〈第十四話 作戦会議〉
「山に入ったのはいいけど、無暗に歩くと時間の無駄だよね」
私は地図を見ながら呟く。
補整された山道を少し上ったところで、私たちは作戦会議をひらいた。
出来れば、陽が暮れる前に決着をつけたい。残された時間は五時間程。広大な山の中を計画も無しに歩くことは、時間の無駄だ。それに、五時間以上掛かるのは目に見えている。その隙に、シルバータイガーに村が襲われたら……。最悪の結果になる。一瞬、眷族の里が襲われた光景が脳裏を過った。
「疑問に思ってたのですが、どうして、シルバータイガーはAランクに上がったんでしょうか?」
戦闘体勢に変化したサス君が口を開く。
「そうだよね。通常、シルバータイガーは、いってBランクの魔物。Aランクはすっごく不自然だよね」
ココもその点には疑問を持っていたようだ。
間違いなのでは、という考えは私たちにはなかった。ギルマスがAランクだと断言したのだ。はっきりと。
「変異種でも?」
私は尋ねる。
「変異種ねぇ~~。普通、よほどのことがない限り変異しないよ。それも、五頭全部って、まずあり得ない」
ココは全否定する。
だったら何故、五頭全部がAランクに?
確か……変異種とは、個体が進化したことだ。変異に関しては今だ謎のまま。何がきっかけで、何が原因で起こるか分からない。ただ、変異種は、通常の魔物より遥かに強いことだけは明らかだった。有名なのが、この前私が倒したブラッキッシュデビルだ。元は、ブラックウルフの変異種だった。
「……おそらく、地脈のエネルギーを取り込んだのだろう」
黙っていたシュリナが答える。
「「地脈のエネルギー……」」
「ーー!! なるほど!! 地脈のエネルギーかぁ~」
ココだけが理解出来たようだ。
「我が目覚めたことで、この大陸は活性化した。その弊害か……」
シュリナは遠い目をしながら呟く。
弊害?
その言葉が妙に引っ掛かる。
「活性化することは、良いことじゃないの?」
「良いことだよ。土地が豊かになるからね。豊かになるってことは、そこに住む者全てにとっても、幸せなことだからね」
そこに住む者全て? そっかぁ!! 恩恵を受けるのは、人間や植物だけじゃないってことだ。当然。
「魔物も?」
「そうなるね」
メリットが大きければ、それだけもデメリットも大きいってことか……
「となると、シルバータイガーが何処を拠点にして行動しているか。……分かりませんか?」
サス君には分かったようだ。私とシュリナ、そして私の肩に掴まっているココを見上げ、答えを促す。
地脈エネルギーが地表に出ている場所。つまりそこはーー
「「温泉の源泉!!!!」」
「温泉の源泉か!!」
私たちは同時に声を上げた。
私は地図を広げる。
温泉の源泉が湧きあがっている場所。
「あった!! でも、三か所あるよ」
明るかった声が、途端に暗くなる。
三か所は回りきれない。一つに絞り込まないと……。ここで間違うわけにはいかない。
「それに関しては心配ない。シルバータイガーのいる方向なら、我には分かる」
そう言うと、シュリナは短い腕をある方向に伸ばした。
私はコンパスで、シュリナが指差す方角を確認する。
東の方角……
地図を確認すると、ここから東の方角に温泉の源泉があった。
「ここね!!」
行き先は決まった。ここからそう遠くない。私は地図をしまう。
「簡単に行かせてくれなさそうだな」
シュリナがため息混じりに呟く。
その言葉と同時に姿を現す、二頭の魔犬。マズルに皺を寄せ、私たちを威嚇する。鋭い牙。口の端から滴り落ちるよだれ。セントバーナードぐらいの大きさだ。魔犬にしては少し大きい。地脈エネルギーの影響を受けてるのかもしれない。
迫力満点だ。
しかし、私たちに焦りは全然ない。
「そうだね」
「そうですね」
ココとサス君がめんどくさそうに答える。
そして私は、何事もないかのように平然と言い放つ。「さっさと終わらせよっか」と。
チクリと胸に刺さる小さな棘の痛みを感じながら。
私は声に出さずに『ウインドボール』と唱えた。
突然現れた刃が魔犬を切り裂く。呆気なく、その場に崩れ落ちる二頭の魔犬。ピクとも動かない。青白く光る魔犬の体。
さて、魔石とドロップアイテムを回収したら、山登りだ。
お待たせしました。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




