくない・・・!
「・・・まんびきです」
「え?」
坊主が何かもにょもにょ言い出した。しかし、まだ呪いは解けていないようだ。
「万引き・・・です」
「まん・・・え?」
「万引きです・・・」
万引きぃ!?・・・なんだ、そんなことか。とはいえ、何とか危機は脱したな・・・!これで怒られない。
「何だ・・・万引きか」
「ええ?」
柔囲と坊主がハモリながらこっちを見る。なかなか良いハモリだ。
「堅井さん・・・いま、なんと仰いました?」
柔囲がゆっくりと俺に尋ねる。なんだ・・・?何かまずいことをいったか?・・・ハモリか?
「・・・ハモリ・・・?」
「ハモリ・・・?」
違うようだ・・・。そもそもハモリは、俺の心の声だったからな・・・。「のうりょくしゃ」かと思っちまった。
「堅井さん・・・あなたいま、「なんだ、万引きか」と仰いましたよね?」
えぇ?そっち?
「あぁ、言ったが・・・?」
「この際、また書類を確認していないことはもういいです」
知ってたのか!?
「問題は万引きに対する犯罪の意識の低さです!!」
怒ってる・・・。怖い。
「で、でも万引きは軽犯罪だし・・・」
「軽犯罪も犯罪です!!」
うっ・・・!怖い・・・!
「あなたが何を言っているんですか!?あなたは自分の立場がどういったものか・・・!!」
長い・・・!長いし怖い・・・!長怖い。・・・終わりそうにない。何言ってるか分かんないしとりあえず謝っておこう・・・。
「す、すまねぇな・・・俺が悪かったよ」
「・・・そうですか。・・・それなら良かったです」
止まった・・・。良かった・・・。
「んで、坊主、お前が万引きしたものは何だい・・・?」
「・・・お菓子」
「お菓子ぃ!?」
お、おか、お菓子ぃ!?
「なんですかその反応は?」
やばい。柔囲がこっちを睨んでいる。
「い、いや、お菓子如きでと思ってな・・・」
「お菓子如き!?」
あっ。踏んじまった。
「堅井さん!あなた何もわかっていないじゃないですか!そもそも万引きという呼び方をしていますがね、これは窃盗という・・・!」
長いよー・・・。長い長い。長い。柔囲、長い。長い柔囲。長柔囲。
「もう、やめてください!!」
・・・!?坊主の咆哮。俺も柔囲も坊主に注目するしかなかった。
「僕が悪いんです・・・!僕がやりました・・・!」
坊主は小さい声の呪いが解けたようにぺらぺらと喋り出した。
「魔が差したんです・・・!別に僕はお菓子が欲しいわけじゃなかったんだ・・・みんなからの注目が欲しかった・・・!小学校時代から僕は特に目立たない性質があって、昼休みなんかも僕だけ仲間外れで・・・。「入れてくれ」と頼んだこともありましたけど、僕のことを「だれ?」って感じでみんなが見るんだ。挙句には美代ちゃんにも・・・あっ、美代ちゃんていうのは小学校時代好きだった子です。あまり人と話すことが苦手な僕が勇気を出して美代ちゃんに話しかけても「だれ?」って言われるだけでした。でもまあそれが悪いことかって言われるとそうではなくて、普段遠くからみている、ニコニコした美代ちゃんではない美代ちゃんが見れて結構嬉しかったっていうか・・・でもまぁそんな感じで誰かに構ってほしかったんだ・・・」
長い!!!!!!!!!!!
「それで中学に入学すると・・・」
まだあるのか!?止めろ!柔囲!
「ちょ、ちょっと二宮君?いったん落ち着こうか?」
やった!柔囲ナイス!
「里美ちゃんっていう子が・・・」
やってない!柔囲あほ!
「二宮君?ちょっと?聞いてる?」
「同じ班になれたんですけど席は右斜め後ろだったからずっと見てることが出来なくて、それでも気になるからよく後ろを振り向いてたんですけど、その時によく目が合うんですよ。だから僕のこと好きなのかなーって思ってて、あまり人と話すことが苦手な僕が「良く目が合うよね」って話かけたら「だれ?」って言われるだけでした。1年の時はそんな感じだったんですけど、2年にあがってからは・・・」
・・・。止まらんなこれ・・・。どうする柔囲。
「はい!ストップ!!」
柔囲が坊主の前で手を叩く。するとどうだろう・・・坊主が止まった!
「あとは後できくから。二宮 信吾、君が○○スーパーでお菓子3点を万引きしたのは間違いないね?」
「・・・はい、そうです。・・・あのスーパーでは緑ちゃんっていう子がバイトしてて・・・」
「では、もう大丈夫です堅井さん。お疲れ様でした。ありがとうございました」
・・・坊主はまだもちゃもちゃ話していたが、柔囲と別の「けいかん」に連れて行かれた。まぁ、しかしなんだ、えらく賑やかだった部屋が、寂しくなっちまいやがったな・・・。今日もなにやら分からねぇことだらけだったが、たった一つだけ、はっきりしていることがある。それは、万引きはいけねぇってことと、地雷は踏むなってことだ・・・。誰の心にも地雷ってやつぁあるもんだ・・・。それをいかに踏まずに綱渡りできるか・・・針を通すように縫って歩けるか・・・それとか、飛んでいくとかして、地雷を回避しなけりゃいけねぇ。人との「こみゅにーけーしょん」っちゃあ、それほど大変なんだぜ・・・。だから俺の仕事も大変。給料3倍ぐらいにならねぇかなぁ・・・。




