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◆北の神様(その9)


◆北の神様(その9)


ミキが自分の部屋で小一時間ほどくつろいでいると、ケンタウロス似の生き物がローズ風呂の用意が出来た事を伝えにきたが、話しをするとき気の毒そうに自分の事を見ているような気がした。

北の女神を待たせるわけにも行かないので、ミキは直ぐに大浴場に向かう。


確かに大浴場の近くまで来ると薔薇の強い香りがしてくる。

大浴場に先について待っていた北の女神様は、ちょっと変わった服をきていた。

黒のエナメルのボディスーツのような格好である。

手には、棘の鞭のようなものを持っている。


ミキは、なんだかこの格好をどこかで見たような気がしていた。

『確か、お笑い女芸人で西○すみことか言う人の格好に・・・』

「さぁ、この神殿の庭で咲いている薔薇の中でも一番良いものを摘んでこさせたから時間をかけて堪能していただくわよ」

ミキは何だかとっても嫌な予感がしてきた。

服を脱いで大浴場の中に入ると、お湯の変わりに棘付き薔薇の切花が浴槽いっぱいに入れられている。

「な、なんですか? これっ?」


「何って・・ これがローズ風呂よ」

そう、北の女神様はドSでもあったのだ。

「こんなのに入ったら、棘で血だらけになっちゃうきゃないですか!」

「あら、そこがいいんじゃないの」

「・・・」

「さぁ、早くお入りなさい」

ミキは逆らうわけにはいかず、浴槽に一歩踏み出すが。


「痛デデデデッ!」

右足が脛まで沈む前に、その痛さでミキは入浴を断念し浴槽の縁にしゃがみこんでしまった。

見れば、右足は棘によって出来た引っかき傷が無数にできて、血も少し滲んでいる。

その姿を見て、北の女神の目がキラキラと輝き始める。


ミキはあえて目を合わせないようにしながら、そぉっと大浴場から出て行こうとするが、突然体が浮き上がったと思った途端、大浴槽のど真ん中に投げ込まれてしまった。

ヒィーーッ

想像を絶する痛みにミキは悲鳴を上げる。


ゴゴゴゴッ

大浴槽いっぱいの薔薇の切り花がゆっくりと回転を始める。

まるで洗濯機の中の洗濯物のように・・・

ミキは、悲鳴を上げながら、その渦の中に飲み込まれていった。

「うふふっ これで久しぶりに特上女神エキス入りのローズオイルが絞れるわ」

大浴槽の中の薔薇の渦は徐々に波を打ちながら大きくなり、速さも増していく。


キャァーーーーーーー

ミキの悲鳴のそれに合わせて一段と大きくなっていく。

神殿の裏側ではケンタウロス似の生き物達が、大浴槽とつながったパイプの先に大きな壺を置き、ちょろちょろと流れ始めたローズオイルを集めている。

オイルは薔薇の良い香りがしているが、心なしか花の色より赤みが強いようだ。

1時間くらい経つと大浴槽の薔薇の渦は、徐々に回転がゆっくりになってきた。

もはやミキの悲鳴も聞こえない。

「あとは、オイルが溜まるまで、もう少し時間がかかるわね」

そういい残し、北の女神は大浴場を後にした。

・・・

・・


「ミキ・・ おい、大丈夫か!」

うっ

ペチ、ペチと頬を叩かれ、ミキは東の神様の腕の中で目が覚める。

「あ、あんた誰?」

キャーー

「ち、痴漢ーーー!」

ミキは大浴槽から助け出されたままなので、全く衣服を身に着けていなかった。

「しーーーっ! 静かに! あいつに気が付かれるじゃないか! 折角助け出したって言うのに!」


あっ、あ゛ーーーっ

ミキはその言葉に、北の女神の事を思い出す。

「こらっ、静かにしろって言ってるのがわからないのか!」

「あっ、す、すみません」

東の神がミキの眉間に手をかざすとミキのおでこがパァーと一瞬光る。

「どうだ?」

「カ、カイ君・・・なんでこんなところに居るの?」

「カイ君言うな!」

東の神様もどうやらミキのしゃべり方がうつってしまったようだ。

ボンッ

ミキは全ての記憶を取り戻すと、まずは素っ裸の自分の体に合った服を瞬時に纏う。



「カイ君、助けてくれて本当にありがとう。 もう少しで、ローズオイルの添加物にされるところっだったよ。 でも、いったいどうしてあたしがココにいる事がわかったの?」

「ははっ あいつは俺の妹だからな、だいたい何を仕出かすかは想像できるよ」

東の神様は、苦笑いをしながらぼそっと呟いた。

「えっ? 兄弟なの? そんで大神がお父さん? それじゃ、ひょっとすると・・」

「察しのとおり、西の神は兄で南の女神は姉だよ」

「それで、あの時夫婦仲良くなんて言ってたんだ・・・」

ミキは元西の神が言っていた意味が今ようやく理解できた。


結局、この天上界は大神の親族が支配していたのだ。

もちろん、それなりの実力はあるのだろうが。

「でもカイ君って可哀想。 お父さんも妹さんもとっても怖い神様なんだね」

「そうかも知れないな・・」

「ねぇ、北の女神は死を司り、あたしは復活を司っているけど、カイ君は?」

「俺か? 俺は凄いぞ!」

「凄いって?」

「ああ、俺は希望を司っている」

「希望かぁ・・・確かに凄いね。 それじゃ南の女神様は?」

「姉か。 まっ、そのうちにわかるさ」

東の神は、敢えて教えるのを避けているようだし、ミキも聞かない方がいいような気がした。


次回、「薔薇ローズパニック」へ続く

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