〈第二十七話 ジェイの正体〉
ジェイに小脇に抱えられたまま、私たちは王都バーミリオンに到着した。
無事到着したが……
「…………ここ、どこ?」
私は呟く。
てっきり、王都の城壁の脇、人がいない林の中に到着するものばかり思っていたが、予想に反して到着した先は、どこかの室内だった。
飾り気は全くないが、やけに立派で広い室内だ。
大きな窓の前には机が置かれていて、ギルドのマスター室に一見似ている。でも、明らかにマスター室とは違っていた。置かれている家具には、細部にわたり細かい装飾が施され、比較にならないほど高価なものだと、庶民の私でも分かるほどだった。
「ここは、俺の仕事部屋だ」
私の呟く声が聞こえたのか、ジェイは質問に答える。その声は、どこか嬉しそうだった。妙に明るい。
(なるほど。契約紋のことがあるから、直接、ジェイは仕事場に来たわけね)
納得する。納得するが……この状態は何?
「そうですか? ……あの~。質問に答えてもらえたのは嬉しいんですが、そろそろ、下ろしてもらえませんか?」
それよりも、そもそも何で、ジェイは私を担いでるわけ。
ジェイの腕は今も、しっかりと私の腰に巻き付いている。足は宙を浮き、荷物のように小脇に抱えられたままだ。
「…………」
何故、無言?
っていうか、重くないですか?
「ジェイさん、聞こえてますよね。下ろしてもらえませんか?」
もう一度、私は語尾を強くして言ったが、下ろしてもらえない。
ジェイは私が逃げ出すとでも思っているのだろうか。逃げ出す必要なんて、どこにもないのに。
ため息を付きながらも、再度、厳しい声で下ろしてもらうよう、言おうとした時だった。
立派でしっかりとした扉が開いた。入ってきたのは、シルバーの鎧を身にまとった、中年の男性だった。
(騎士?)
私はその鎧に見覚えがあった。グリーンメドウやホムロ村で、何度も若い騎士がその鎧をまとっていたのを見ていた。騎士でしか着用が許されない鎧。中年の男性がまとっている鎧の方が、かなり立派に見えるけど。
まさか、上司ではないよね……
ていうか、騎士? 何で、騎士がジェイさんの仕事部屋に? そもそも、ジェイさんって何者? ギルマスじゃなかったの?
疑問が頭を過る。
騎士らしき中年の男性の目が、私とジェイに注がれる。バチッと視線があった。一瞬、彼は大きく目を見開くが、直ぐに入って来た時と同じ表情に戻る。
「……陛下、一つお伺いしても宜しいですか?」
少し間があいた後、固い表情をしたまま尋ねた。声もどこか厳しい。
ん? 今、何かとんでもない単語を聞いたような……
きっと、気のせいだよね。うん、絶対そう。
「何だ?」
私を無視して会話は進む。ジェイは平然としたまま答える。どこか楽しそうだ。
「誘拐してきたのですか?」
騎士も平然と訊いてきた。
私はその台詞にギョッとする。
誘拐って! それ、犯罪ですから。
「いや、同意だ。それに、約束しただろ」
ジェイは気を悪くすることなく答える。
誰に約束?
騎士はジェイの言葉に目を見開く。そして今度は、私に視線を向けて問う。「貴女は同意してここに来たのですか?」と。その目は、私を射抜く。
『この男、かなり出来る』
『ジェイに次ぐ、強さだよぉ』
セッカとナナが威嚇している。私も二人と同意見だった。
「……同意してここに来たけど、この体勢には同意していない」
私は正直に答える。
「なるほど……分かりました。陛下、お戯れが過ぎますよ。未婚の女性に対してとる態度ではありません」
騎士に注意され、ジェイは渋々、本当に渋々私を床に下ろす。しっかりと腰に巻き付いていた腕が外された。てっきり逃げると思っていた私が逃げないのを、ジェイは不思議に思っているようだった。
「……ジェイって、王様?」
私はジェイの顔を見上げると尋ねた。その声は自信なさげだ。
「聞いてなかったのか? てっきり、聞いているとばかり思っていたが……」
そう言いながら、ジェイは視線をシュリナに移す。私もつられるように、視線をシュリナに向けた。
「言ってなかったか? 加護を与えておると言ったであろう」
姿を隠すことなく、シュリナは部屋に備えられていた果物を、また勝手にモグモグと食べながら答える。
確かに、シュリナはジェイに加護を与えていると言っていた。それにジェイは、シュリナを赤竜の子供ではなく、五聖獣の一角だと知っていたが。
だからといって……
「それで、分かるわけないでしょ!!」
私は思わず、シュリナを怒鳴り付ける。
そんな私とジェイの様子を、少し離れた場所で、中年の騎士と若い男性が見ていた。
あれ?
一人増えてない?
お待たせしました。
次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




