第八話 銀色の冒険者
この世界に来て、二日目。
今日も快晴だ。
夜遅くまで、師匠がくれた手引き書を読んでいたので、とても眠い。気が緩んだら、欠伸が出そう。
はじまりの町と呼ばれている〈グリーンメドウ〉は、朱の大陸の中でも外れ、外界よりに位置している。
朱の大陸が他の四大陸に比べ、南に位置しているからなのか、春の半ばなのに薄手のシャツ一枚だけでも汗ばむ陽気だ。だから、カーキ色の半ズボンでも全然寒くない。靴は半ズボンと同色のブーツ。昨日、ジュンさんが買ってくれた洋服だ。思いの外体にピッタリで驚いた。
これも読んで知った事だが、一応、この世界も常世や日本のように季節が存在するようだ。
一年の日数も、ほぼ常世と同じ。時間の流れも大して変わらない。という事は、日本は五倍の早さで時が進んでいる事になる。もう帰るつもりがないから関係ないけどね。
私は欠伸を噛み殺しながら遅めの朝ご飯を食べると、ギルドに顔を出す事にした。ココも一緒だ。
勿論、職種を登録するためだ。登録して、初めてハンターとして正式に認められ仕事が出来る。
ギルドに持ち込まれた依頼をこなしながら、実際に魔物を倒して、その魔物が落とした魔石や、牙、毛皮などのドロップアイテムを売って、生計をたてるのがハンターだ。
早く仕事をこなして、ジュンさんに宿屋の代金を支払わないと。ギルドが用意してくれた準備金からの支払いは認めてくれなかった。それはあくまで、ハンターの仕事をするための準備金。宿屋の代金は含まれていないって。
そう言われたら、折れるしかないよね。正直、凄く有り難い申し出だと思う。ジュンさんは甘えていいって言ってくれてるけど、物事には限度があると思うんだ。だから、早く仕事を始めたいと考えていた。ので、早速、次の日にギルドに来た訳。
(う~ん。やっぱり入るのはね……)
二度目だけど、二の足を踏んでしまう。
メルヘン過ぎるんだよ。でも慣れてるのか、がっしりとした体型のおじさんたちが普通に入って行く。慣れって恐ろしい。
しょうがない。私たちも行こうか。私はサス君とココを抱き上げた。
「すみません。職種の登録に来たんですが……」
ギルド内は大勢の人でごった返していた。サス君とココを抱えて正解だね。私は係員を掴まえて尋ねた。
案内された場所に行ってみると、そこには登録を待っているハンターの卵たちが行列を作っていた。
サス君とココを抱いたまま、私は最後尾に並び順番を待つ。
「睦月さん、本当に冒険者に決めたんですね」
サス君が周囲に聞こえないように、声を潜め気を配る。
サス君的には、私が冒険者になるのが嫌らしい。昨晩も、それとなく違う職種を選ぶように言われた。
まぁ、何となくだけどその気持ちは理解出来る。一応主である私が、初級クラスの職種の中で最低ランクの職種に敢えて就こうとしてるんだから、内心複雑なんだろう。中級ランクの職種、もしくは中級職に繋がる初級職を選んで欲しかったようだ。
でもね……考えた上で決めた事だから……ここは、折れるつもりはなかった。
「うん! 決めた」
「……そうですか」
「サスケ、ほんとしつこい」
明るく答える私に比べて、サス君の返事はやや暗めだ。ココは呆れている。
確かに今の私のステータスなら、中級職に就く事は可能だ。中級職の冊子も貰ったし。でも、私は初心者だよ。全くの。
同じ初心者でも、この世界に生まれて、この歳まで生きて来たのならまだマシかもしれない。
魔物という存在を常に身近に感じていたなら、多少は変わっていたかもしれないと思う。でもね、私は幸いにも、魔物が存在する世界に生まれなかった。そんな超初心者が、いきなり中級職に就いて大丈夫な訳がない。
ましてや、戦い方一つ教えてもらってないまま放り込まれたのだ。ここ、特に重要。
多少、魔力を身体的強化に使えるようになっただけで、それもスムーズに出来るかと問われれば、NOって答えるレベルだと思ってる。
