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〈第十五話 ココは静かにキレていた〉

 


 ーーホムロ山。



 朱の大陸の中で一番高い、標高千五百メートル程の山だ。ただ、大陸を隔てる岩山は別として。



 私たちが今目指している源泉は、地図で確認すると、三分の一ほどの標高のところだ。一応歩き易く舗装はされているが、むき出しの大地に岩がむき出しで、ゴツゴツとして歩きにくかった。ここを歩くのは、村人ぐらいだから仕方がない。



 王都バーミリオンに行くには、ホムロ山を登らずに、周囲を迂回するルートをとる。



 森林や山などは、魔物が平野に比べて多く出没するし、強盗なども出没するからだ。多少の遠回りをしても、安全を優先するのは当たり前だと思う。



 なので、ホムロ山は村人しか歩かないし、それもよっぽどでないと歩かない。まぁ、動物などを狩る狩人などは山に入っているけどね。流石に、今日は入っていないと思うけど。



 入ってないはずだよね……



 私は充満する鉄分の強い匂いに顔を歪める。



 前方の窪んでいる場所に、大きな血溜まりが出来ていた。ハエがたかっている。



 狩人じゃなかったら、まだ下山していないパーティーの誰かかもしれない。



 道の脇に生えている草の葉に赤い模様がついていた。まだ乾ききってない。地面を見れば、何か大きなものを引きずったあとがあった。獣臭い匂いも、鉄分に混じって匂う。




 私は双刀を抜く。緊張が走った。



『セッカ、ナナ。頼むね』

 私は双子に声を掛ける。



『『はい! 主様!!』』



 元気よく返事する。私はその声を聞いて苦笑した。だってその声音は、あまりにもウキウキしていたから。



 サス君は私たちの周囲に張っていた結界を強固にする。



 何を引きずって行ったか、確認をとる余裕は正直なかった。



 人かもしれないのなら、確かめに行くべきかもしれない。もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。血の量から考えたら、その可能性は低いが。だけどーー。そんな考えが頭を過る。私はその考えを必死で打ち払った。



 噛み締めた唇に血がにじむ。



 今、道をそれるわけにはいかない。



 残された時間も。



 道に迷っている時間もないのだ。



 薄情だと、自分でも思う。それでも自分たちは、今は先に進むしかないのだ。



 やりきれなさと、罪悪感で圧し潰されそうになりながらも。



 源泉が湧いている所まで、後、百メートル程。



 平坦な道なら走れる距離だが、岩がゴツゴツとむき出しになった箇所を、それも坂道を走るのは無理がある。といって、立ち止まるのも危険。だとしたら、周囲に神経を張り巡らしながら、一歩ずつ登って行くしかない。



 人が三人ぐらいしか通れない幅の道をだ。



 私たちは一列に並んで進む。



 ……下手な、お化け屋敷よりドキドキする。



 緊張のせいか、冷や汗が頬を伝う。



『主様、大丈夫です。私もナナもついてます!』

『あたしも、一緒だから大丈夫!!』



 セッカとナナが、私の緊張を少しでも解すように声をかけてくれる。



『ありがと。セッカ、ナナ』



『『エヘヘ』』

 照れ笑いする、セッカとナナ。



 その時だ。



「ムツキ!! 五メートル、右斜め先だ!!」

 シュリナの鋭い声が和んだ空気を打ち消した。



 と同時に、ガサッという音がした。



 ーー次の瞬間、大きな獣が襲いかかってきた。



 魔法を繰り出す時間はない。



 あの時と同じだ。自然と体が動く。



 ううん、違う!!



 前以上にしなやかに体が動く。シンクロっていうのかな、意識が共有している感じが強い。前はそんなことはなかった。あの時は、私の意識は蚊帳の外にあった。今は、はっきりと周囲の音も聞こえるし、目でも追える。先が読める。読んだと同時に、体は動いていた。



 すごい!!



 これが霊刀の力ーー



『違いますよ。主様の力です。私たちは、それを引き出しているだけ』



 そうセッカが言った時、私は左手のダガーで獣の首筋を血管ごと切り裂いていた。そして、膝を折って倒れたブラックウルフの視界から外れると、私は右手のダガーで止めを刺した。



 青白く発光し消える、ブラックウルフの体。



 私がフゥ~と息を吐き出した時だ。



 ダンッ!!!! 



 という、何かが落ちたような、大きな音が背後から聞こえた。



 弾かれたように後ろを振り返ると、もう一頭ブラックウルフが、体から煙をだして横たわっていた。



「怪我はありませんか!? 睦月さん!!」

 サス君が私を見上げ、心配そうに訊いてくる。



「…………ありがとう、サス君」

 何とか出したその声は、とても小さかった。



「我にはないのか?」

 ショックから立ち直っていない私に、シュリナが訊いてきた。



「えっ! あっ……ありがとう。助かったよ。でも、よく分かったね」



「当然だ。周囲五十メートル範囲に、探知魔法をかけておいたからな!」

 自慢気にシュリナは言う。



 はい!?



 探知魔法って、今言いました? それも、五十メートル範囲に張ってるって。



 私はシュリナの脇腹を両手でガシッと掴むと、力一杯横に引っ張った。



「はぁ~~!! 探知魔法張ってるんだったら、前もって言いなよ!! すっごく、ドキドキしたじゃない!! 緊張したでしょ!!!! ーー痛っ!」



 猛烈に怒りが湧いた。緊張した分、ものすごく怒りが湧いた。シュリナが五聖獣だってことが、どこかに吹っ飛んだ。私はシュリナを怒鳴り付ける。



 怒鳴り付けていたが、急に鋭い痛みが足首にした。怒鳴るのを一旦止めて、視線を下に向けると、ココが足首をガブッと噛んでいた。



「ムツキ、うるさい!」

 ココが静かにキレていた。



「すみません」

 その迫力に圧倒されて、私は素直に謝る。



 でも、シュリナを放せとは言わないんだね、ココ。






 お待たせしました。

 遅くなってしまい、本当にすみませんでしたm(__)m


 最後まで読んで頂き、ありがとうございます。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪



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