〈第十九話 茜色に染まりかけた空を見上げて〉
土壁が消えた瞬間、私は【ウィンドボール】を放った。
ほぼダメージを負っていない二頭のシルバータイガーは、その攻撃を簡単に避ける。だが、瀕死な状態だった一頭は逃げ遅れた。逃げようとしたが体が動かなかった。
【ギャウン!!!!】
断末魔の叫び、最後の鳴き声が山に響いた。
シルバータイガー(A)の体が宙を浮く。裏側のお腹の部分が露になった。
……ん? 何?
目の端に何かが映った。一瞬、意識がそこに移る。
「「ーー!! ムツキ!!!!」」
上空から私の名前を叫ぶ、シュリナとココ。
ーー避けきれない!!
私は咄嗟に、マジックバリアを張った。ドーンの森でアンリが見せた後方魔法だ。
交差させた腕の前にマジックバリアを張り、体を横に捻りながらシルバータイガー(C)の攻撃を受け流す。後ろの大木の幹が深く抉れた。その抉れた痕は、四本の爪痕だった。
(ーーサス君が放つ、風爪に似てる)
【ステータス】を覗いた時には載っていなかった。
固定スキル? ……これが、変異種の本当の力かもしれない。このままこの魔獣を放置したら、進化し、新たなSランクの魔物が誕生するかもしれない。底知れない不気味さが、この魔獣にはあった。
体勢が崩れた隙をついて、シルバータイガー(C)は私に襲いかかってきた。
サス君はもう一頭の相手をしてて、私の側に近寄れない。
(今度は、私たちがバラけさせられたみたいね……)
頭がいい。魔獣なのに、連携がとれてる。そういえば、始めからそうだった。
『『主!!!!』』
双子の焦った声が聞こえる。
私はフッと笑うと、自分の真横に三メートル程の土壁を作った。
激突する音は聞こえない。当然だ。この魔獣は小物じゃない。
おそらく、その土壁を越えてくるーー
(上から!!!!)
顔を上げると、シルバータイガー(C)が、私の頭がすっぽり入るだろう大きな口を開け、襲いかかってきた。私めがけてーー
私は後ろにジャンプし下がると同時に、シルバータイガーの太い前足が地面につく。
その瞬間。
シルバータイガーの着地地点に、土で出来た罠が出現した。
先が鋭く尖った杭が、シルバータイガーに襲いかかる。
いくら、魔法攻撃や物理攻撃の耐性が高くても、その罠を回避することも、無傷で抜けることも、まず不可能だ。魔獣自身の体の重みが、杭の威力を最大限に引き出すからだ。
深々と突き刺さる土の杭。
【グルルルル】
唸る、シルバータイガー。
土の杭に貫かれながらも、闘争本能は一切消えていない。それどころか、増している。
一歩、太い前足を前に出す。
ーー無理矢理、杭を壊すきなの!?
その異様な迫力に、私は呑み込まれそうになった。
その時だった。
『『ムツキ!! しっかりしろ!!』』
『『主様!!』』
頭に響くシュリナとココ、そして双子の声。その煩さに、私は自分を取り戻す。
「ムツキ。赤魔法を使え!」
耳元でシュリナの声がした。念話ではなく、直に聞くシュリナの声だ。いつの間にか、足下にはココもいる。
「危ないじゃない! こんなーー」
「今は、そんなことを言っている場合ではない!! ムツキ、赤魔法を使え!」
私の台詞を遮り、赤魔法を使うように、再度シュリナは言う。
「赤魔法って、あれは……」
私は言い淀む。
ーー【赤魔法】
炎系の魔法の中で、最強の威力を放つ伝説級の魔法だ。
シュリナと契約を交わした時、私はこの魔法を習得した。
だけど、私は一度もこの魔法を使ってはいない。使う機会がなかっただけだが、実は内心、使いたくなかった魔法だった。初歩魔法で中級魔法以上の力を発揮する。なら、最強魔法を唱えたらーー
「我を信じろ!! 周囲には我が結界を張っているのだ。火事にはならぬ! それとも、ムツキは我を信用出来ぬか? 我を嫌うか?」
真剣な顔で、そしてどこか悲しそうに、シュリナは問いかける。
シュリナを信用しない? シュリナを嫌う?
そんなことは、絶対にあり得ない。
「シュリナ、思いっきりいくからね。フォロー宜しく! ココ、シュリナの側にいてね」
私は握っていた双刀を鞘に収める。そして、目の前の敵を見据えた。
その間も、シルバータイガーは、私が仕掛けた罠を力ずくで解除しようとしている。血が地面を赤く染めながら。
『……分かった。我に任せろ。ムツキ、赤魔法は通常の魔法とは違う。具現化出来る魔法だ』
『具現化?』
『そうだ。剣を想像すれば剣に。ダカーを想像すればダカーに、具現化出来る』
想像ーー
私が今欲しいのは……あの魔獣を切り裂く刀が欲しい!!!!
『『主様!!』』
双子が叫ぶ。
私の両手が炎に包まれたからだ。全く、熱くない炎。
炎は双刀の形へと変化した。
ーー燃え上がる双刀。
『セッカ、ナナ。行くよ!!』
『『はい!!』』
双子の明るい声。
私の目の前には、罠を完全に解除したシルバータイガーがマズルに深い皺を寄せ、今まさに私に襲いかかろうとしていた。シルバータイガーの後ろ足が地面を蹴る。
迫ってくる、シルバータイガー。
私は具現化された炎のダカーを握り締めた。シルバータイガーの牙と爪を右に避けながらかわすと、同時に左手のダカーで上から切りつける。ほんの少し切りつけただけだった。しかし、炎の刃はシルバータイガーの体を真っ二つに切り裂いていた。
瞬時にシルバータイガーの体は青白く光り、地面に大きな魔石が落ちた。
その魔法の威力のすごさに、私は目を見開く。だが直ぐに、私は現実に戻った。
「ーーサス君は!?」
私は後ろを振り返る。そこには、自慢の銀色の毛を所々真っ赤に染めたサス君が立っていた。シルバータイガーの姿は見えない。サス君が倒したのだろう。それよりも。
「サス君!! 怪我したの、大丈夫!?」
私は駆け寄って、サス君に飛び付いた。
「私は大丈夫です。たいした怪我はしていません。それよりも、睦月さんこそ大丈夫ですか?」
こんな時も、サス君は私の心配をする。
「大丈夫。皆が助けてくれた。サス君も……」
私はサス君に抱きつきながら、回復魔法をかけた。
サス君の柔らかな毛を頬に感じながら、私は空を見上げる。陽が落ちかけている空は、うっすらと茜色に染まりかけ、その空気はとても澄んでいた。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m
ホムロ村は後、数話続きます。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




