〈第三十五話 一生忘れない〉
一階層丸ごと、セーブポイントとして維持出来ているのは、無数の魔石が五階層の天井に散りばめられているからだ。巨大な且つ強大なダンジョンには、こういう場所が所々現れる。
昔からこの世界の住人は、この場所を拠点として、ダンジョンの探索を行っていた。
五階層に初めて足を踏み入れた時、天井を見上げるも魔石が見えなかった私に、シュリナは夜になれば分かると、教えてくれた。
その日の夕方、風呂から上がった私は、シュリナがくれたパジャマに着替え、濡れた髪をゴシゴシとタオルで拭っていると、さっきまで着ていた服が、下着ごとなくなっているのに気付いた。
あれ? ない。泥棒? そんなことないか。
リビングに戻ると、皆窓際に座り夜空を見上げていた。
さっきまで明るかったのに……本当に夜になるんだ……
「サス君、汚れた服…………」
感動しながら、皆の側に近付く。言いかけていた言葉が、途中で止まった。その後の言葉が続かない。私は言葉を失い、呆けたように空を見上げる。
「…………シュリナの言う通りだね。すっごく、綺麗……」
ようやく言葉を発したが、その声は独り言のように小さなものだった。
夜空一面、キラキラと輝いている。
星よりも明るくて、そして星よりも近い光りが、夜空を輝かせていた。
「あの輝き一つ一つが魔石なの?」
服のことは頭から消えていた。
「そうだ。あれ全部、魔石だ」
シュリナが答える。
「光りが弱いものや、強いものもあるけど……」
夜空を見上げながら話続ける。
「弱いものは、魔石の魔力が尽きかけているものだ。反対に強い光りを放っているのは、魔力の消費が少ないものだ。魔力が尽きた魔石は、天井の岩と同化し一部になる。そしてまた、新しい魔石が生まれるのだ。そうやって、この場所は魔物から守られている」
シュリナの言葉は、私の心にストンと入ってきた。
あの魔石の輝き一つ一つが、言わば、魔石の命の輝きなのだろう。
魔石は、私たちのような体を持った生命体じゃない。
だけど私には、あの輝きが命の輝きに見えて仕方がなかった。だからこそ、美しくて、私の心を揺らし震えさせることが出来るのだ。
この世界に無理矢理飛ばされて、色々な人に出会い、色々なものを見てきた。
その度に感動して、私はその光景を心に刻み込んできた。
しかし、目の前の光景は、それらをはるかに凌駕していた。
私は思う。
(一生、私はこの夜空を忘れることはないだろう)
そうやって、私は心に一つずつ宝物を増やしていくのだ。
忘れ去られた、汚れた服と下着だが、実はミレイが洗濯の為に持って行きましたとさ。
朝、ムツキは羞恥で顔を真っ赤に染めることになる。
「下着は自分で洗います!!」
お願いだから、持ってかないで~~!!
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それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




