第0話「英雄の凱旋」
こんにちはバスターミナルです。今回の投稿が初となります。よろしくお願いします。
「英雄の凱旋だ!」
たった今この国サルーガでは魔王を倒し世界を救った英雄たちの帰りを待つ国民によって長い花道が作られていた。そして世界を救った「英雄」ことこの俺、アイン・レイティアは共に世界を救った仲間たちと花道を歩いていた。
「無事に戻ってこられたな。ここまで本当に長かったが、お前たちのお陰だ」
そう感慨深く話しているのは俺の幼馴染で戦士のアスカ・フレイだ。身長が二メートルを超える大男で、パーティではその恵まれた体格を活かし仲間たちを守る盾として戦ってくれた。5年前に魔王討伐の旅に出ようと言い出した時は本当に驚かされたものだ。
「この国は私たちの故郷ではないけれど何故だか心が温まる・・・・・・とても素敵な場所ね、シグ」
「そうだね姉さん。不思議な感覚だよ」
この二人は双子の姉セリナ・フィフスと双子の弟シグマ・フィフスだ。二人の故郷は俺とアスカが旅の中途で立ち寄ったアルビスという村だったのだが、魔王の手によって滅ぼされ今は無くなってしまった。この国が第二の故郷となるよう切実に願っている。
「王よ、英雄アインとその一行がお見えになりました」
一人の兵士がそう言うと国王であるポル・サルーガが姿を現した。
「おお我が国の偉大なる英雄アインとその仲間たちよ、よくぞ魔王を討伐した。魔王がこの世に顕現してからというもの、人々は魔物の恐怖により自宅から外出することも出来ない時期すらあった。大きな国は魔王軍に壊滅状態に追い込まれ、次はこの国かも知れないと思うと夜も眠れなかったのだ・・・・・・。しかし魔王が討伐され世界に平和が戻った今、もはやその心配はない。ありがとう、アイン、アスカ、セリナ、シグマ」
そう言い終えるや否やポルは全国民に向けてこう言い放った。
「それではこれより偉大なる英雄の功績を称えて宴を執り行う!」
その言葉を聞いた国民は待ってましたと言わんばかりに宴を始めた。俺たちが城を出るとあの素晴らしい花道は完全に姿を消し、代わりにそこには酒を飲み、歌い、踊っている国民の姿があった。
「本当は宴がしたかっただけなんじゃないのか?」
「うふふ、感謝しているのは案外そっちだったりしてね」
俺はそんな冗談を言っている仲間たちに声をかけた。
「みんな盛り上がってるな。まずは魔王討伐おつかれさん、いや~ほんっとうに長い旅だったな。最初なんか魔王どころかそのあたりのウサギすら満足に狩れなかったような青年が、今や世界を救った英雄だぜ?びっくりだよな。でもやったんだ俺たち。魔王討伐したんだぜ」
「ああ懐かしいな。苦労した」
うなづくアスカ。慣れない鎧のせいでうまく動くことができずそれはそれは苦労したものだ。
「その後も剣術は魔法術、召喚術。全部死ぬほど大変だったな。5年間ずっとずーっと、魔王を倒すために頑張ったんだ。それももう終わりだけどな」
そこで俺は本題に入る。
「俺はさ、ずっと考えてたんだ。この旅が終わったらどうなるんだろうって。魔王を倒したら俺が今まで磨いた剣術も必死になって習得した魔法も、あいつだってもう呼びだすことはなくなって・・・・・・。俺は、世界の平和と引き換えに無価値になっちまったんじゃないか?むしろ、魔王を倒す力を意味もなく持ってる人間なんて同じ国にいたら怖いぜ、俺は」
「そ、それは・・・・・・」
みんなの顔から笑みが消えた。正直な話、俺以外は魔王と張り合うほどの力はない。だからそこまで深く考えなくてもいいんだ、人間なんだから。
「みんな、急に悪かった。夜はまだ長い、宴を楽しんでくれ。俺はちょっと変に酔っちまったみたいだから帰って寝ることにするぜ。」
「アイン・・・・・・また明日な」
「ああ、また明日」
俺はそう言い残し、誰も帰りを待っていない冷たい我が家で死んだように眠った。
ここまで読んで頂きありがとうございます。次回からは物語が始まります。