第1話「初めまして、幼馴染」
なんだかとても長い夢を見ていたような気がする。外はもう明るくなっていて小鳥のさえずりが聞こえてくる。
みんなと集合する前にアスカの家へ寄って行くことにした。アスカの家はここから何件か隣にあるのだが、この辺りは子どもが俺とアスカだけだったので小さい頃は毎日二人で遊んでいた。
「おーい、アスカー!いるかー?」
扉をノックし声をかけると少ししてからアスカのお母さんが姿を現した。
「あらアイン、ごめんなさいね。アスカには今おつかいに行ってもらってるのよ。もうじき帰ってくると思うから中で待っててちょうだい」
おつかい?
「アスカがおつかい、ですか?あのアスカが?」
俺が驚くのも無理は無い。何故なら、アスカは面倒くさいことが大嫌いな男だ。旅の途中だって火をおこすのが面倒だという理由で生肉を食ったりしていたのだ。
そんな彼は今、全く理由はわからないがどうやらおつかいに行っているらしい。あの大男がメモを片手に買い物かごを下げている姿を想像すると面白くて笑いが止まらん。帰ってきたら思い切り笑ってやろう。
そんなことを考えていると
「ただいまー!」
と可愛らしい女の子の声が聞こえた。たぶんアスカの従妹のメルだろう。アスカが旅から帰ったと聞いて隣の国からやってきたに違いない。
俺も昔何度か顔を合わせたことがあるがまだ小さかったメルが俺のことを覚えているかはわからない。覚えていてくれると嬉しいが・・・・・・
「あ!アイン来てたんだね。ごめんごめんちょっとおつかい頼まれちゃって。今日は何して遊ぼっか~最後の日に相応しい遊びをしないとね!」
メルもすっかり大きくなったな。元気に育ったようでなによりだ。それより最後の日?昨日きて今日帰るのか、多忙だな。
「アスカお帰り、おつかいしてくれてありがとうね。おやつ作っておくから疲れたら一旦戻ってきて休憩しなさいね」
「え、メルじゃないのか?」
俺の頭にはビックリとハテナがいっぱいだ。俺は何が起きているのか理解できないままアスカと呼ばれるその少女に連れられ外へでた。
「ちょっと待ってくれ、アスカ・・・・・・?メルじゃないのか?本当にアスカなのか?」
「へ?ちょっと何どうしたの?メルはバルバ王国にいるでしょ。私がアスカじゃなかったら一体私を誰だと思ってるわけ?」
全くわからん、いや本当にわからん。俺は夢をみてるのか?と思ったがこの感じは夢じゃなさそうだ・・・・・・。とりあえずこの自称アスカに話を合わせるしかないか。
「すまん、実は今朝ベッドから落ちてその時頭を強く打ったんだ。それで少しおかしくなってたみたいだ。俺はアインで君はアスカ、メイは従妹。で、今日は最後の日だよな?」
さっきは聞き流していたが最後の日、これには心当たりがある。5年前にその日が来て俺とアスカは旅にでたんだ。
「そうよ、私はアスカであなたはアイン。そして今日は最後の日。予言では明日この世界に魔王が誕生するって言うから今日はずっと遊ぼうって約束してたでしょ?どう、思い出した?」
ふむ、最後の日と聞いてから考えていた一つの仮説が正解のようだな・・・・・・。俺は魔王を倒して昨日この国に帰還したのだが、それは全てなかったことになっているようだ。
それどころか俺の幼馴染である身長2メートル越えの大男は身長160センチ程度の少女になっていた。そういえばこの公園、この国では本来育たないはずの木が生えているな・・・・・・。
「ねえ、ねえってば!アイン、聞いてる?その腕の傷って何?昨日はなかったけどベッドから落ちた時の傷でもないよね?本当にアインなの?今日なんか変だよ」
言われて気付いたが俺の腕にはいつの日かドラゴンと戦った時のあの爪あとが残っていた。魔王の死やアスカは変わってしまったが俺のあの旅はどうやらそのまま残っているらしい。
「ああ、この傷は俺にもよくわからないんだ。痛みはないから心配しないでいいぜ」
「そう、ならいいけど・・・・・・。なんだか遊ぶって感じじゃなくなっちゃったね。・・・・・・ねえ、もし明日予言通りに魔王が現れたら・・・・・・」
「大丈夫だぜ。魔王は俺が倒してやるから」
俺は変わっていない。魔王が現れてもまた倒せばいいだけだ。そうして変わってしまったこの世界をもとに戻す手段を探そう。
「・・・・・・ありがとう。無理だってわかってても元気でたよ。今日はもう帰ろ?また明日ね!ベッドから落ちちゃだめだよ!」
「ああ、また明日」
俺はそう言って今日初めて会った幼馴染に別れを告げ、旅の支度をした。
この話から物語が始まっていきます。