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〈第三十二話 風見鶏〉

 


 ーー天井に散りばめられた魔石が光っている。



 シュリナがそう教えてくれた。



 改めて天井を見詰めるが、よく分からない。



「夜になった方がよく分かるぞ」



「夜になるの!?」

 吃驚びっくりだ。



(ここはダンジョンの中だよね。洞窟の中なのに……。それとも、洞窟じゃない。そっかぁ……入口が洞窟風で、中は違うってことなんだ。一種の異空間みたいなもの?)



「その通りだ」

 シュリナは心の声に答える。



「……さすが、ファンタジー」



 私は呟きながら、もう一度天井を見上げると、皆と村に続く坂道を下りて行く。



 上からみても村だったけど、下りてみても、やっぱりこじんまりとした村だった。



 小川も流れている。



 透明な澄んだ水が、ダンジョン内に流れていることに内心驚きながらも、その光景は私を十分楽しませた。サス君もココも足取りが軽い。すっごく、楽しそうだ。勿論、私もすっごく楽しい。シュリナも上機嫌だった。シュリナが私の心の声が聞こえるように、私もまたシュリナの心の機微を感じ取れた。



「村の探索は後にして、先に宿屋を決めませんか?」

 サス君が振り返りながら、提案する。



「そうだね。皆で一緒に泊まれる部屋があるといいんだけど」



「その点は大丈夫だと思うよ」

 ココが明るい声で、太鼓判を押してくれた。



 村を歩く人に宿屋の場所を尋ねると、「この道を真っ直ぐ歩いた先にある建物がそうだよ」と教えてくれた。教えられた通り歩くと、直ぐに宿屋は見付かった。



 宿屋は、村の中で一番大きな建物だった。村を見渡す高台に建っている。



 可愛い建物だなぁ。



 まるで、田舎の小学校の校舎のようだ。正面玄関の上には、大きな針時計が時刻を刻んでいる。



 人族だけでなく、多くの獣人も出入りしていた。私は間近に見る、様々な種類の獣人を見て、目を輝かせ、顔を綻ばせる。



「「「……ムツキ(さん)」」」



 そんな私を見て、残念そうな目を向けながら、呆れたように呟く従魔トリオ。その様子に全く気付かない主。そして、そんな可愛いパーティーを見て、反対に顔を綻ばせる面々がいたことに、彼女たちは気付かなかった。



「……お客様、〈風見鶏〉に御来店ありがとうございます」

 穏やかな男性の声が、私を夢の世界から、現実世界へと引き戻す。



「あっ、すみません。ボーとしてました。あの、今日泊まれる部屋はありますか?」

 一瞬慌てる私に、男性は微笑む。



「ございます。御案内しますね」



 丁寧な口調と物腰を見て、私は男性を紳士のようだと思った。



 私は紳士の後ろを着いて歩く。彼と一緒に正面玄関を潜る。内装は派手さを感じない。玄関は意外に広く、空間の角には植木が置かれ、何脚かの椅子が置いてある。軽装の格好をしたパンツが座って、雑談を交わしてくつろいでいる。



 あれ?



 てっきり、目の前のブースでチェックインするとばかり思っていた。が、紳士はそのまま正面玄関のブースに行くことなく、横の通路を抜けていく。チェックインの作業をしていた係員が、紳士に頭を軽く下げているのが、目の端に映った。



 通路を抜けた先に、こじんまりとしたブースがあった。



 正面玄関での喧騒とは違い、とても静かで、正面玄関よりも豪華で格式が高い。置かれた椅子もソファーも気品があるように思えた。



 ブースに立っていた係員が、私たちを見て顔を歪めるが、隣に立つ紳士の顔を見て、慌ててブースから出てきた。



(もしかして、彼はこの旅館の支配人かな)



 ふと、係員の態度を見て思った。



「今すぐ、この場から下がりなさい」



 紳士が放ったその声はとても冷たく、逆らうことが出来ないほど、威圧的なものだった。いきなり言われた言葉を受け止められずに、係員は気が動転している。



 紳士は係員が私たちを見て、顔を歪ませたのを見逃さなかった。それどころか、ブースから出ても尚、私たちに対して謝罪の言葉を口にしない係員の姿勢を、紳士は咎めたのだ。



「私の言葉が聞き取れなかったのかね」



「しかしーー」



 訳が分からない様子の係員に、紳士は冷たい目で一瞥いちべつする。係員はこれ以上逆らうことは出来なかった。係員はブースから離れる。代わりにブースに入ったのは紳士だった。




「部下の教育不足により、貴女様に不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」



 紳士は頭を下げ、私たちに謝罪の言葉を述べる。



「いえ、全然。何とも思ってませんから」



 こんな立派な大人の人に頭を下げられて、私は狼狽えた。こんなこと日常茶飯事だし、怒ってなんかない。そんな中……



「お前は分かっておるようだな」



 あたふたしている私の代わりに答えたのは、シュリナだった。



「ありがとうございます」

 紳士は一礼する。



「で、そろそろ、案内して欲しいんだけど」



 ココがブースの台の上に座り、紳士に言う。紳士はココが話しても驚かない。



「畏まりました。それではお客様、ここにお客様の名前の記入を。それから、申し訳ありませんが、お客様の持つハンターカードのご提示をお願い致します」

「はい」



 私は促されるまま、宿泊名簿に名前を書き、ハンターカードを紳士に見せた。



「ありがとうございます。それでは、部屋に御案内致します」



 ベルを鳴らし、別の者にブースを任せると、紳士自ら部屋に案内してくれた。立派なドアを開けると……



 ーー広っ!!



 ホムロ村で滞在したような、広々とした部屋だった。



「ここにあるものは、自由にお使い下さい。それでは、ごゆるりとおくつろぎ下さいませ」

 深々と頭を下げた後、紳士は部屋を出て行った。



「どうゆうこと!?」

 私たちだけになったところで、私はココに詰め寄る。



「ムツキは知ってるだろ。宿屋には、ブロンズが泊まる部屋とシルバー以上の泊まる部屋が別れてることを。……ムツキはゴールドだから、何処の宿屋でも最高級の部屋に泊まれるよ。勿論、僕たちと一緒にね」



 その言葉を聞いて、私はドーンの森で泊まった宿屋のことを思い出す。



 あの時……ゼロとココは、個室の部屋をあてがわれた私に、シルバーの〈特権〉だと告げた。私はその時、ハンターの世界が実力主義なのを実感した。だとしたら、今いるこの部屋もゴールドの〈特権〉なのだろう。



 私は黙り込む。



 その時だった。ドアをコンコンコンと三回ノックする音がする。



 何だろう?



「どうぞ」

 私はドアを開ける。そこには、メイド服を着た綺麗な女性が立っていた。



「失礼致します」

 メイドさんは部屋に入ってくると、一礼し言った。



「ムツキ様で御座いますね。私はミレイ=ユリアスと申します。今日から、このダンジョン内で、ムツキ様にお使いさせて頂きます。短い間ですが、宜しくお願い致します」



 ミレイ=ユリアスと名乗ったメイドさんは、とんでもない爆弾発言をしてくれた。



「えーーーー!!!!」



 これも〈特権〉の一つですか!!





 メイドさんが仲間になりました。



 ……マジで。







 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 新たにメンバーになったメイドさんを宜しく!!


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

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