〈第三十四話 いつから、ダンジョン好きになった!?〉
ミレイが案内してくれた定食屋さんは、気楽に立ち寄れる感じのお店だった。
従魔を連れているので、私はテラス席に腰を下ろす。ハンターの利用が多いお店は、従魔を拒否することは少ない。だが、やっぱり店内は気が引ける。連れてる従魔が従魔だからね。落ち着いて食事出来ないし。だから私は、大体テラス席を利用していた。さっそく、メニューを広げる。
……ん? 影?
メニュー表に影がかかる。顔を上げると、向かいの席は空席のままだ。通路側に視線を移すと、ミレイが立っていた。
「どうして立ってるの? 向かい空いてるよ」
「ムツキ様。私はメイドです。主人と同席するわけにはいきません」
ミレイは拒む。
「どうしても?」
「はい」
……頑固だなぁ。仕方ない。
「それが命令でも」
ミレイは困った顔をする。
困った顔をさせたいわけじゃない。そんな顔をされると、私がすごく我儘を言っているような気分になる。だからといって、ミレイを隣に立たせたまま食べたところで、折角出された食事が美味しいはずがない。私は軽く息を吐き出すと命じた。
「ミレイ。席に着きなさい。これは命令です」
出来る限り、主っぽく言ってみた。
「…………畏まりました」
ミレイは軽く一礼すると、向かいの席に座った。
「注文はお決まりでしょうか?」
ちょうどミレイが席に着いた時、ウェイトレスさんが注文を訊きにきた。
「我はこれがよい」
「私もそれで」
シュリナとサス君は同じものを選ぶ。〈三種類メガ盛り焼き肉盛り合わせ(四人前)〉だ。
やっぱりね。
「じゃ、それを二つ」
「僕はこれとこれがいい」
ココは〈三種類肉の串焼き(一人前)〉と〈鉄板焼きハンバーグ ライス/スープ付〉だ。
シュリナとサス君は豪快な料理を好んで選ぶが、ココは少しずつ色々頼み楽しむタイプ。いつも最低二品は頼む。従魔たちの中で、ココが一番繊細だった。
ウェイトレスさんは不思議な顔で、従魔トリオを見ている。見た目、子犬に黒猫だからね。玉ねぎたっぷり使った料理選んでるし。
「私は……」
どれにしようかな……
メニューには肉、肉の絵が並んでいる。美味しそうだね、肉……はぁ~。ため息がもれる。
「ムツキ様、ここは魚料理も美味しいですよ」
そう言いながら、ミレイはメニューの後ろをめくる。
女神です!! ここに、女神がいらっしゃいます!!
「ありがとう!! ミレイ! 私は〈海鮮焼き パン/スープ付〉を一つ。ミレイは?」
「私は……」
「ミレイは何にするの?」
ニコッと微笑みながら、再度訊く。
「……ムツキ様と同じものを」
「飲み物はどうされますか?」
「「「ココリのジュース!!」」」
従魔トリオ、綺麗にハモる。
「ミレイもそれでいい?」
ミレイは頷く。
「……じゃ、ココリのジュースを五つ下さい」
ウェイトレスさんが下がったのを確認してから、ミレイが尋ねてきた。
「ムツキ様は、レベルを上げるために、このダンジョンへ来られたのですか? それとも、攻略しに?」
「どっちも違う。私がここに来たのは、マジックバックを作ってもらうためだよ」
「マジックバックですか?」
「うん、そう。ホムロ村のギルマスから、ここに職人がいるって聞いたからね」
私はココリのジュースを飲みながら答える。ドワーフのことは、あえて黙っていた。
(でもまさか、それがダンジョンだとは思わなかったけど)
声に出さずにぼやく。
地図を渡しながら、ケイは「まぁ、ムツキなら大丈夫だろ」と、言っていたのを思い出す。
……こういうことだったんだ。ジェイも知っていたなら、一言いってくれてもよかったのに。何も言ってくれなかったしさ……。送ってくれたのは助かったけど。
「……ムツキ様?」
「あっ、ごめん。ミレイは職人の居場所って知らないよね?」
「マジックバックの職人ですよね……。ダンジョン内に工房があるのは聞いてませんが、どの階層にいらっしゃるのですか?」
ミレイも知らないかぁ。商業ギルドも把握していないのかも。だとしたら、個人で工房をやってることになるよね。でも、そんなこと出来るかな? とにかく、どこかのセーブポイントの一角でやってることは間違いないから……問題は、それが果たしてどの階層かだよね。
「ムツキ、ケイにもらった地図出してみて」
全く猫舌ではない妖精猫は、湯気が上がり肉汁たっぷりのハンバーグをがっつくのを一旦止め、口元を拭いながら言った。
私は鞄から地図を取り出すと、自分の皿を横にずらし広げた。
「ここ」
ココは地図の一か所を前足で指し示す。
紙の右上の端の方に、殴り書きのように数字か書いてあった。ご丁寧に赤丸付で。気にはなってたけど、これか!!
ーー二十五と。
……マジで。
未攻略地帯を進まないといけないわけ。
嘘でしょ…………
沈み込む私。
反対に、何故か目を輝かせる従魔トリオ。
一つ聞こう。
ーーいつから、ダンジョン好きになった!?
『シュリナ!! 何嬉しそうにしてるのよ! 私たちには五聖獣の封印を解く役目があるでしょ!』
『何故、我だけを非難するのだ!!』
念話で会話しているから、ミレイには何も聞こえていない。傍から見たら、顔を突き合わせて、仲良くにらめっこしているようにしか見えないだろう。
ミレイは頬を緩めながら見ていた。
どりあえず、目指す階層が決まった。
お待たせしました。
次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




