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◆北の神様(その4)


◆北の神様(その4)


北の神は、酔ったのか赤い顔をしながら、寝ているミキにゆっくりと近づいて来た。

北の神は、グラスを持つ手と反対の手でウェーブがかかったミキの長い髪にそっと触れ溜息をく。

「ココにわたし以外の女神が迷い込んでくるのは、何千年ぶりだわね。 それにこの娘は、いままでの女神の中で一番綺麗」

そう、北の神は女神である。


西のミキは(復活・誕生)を司るが、北の神は(死)を司る。

西の神が女神に変わったことは知っていたが、目の前の女神はまだ子供のように幼く見え、まさか「復活の神」だとは夢にも思っていない。


東西南北のそれぞれを統治するには、それなりの実力が伴わなければならない。

まさか、目の前の小娘のような女神に、そのような力があるようには見えない。

北の神の元では死神と呼ばれる神が大勢仕えている。

従って北の神が直接、生き物の死に係わることは無く、この天上界で北の神は暇を持て余していたのだった。


そんな時に森に迷い込んできたのがミキであり、其れこそ飛んで火にいる夏の虫状態であった。

北の神は、ミキの胸に左手を当てて、耳元で囁くように尋問を始める。

「そなたの名前は、なんと申す?」

「んっ・・ミキ・・です」

キノコの胞子は自白剤の効能もあるのだ。


「ミキ? 天界では珍しい名だな。 で、どこからやって来た?」

「西から来ました」

「西から・・ わたしの森で何をしていたのだ?」

「大神から逃げて隠れていました」

「大神から逃げて・・・ そなたは、いったい何をしたというのだ?」

「何もしていません。 ただ頭を叩いて、ほっぺたを抓って、火事を消しただけなのに・・・ あの爺さんは、許せません!」

怒りが表情にもでるのかミキの眉根に皺がよる。


「な、なんと大神の頭を・・それで逃げて、あの森に隠れていたというのか・・」

「はい。 あたしはとてもお腹が空いています。 ケンタウロスみたいなのがご馳走を持ってて・・ それで、眠くなって・・・あとは何も覚えていません」

ミキは目を瞑ったまま、ただ素直に質問に答える。


「こ、これは残念だけど、下手に係わらない方がいいわね」

北の神様は、ほんとうに残念そうな顔をしている。

いったいミキに何をするつもりだったのだろう・・・


北の神は、自分が持っていたグラスから赤い液体を口に含むと口移しでミキにそれを飲ませた。

うっ・・・ううん・・

するとミキはベッドの上で目を覚ます。


「あ、あれっ? ここは・・・」

気が付けば、自分はたいそう立派なベッドに寝かされているではないか。

辺りをくるりと見回せば、ベッドサイドにそれは美しい女神が腰をかけて自分を見下ろしている。

「あ、あの? ここは・・ いったいどこでしょうか?」

自分でも間抜けな質問だと思ったが、美しい女神に見られていると思うと気が動転する。


グギュルルルーーー

その途端、腹の虫たちも復活する。 復活の神の腹の虫なので、復活が早いのかも知れない。

ミキは美しい女神を前にし、恥ずかしさで思わず下を向く。

「いいのよ。 お腹が空いているんでしょ。 いま食事の仕度をさせるわ」

「ほ、ほんとうですか!」

ミキの目が輝く。


「フフッ 神様は嘘をついてはいけないのよ!」

『あれっ? この言葉、どっかで聞いたような気がするなぁ・・』

ミキは心の中でそう思った。

「あのっ! ところで、あたし誰でしたっけ?」

ミキは天界に来てから、再び記憶を失ってしまったようである。

実は、先ほど口移しで飲ませた赤い液体に北の神が記憶喪失の力を籠めたのである。 

「そのことなら気にしなくてもいいのよ。 食事をしながらゆっくりお話ししましょっ」

「は、はい・・」

取敢えず何か食べられそうなので、ミキはすっかり安心してしまったが、この後事態は更に深みにはまって行くのだった。


次回、「北の神様(その5)」へ続く


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