冒険者は色々おいしい職種だ。
だけどそれ以外に、超初心者の私が冒険者で修行するのは、ある意味当然だと思えた。その結果、少しステータスが下がる可能性があっても仕方ない。
「あのね、サス君。私は何も知らないの。この世界の事も、戦い方も。だから、今は色んな事を学びたい。ただ、レベル十五を目指すだけじゃなくて、どうしてこの世界だったのかも考えたいと思ってる」
それが、正直な気持ちだった。
我が儘かもしれないけど、サス君には応援して欲しい。大切な仲間で家族だから。
サス君の真っ黒な澄んだ目が私をジッと見詰める。私はその視線を受け止めた。ココは黙って、私とサス君のやり取りを見守っている。少しの間の後、サス君が溜め息を吐いた。
「……分かりました。そこまで深く考えていたなんて……応援します、睦月さん」
その声はとても優しかった。
「よかったね。ムツキ」
「うん!!」
私は嬉しくて、サス君とココの背中に顔を埋める。
癒される~~。
サス君とココとじゃれ合ってると、いつの間にか順番が回ってきた。
「次の方どうぞ」
「はい」
私は係員の前に立った。
「お待たせしました。それでは、職種の登録をします。ハンターカードをこちらに」
私は言われるままカードを渡した。係員はそこに書かれたステータスを見て言葉を失う。
「……あの~、口が開いてますけど」
綺麗なお姉さんが口開いたままはちょっと駄目でしょ。
私の事を知ってたのかな、係員は私の顔をマジマジと見詰める。穴が開きそうだ。しかしすぐに、仕事の顔に戻る。プロだね。
「希望する職種は何ですか?」
「冒険者でお願いします」
私は即答で答えた。
「…………」
「冒険者でお願いします」
無言の係員に、私はもう一度同じ台詞を繰り返した。
「…………本当に、冒険者でよろしいんですか?」
再度、係員は確認する。
「はい」
私の意思が固い事を知ると、係員は渋々職業の欄に冒険者と書き込んだ。
書き込んだ途端、カードが一瞬だけ光る。
光が治まると、出身地や名前が書かれた欄の横、空いたスペースに私の似顔絵が添付されていた。
(凄い!! 似顔絵のレベルじゃない!!)
写真に近いけど、絵だ。凄い、正確に描かれてる。
でもこれで、私は正式なハンターになった。
「ムツキ=チバ様、おめでとうございます。いつでも転職出来ますので、その際は気楽に声を掛けて下さい」
やっぱり転職という言葉を強調して、係員は私にハンターカードを返してくれた。私は「ありがとうございます」と答えて、カードを受け取る。
(ん? あれ?)
「あの……」
「何ですか? 転職ですか?」
いやいや。今、職種を登録したばっかりですよね。そこまで、転職を勧めますか? にっこり微笑まれても、転職はしないから。それよりも、今気になるのはハンターカードの色だ。
「ブロンズじゃないんですが……」
うん。どう見ても、私が受け取ったハンターカードはブロンズじゃなかった。
ハンターカードは職種によって、クラス分けされている。
初級クラスはブロンズ。中級クラスはシルバー。上級(S級)クラスはゴールドっていう風に。
当然、初級クラスの中でも最低ランクの職種に就いた私は、ブロンズの筈。なのに……。
「ああ。その事ですね。確かに、職種によってハンターカードはクラス分けされていますが、稀に例外があります。ステータスの高さと職種が比例しない場合は、ステータスを反映したクラス分けになります」
係員はにこやかな顔で説明してくれた。
「おめでとうございます!! ムツキ=チバ様。シルバーカード取得です!!」
係員の声に、周囲から歓喜と歓声の声が沸き起こった。
書き方を少し変えてみました。
気付いて頂けると嬉しいです("⌒∇⌒")
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、頑張って加筆修正するぞ!!