〈第二十三話 報告〉
「再度、来てもらって悪いな、ムツキ」
最初に口を開いたのは、ギルマスではなくジェイだった。
(シュリナの言う通りだったね)
敢えて口には出さない。ジェイがシュリナの加護を受けていることは、口外すべきことではないと判断したからだ。
……それにしても、さすが、ジェイさんだと思う。
魔力を持つ者が少ない人族が、魔法を、それも最高ランクに近い転移魔法を習得していることに、私は感心する。でも考えてみれば、ジェイもまたゴールドカードの保持者であり、ギルド本部のギルマスなのだ。当然といえば当然なのかもしれない。
少し、余所事を考えていたが、直ぐに気持ちを切り替える。
「いえ、私もギルマスとジェイさんに報告したいことがあったので、丁度よかったです」
早速、私は切りだす。
「報告?」
ジェイが訊き直す。ギルマスは口を挟まない。
「はい。単刀直入に言います。シルバータイガーですが、あの四頭は誰かが契約を交わした魔物です」
私は少し声を低くし告げる。
「……それは、間違いないんだな」
ジェイは眉をひそめ確認する。ギルマスは一瞬驚愕の表情を浮かべるが、直ぐに険しい表情を浮かべる。
「間違いありません」
私ははっきりと答える。
「そう断言出来る根拠は?」
「見たからです。紫がかった黒い色をした契約紋でした」
「なるほど。……ムツキ、お前には見えるのか?」
「はい」
通常、契約紋は肉眼で見ることは出来ない。
いわば、契約紋は真名と一緒だ。故に、知られるのを尤も嫌う。だからこそ契約紋は、誰にも見られないように隠匿されるのだ。それを見ることが出来るのは、契約を交わした双方よりも高い魔力を有する者だ。なので、パーティー全員見ていた。
「確かに、ムツキの魔力ならば、見ることも可能だな。しかし、その色は……」
そう呟きながら、考え込むジェイ。
「おそらく、呪いだと思います。これは私が言ったことではなく、赤竜が言ったことですが」
私はシュリナの名前を出さずに、赤竜と言った。これで、ジェイには通じるだろう。その言葉の重みも。
「呪いだと!!」
そう大声を上げたのはギルマスだった。ジェイは黙ったままだ。おそらく、ジェイ自身もそう考えていたのだろう。
「それを踏まえた上で、気になる点が数点あります。まず一つ、四頭のうち一頭がSランクに進化する一歩手前でした」
ギルマスとジェイが息を呑むのが分かった。
「それが意図したものかどうか。……地脈エネルギーが活性化した時期を狙ってなのか。そしてーー愉快犯なのか。それとも、計画的なのか。……ただ、分かっているのは、それは誰かが意図的に、それもかなりの悪意を持って、魔物を放ったということです。……どちらにせよ、到底許せるものではありません」
一言、言葉を発するごとに、怒りが湧いてきた。と同時に、私は低く淡々と述べる。それだけ、怒りが深かった。
「ムツキ。怒っているのは分かったから、少し魔力を抑えろ。周りを凍りつかす気か」
苦笑を浮かべたジェイが、私を注意する。
その時になって、私は気付いた。ジェイとギルマスの吐く息が白いことに。
「えっ!?」
私は呆然とする。何が起きたのか分からない。
「今まで、こんなことなかったからね」
「そうですね」
「これぐらいのことで魔力を放出するとは、修行が必要だな」
仕方ないと言う、ココとサス君に対してシュリナは違った。両肩に肩車のようにシュリナは、座ると、私のこめかみをペシペシと叩きながら言う。痛い! 皆の台詞に、私の気持ちも和らぐ。
「暑かったから、丁度よかったけどな」
「それだけ、この村を思ってくれたことに感謝する」
ジェイとギルマスは微笑んで許してくれた。
◇◆◇◆◇◆
「それにしても、驚いたよ。彼女の聡明さと観察力に」
二人きりとなったマスター室で、ギルマスは率直に感想を述べる。
「なかなかの逸材だろ。俺が見込んだことだけはある。それに、すっごく可愛いしな! ギルマスを二人前にして、臆せず、自分の意見を言うところなんて、流石じゃないか! そう思わないか?」
ジェイは自分が誉められたかのように喜ぶ。
ギルマスはその姿を見て苦笑する。自分の親友といい、目の前のこの男といい、全くいい年をした大人が子供相手にと思うが、仕方ないことだと割り切る。それだけ、あの子供に魅力があるのだからと。まぁ自分としては、あと三、四年ほど育ってくれた方が、食いごたえがあるのだが。
「確かに、そう思いますよ。……それで、どうする?」
そんなことを考えているとは、おくびにも出さずに、ギルマスは言葉を返す。
「決まってるだろ! ギルドに喧嘩を売ったんだ。きっちり買ってやるよ。きっちりとな」
「そうですね」
ギルマス二人がニヤリと笑った。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
今回でホムロ村編終了です。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




